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Planadorさんのふゆから、くるる。の長文感想

ユーザー
Planador
ゲーム
ふゆから、くるる。
ブランド
シルキーズプラス
得点
75
参照数
1004

一言コメント

確かにこれは四季シリーズの一員だ。だけど本作は、四季シリーズから半端マニア時代の作品までの要素を取り入れ、ひたすらにSFを描くことに特化している。そしてそのテーマのモチーフは、仏教でも宇宙でもなく、また別の物から来ているのではないかと、そう思うのだ。長文はそのモチーフについて。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 四季シリーズ最終作としてあきくるから五年の時を経て発表された本作。まずは四季シリーズの完結おめでとうございます。あきはリアタイだったので五年待った甲斐がありました。
 そして本作は、四季シリーズの総まとめに留まらず、ファッキン同人時代の半端マニアソフト時代の作品にも通じる、一作でわかるファッキンとも呼べる作品に仕上がっていたように思います。

 本作が一番作中テーマやアプローチが近しい過去作は間違いなくはるくるでしょう。
 ただ、本作は少なくともはるくるとはアプローチが違います。確かにストーリーラインは近しいところがありますが、アプローチのきっかけは完全に真逆。
 一言で言うならば、はるくるがSFを下地にして仏教説話的なことを描いたなら。本作は仏教要素を下地にしたSFです。

 と、ここで本作のOPムービーの冒頭を見て頂きましょう。針がゆっくりと下から上にかけて下部を左右に揺らしながら進んで……針が下部を揺らす? というより、あの動きはそれこそ……。

 はい、OPムービーの冒頭の針っぽいもの、あれは直球で言えば精子です。先に一言感想の結論を言うならば、本作のモチーフは精子と卵子となります。
 ところで、精子はなんのためにあるのでしょうか? 言わずもがな、女性を妊娠させるために、男性が女性の膣内に出すものです。比喩でもなんでもなくエロゲとは九分九厘切り離せないもので、ある種これをいっぱい出すために作られているのがエロゲです。
 少々科学的な方向に話の舵を切りましょう。精子とは、頭部に男性側の核DNA(遺伝情報)を乗せたものですが、尾部の軸糸は膣内を泳ぐためにゆらゆらとゆらめいています。

 ここで、人間の女性が妊娠に至るまでの流れを考えてみましょう。ここでは健康的な肉体であることが前提、また体外受精などの人工的な受精は考えないものとします。
 まずはここを読む人ならみんな大好きセックスですね。最近のエロゲは選択肢がなければ中出しが多くて外出しも減りましたね。某先生は外出しの方が見栄えがよくて好きと仰ってたなぁというのは置いといて。
 で、避妊をせず、普通に中出し(膣内射精)をしたとするならば、数億個の精子が膣内に放出されます。向かう先は女性の卵巣、卵子です。
 しかし、女性の膣内分泌液が精子を襲います。分泌液は酸性であり、精子を無力化させていきます。要するに女性側の免疫反応ですね。精子は受精に必要なものですが、母体からすれば異物であることには変わりなく、精子を死滅させようとします。実際ここで半分以上の精子が脱落します。
 それでも残った精子が卵子に向かって泳ぎ続け、遂にはその内の一つ、数億分の一の精子が卵子に辿り着いて受精に至るわけです。その一つが辿り着くために、数億の精子が射精の度に放出されるわけです。

 ここでふゆくるに話を戻して、ふゆくる内で明かされた真実を振り返ります。
 本作のキャラは全て黒い針に意識が乗った遺伝子情報です。そして黒い針は船と呼ばれ、女子一人分の脳情報が入っている、と月角島は明かしています。
 そして、人類はこの針を大量に宇宙に放った、としています。尚、針を放った人類の生息は不明です。そして約束の地、補陀落山を目指して宇宙の旅を続けています。

 ――ここまで話せばお気付きかと思いますが、人間の体内受精に至るまでの流れと本作の真実、まるで近しいんですよね。
 確かに、カーネーションだとかの仏教要素ははるくる初出ですし、マグネターを通過することなどによる針の世界内での四季の巡り等は本作独自のSF要素です。ですが、針自体が精子の暗喩であるだろうことを考えると、恐らくこれらは全て後付けです。
 ですので、人間の肉体が宇宙に適さないから針を宇宙に放った、とのことですが、本作のモチーフとしては実際は逆で、膣内に射精をすることがモチーフとして先にあって、その上で宇宙空間の云々を擦り合わせたのではないでしょうか。
 その上で、針という精子が、補陀落山という卵子に至るまでという物語であると、そう思うのです。モチーフについての考察は以上となります。

 では、本作で女子しかいない理由について、同じような視点から併せて考えてみましょう。これは染色体が元であると考えます。
 有性生殖をする真核生物は全て染色体がありますが、人間に絞ると、男性なら染色体の並びはXY、女性ならXXとなります。そしてこれは、一対の常染色体が分化した際にY染色体があるかないか決まるものです。

 その上で、男性のみが持つY染色体ですが、永い時を経て劣化、最終的には遠い将来消滅するという研究があります。ただこれは、他の生物でY染色体がなくなっても雌雄の性別が保たれている例はあります。
 その後の研究で、Y染色体が劣化したからと言って男性そのものがなくなるわけではないとはされており、現在ではそちらが主流ではあるようですが、ここは生きている間にどうにかなるものではない且つ専門分野外なので置いとくとして。

 本作に話を戻して、本作同様に、実際に遺伝情報を宇宙に放つということがあれば、本作の展開通り女性ばかりになるのではないでしょうか。針の劣化という話が本作中でありましたが、これは恐らくY染色体の劣化の事を指しているのかなぁと。
 ともあれ、作中で女性から男性へと変わった各キャラは、精子に乗った意識という意味合いでも、あの段階で常染色体が分化して、Y染色体を持った存在になったと、そう解釈しております。

 余談ですが、本作の時系列は、今が2021年だとするならば、2017年に針が星へ辿り着いたという過去の話となります。ここはラストまで読み終わってから、本作冒頭の最初を読み返して頂ければそれだけでわかりますね。

 ということで本作、明らかにモチーフが男性が女性の膣内に射精してから、女性の卵子に精子が辿り着き、そして妊娠するまでの一連の流れであることを考えると、実も蓋もなくざっくりと言えば「エロゲで学ぶ性教育~座学編・実践編」という話です。
 てなわけで、自他共に認めるライターの愛称が「ファッキン執筆による、暗喩でファックを書いた物語」が本作評です。やっぱりファッキン、奇抜なアイデアからガチなもんをやってくれる! そこに痺れる憧れるッ! またそんな感じの話を宜しくな! 出来ればめっちゃ熱いの!

 ……この作品への祈りって、ぶっちゃけ立ち絵が三人分並ばないでくれっていう懇願だったよね。まぁこれは誤字訂正含めたパッチが出てくれたからひとまずはいいとしても。
 それはそれとして片方がふたなりちっくのセックスはやっぱり百合じゃないですかねファッキン……。