響け緋色の燃ゆる心――歪みを正すことで過去の、ひいては現代への歪みを矯正していく。これは、風見司という未来人と、大正を生きる人々の群像劇である――んですが、正直今回は過去二作(彩頃・あめぐれ)と比べて構成面でも帰結面でも賛否両論とはなりそうなところで。ひとまず構成自体は「半年以上タームのテレビアニメ」といえます。長文は過去二作含めたネタバレ前提で、主に構成面についての個人的見解。
冬茜トム先生過去作「もののあはれは彩の頃。」「アメイジング・グレイス」と比較して、正直今回は賛否が分かれそうな本作。で、実際私もどちらかといえば「否」のスタンスです。
というのも、氏の一番の強みは「一般常識を前提とした認識を覆す伏線」と「関連資料の深い解釈付け」なんですが、今作は前者が構成上の問題で、後者が「狭く深く」より「広く浅く」に舵を取っていたため、鳴りを潜める結果となっているためですね。
本作は基本的に「章毎完結形」という構成になっているのですが、これが原因です。というのも、伏線や各種関連事柄は、「物語自体の連続性」があって成り立つからです。
そういう意味では、構成的にはテレビアニメが一番近いです。テレビアニメと言っても深夜アニメとかではなく、コンシューマーゲームや少年誌等で連載している漫画のアニメ化といったような「一年単位で放送するテレビアニメ」的な構成です。
まず起承転結乃至序破急が話の大枠としてあるわけですが、それらの間に閑話休題が適宜入り込むという構成のことですね。これらを「単体」として見た際には、それらも間違いなく面白かったのは間違いありません。ただ、個人的、そうあくまで個人的には「物語の連続性」という観点からはしっくりこなかったというのも事実で。
なので、まずここが合わない人には合わないでしょう。個人的にはてんで最近アニメを見ず、こういった話の構成も駄目になっている自覚があったので、そういう意味でも厳しかったです。
半面、そういう途中全く別のエピソードを本筋の中に差し込まれるのが好きな人にはとても好きといえる構成になっていると思います。で、この構成だと何が強みになるといえば、各キャラの各種側面を映し出すことなんですよね。
そして今回はこれを生かすことにより、過去作にて弱いと言われていたヒロインとのイチャラブに厚みを出すことに成功しました。本作は過去作以上にその流れが重要視されています。ここはシナリオゲーというより完全にキャラゲーでした。
ただ、過程自体はそこまでみっちり書き込みがあるわけではありません。それを補って余りある効果を示していたのがキャラ立ち。特に遠子が顕著でしたが、初めて見る一面や司が知らない横顔等を映すことにより、「あぁこのキャラを攻略している」という感触がありました。
これは氏企画過去作品ではあまりなかったもので、流れ的には参加作品のマジチャ・φの方が近いように感じました。ともあれ、これがあったから、特にエロシーンが映えたんですよね。
特に本作、エロシーンが本編組み込み形であったので、そういう意味でも「イチャラブの連続性」がありました。
そのエロシーンですが、本作は一言でいうとヤバいの一言。氏のエロシーンの特徴として、「無垢な主人公orヒロインへの性教育からのドスケベ化」と「純愛ドスケベ」というのがあるのですが、本作は特に後者が最強。
過去作彩頃サイコロで、鬼無水みさきによる射精管理プレイとベッドヤクザ琥珀とありましたが、特に蓮の三つ目のシーンとか所長の三つ目のシーンとかではこれが悪魔合体。一言でいえばドM歓喜。
生憎、その辺りの趣向は言うて自分には合わないのでなんともでしたが、本作のシーンは過去作と比較すると尖った、もとい「特化」しているといえます。
と、過去作ではあまりない要素を軸に話を進めた上での冬茜トム節とも呼べる強みが生きる終盤パートに至るわけですが。個人的には、先述した通り「テレビアニメ的構成」が足を引っ張っているように感じました。伏線回収時の驚きが単発と化してるんですよね。
ですが、やはり仕込んでくる伏線自体は間違いなく一級品で、それは単独で考えても目を引ん剝くようなものです。「一般常識を前提とした認識を覆す伏線」はやはり単体でも強い。
というか、あらすじで「枝分かれする彼の運命がたどり着くのは、果たして令和か大正か」とか言ってる時点で完全にミスリードですよね。確かに令和に辿り着くかもしれないけど、「司が令和から来た」とは一言も言ってないわけでして。
流石に「右手の運動」がそういう意味だとは思わないでしょう。付随して「2020年は令和ではない」というのもですが。元の世界ではスカイツリーが背景にあるので完全に騙されました。ほんとこういう系の伏線は気持ちいいですね。下手すれば下手なエロシーンより軽く絶頂出来る(意味深)くらい。本当に嘘はついてないだけに、お前……お前……。
そしてそれを踏まえた上で点同士が繋がって面となり、ラスボスに立ち向かう様は彩頃サイコロに近いでしょうか。個人的には広がりすぎた分一部キャラ間で優劣が出てると感じたので、評価的には控えめに。
何より本作、終わり方が好きでした。最終的にはコペンハーゲン解釈により、所長ルート以外は全て亡きものとして扱われるので、各ヒロインとのその後を見たい人には中々辛い展開であるともいえますが、あれがあるべき姿でしょう。
如何せん、各ルートで縁を結んだからこそではありますが、ともあれ本作、終わった時の寂寥感に胸を締め付けることに特化をしております。司が帰ってきた未来は、当たり前ですが司以外の全員が死んでるわけですしね。
故に司の左腕とマリィが希望の象徴として輝くわけです。左腕が治っていたこと。マリィが司のひ孫としてそこにいたこと。戦災を乗り越え令和が平和な世界であったこと。
書き口的に、司自身は令和以降にて独身を貫くのでしょうね。個人的には誰かと恋愛してもとは思いますが、これは司が決めた道なので干渉しないとして。今は亡き最愛の人を常に想いながら、その足跡を辿るようにしてと。
過去、サイコロ60000字超、あめぐれ30000字超レビューは書いたものの。今回は関連史実・元ネタが軒並み作中で入っちゃってるんですよね。なのでわざわざ諸々解説することもなく今回は簡単に。
あぁ、「時間の矢」とか「ESPカード」等は1920年時点では存在しなかった概念・モノなので、どれが史実通りでどれが1920年に「混入」していたかは、調べてみると面白いと思います。今回は恐らく解説するより自ら調べてもらった方が楽しいと思うので。
正直いつも以上に不満も多かったです。それでも面白かった。個人的にはサイコロ・あめぐれ同様「物語の連続性」に特化したシナリオにまたしてほしいところではありますが、次回作も必ず買わせていただきます。
追記:令和帰還後の司とマリィの散歩二次創作書きましたのでこちらからどうぞ。「河津桜爛ロマンシア」https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14788540
風見司は確かに異物として大正期に放り込まれて、だけど関わった人々の心にきっちり爪痕を残して。それが故に、彼彼女らにとっても、風見司と関わった意味はあったのでしょう。
願わくば、風見司による二代目チェリィ探偵事務所が順風満帆でありますようと、それだけを願うこととして。
――届け 舞い上がる恋心 まばゆい光となれ