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PlanadorさんのEverett Efffectの長文感想

ユーザー
Planador
ゲーム
Everett Efffect
ブランド
Sapience
得点
80
参照数
355

一言コメント

BGM・SEなし、無数の選択肢、デフォルト設定なし本名推奨の主人公名――他作品と比較するまでもなく特徴的な本作だが、しかし本作以上に「ノベルゲーム」と呼ばれるべき作品は他にないはずだ。何より初回プレイ時に主人公に対し「自分自身を重ねる」ということの重要性こそが本作の意義だろう。その上で言うならば、本作は「ノベルゲーム的VR(バーチャルリアリティ)」である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

(完走の上ではなく、一周終わった段階での文章ですので、他ルートプレイ時に各種内容に齟齬が発生している可能性がある点をご容赦ください)

 早速ながら、本作は他のノベルゲーム各種作品と比較するまでもなく、とても特徴的だ。一言の方に上げた通りであり、プレイヤーはひたすらに無数の選択肢の中から一つ一つ進み、何かしらのエンドを目指していく。


一番の特徴が、数多の選択肢とそれが織りなす複雑なシナリオ分岐です。
心理学的類型論を参考にした独自の《シンクロシステム》によって、あなただけのひと夏の体験を実現します!
――以上@EverettEffect公式ツイートより


 一番の特徴と公式でも言っているが、これに加え、セーブポイントが限られており、選択肢毎にセーブすることは叶わない。
 そもそもセーブ可能数が100個であるが、エンドに辿り着くまでの選択肢だけで120はあり、そしてバッドを除いたメインルートが四つあることを考えると、選択肢毎のセーブが可能であったとしても全てをセーブすることは不可能だ。

 しかしながら、これは寧ろセーブが不自由であるからこその自由も生まれている。セーブをすることが出来ないなら、逆に自身の思う通りに進んでみるという一種の決意が発生する。
 この時点では、まだ多少なりとも主人公=「自身と同姓同名の男子」として鳥瞰的に物語を見ていたように思う。

 しかし、本作は序破急の「急」で突然「プレイヤーと同姓同名の他人の物語」から「プレイヤー自身の物語」に多少強引ながらも入れ替わる。
 勿論伏線はあった。本名推奨の主人公名、主人公が何か考えたり行動しようとしたりする都度現れる選択肢、何かが分岐したと思しき選択肢での選択肢と同一の主人公の同じ内容の発言。これらは、本作の根幹設定に密接に関わっているものであり、それらをシステムと絡めて繋いだ仕組みは成功しているように思う。
 ただ、個人的に着目しているのは、これまで重要なシーンで主人公とプレイヤーが「分離」することはあっても「同化」することは、知る限りでは殆どなかったという点だ。

 これまで、主人公とプレイヤーの関係性というのは、一致させることを基本的には前提としてこなかったように思う。
 古いエロゲでは、声がなかったからこそ主人公の名前をデフォルト以外にも自由に選択出来る、というようなのがあったが、あくまで主人公の名前をプレイヤー自身の名前に変えられる「だけ」のものであった。
 又、これまで主人公が「プレイヤー自身」→「プレイヤーとは別個の『主人公』」というような作品も散見された。これはあくまでメタフィクション的な話にはなるが、それが前提である且つ物語開始時点での「主人公」という存在が別途いて、その主人公は実質的に途中退場させられる、すなわち当初主人公と「思い込まされていた」キャラは蔑ろにされるのが常だ。
 そして一番重要なのは、本作でやっていることは、他作品ではヒロインを描くようなところ、本作は可能な限り「主人公」を描写していること。つまりプレイヤー自身を一つの作品が描くという、メタフィクションを通り越した「メタノンフィクション」をやってのけたのだ。

 また、ここでBGMやSEが一切ないというのも密接に関わってくる。主人公=プレイヤーであるからにして、BGMやSEはプレイヤー自身の空間の環境音乃至何らかの形で掛けている楽曲そのものとなるからだ。
 故に、ここの場面転換は、否が応にも主人公とプレイヤーが完全に同化する瞬間であり、それまでの選択肢を能動的に選んでいれば選んでいるほど、最高の没入感をここでは味わえる。

 しかしながら、朝宮化学賞の科学コンクールという「環境」という前提では、時にはプレイヤー周りの環境音や楽曲はその「環境」には一切合わない。グラビトン装置の中に於ける暗室がいい例で、完全な無音と文中であるものに少しでも環境音が混ざったらアウトである。
 そういう意味では、本作は他方で紛れもないフィクションとも化す。PCの前でかちかちと読み進めるプレイヤー周辺の環境音と、科学コンクールでの環境音が同一になるという矛盾。それはどう足掻いても作品からは切り離せない点であり、本作の「物語」そのものがフィクションであるという証左に他ならない。


 まとめると、本作は主人公=プレイヤーを段階を経て遂行した点に於いてメタ的なノンフィクションであり、環境音などの外部要因に伴う世界観没入の一種の阻害という点に於いてフィクションである。
 そういう意味に於いて、本作は「プレイヤーをフィクション世界に置換したメタノンフィクション」というのが正しいのではないだろうか。とどのつまり視覚に頼らないVR(バーチャルリアリティ)である。
 本作が明らかに一線を他作品と画しているのは、VR的体験をノベルゲームという媒体で行ったことだ。今年――2018年に入ってから急速にVR技術が発達したが、仮にVRを前提として話を作っていたとするならば、本作は2016年からの開発と、実に二年前からそれを想定していたということになるのだから恐れ入る。


 現時点では、四つあるというメインシナリオの内、先述の通りまだ一つしか終わっていない。だけど、他ルートをプレイする時のプレイヤーは、どう足掻いても「自身から外れた別個のプレイヤー像」としてやることを余儀なくされる。
 何故ならば、それは一回でも経過した選択肢を別に通過することは、最初に行った「自身の選択」からは必然的に外れるからである。「ノベルゲーム的VR体験」というのが揺らぎない本作評になるのは自明のことだが、これが可能なのは初回プレイの、一つのルートを完走するまでとなる。
 故に、本作で一番大事なのは初回プレイであり、初回プレイ時の感想こそ一番大事にしなければならない。本作が「ひとつひとつの選択を通して、主人公とあなた自身は深くシンクロしていく(本作パッケージ裏面」という、これ以上なく主人公=プレイヤー自身の作品であるからこそ。

 とにかく重要なことは、「本作の初回プレイで得られたルートの知見や感想は、絶対に他ルート並びに他作品等では代替しえない」ということだ。
 最後に書くのも何だが、この作品はネタバレ自体にあまり意味はないだろう。文字情報で無数の選択肢やそれに伴うノベルゲーム的体験などと並び立てたところで、この作品の真意を理解できるとは到底思えない。この作品程「百聞は一見に如かず」という諺が当てはまる作品もないし、故にノベルゲーを嗜む人であればあるほど、この体験を是非とも味わってほしいというのが本音だ。
 まずは自分の思うままに、メインルートの内の一つを、攻略情報等に縛られずに思ったままにプレイされることをお勧めしたい。そこから見えるのは、自身の選択であり、自身の経過であり、自身の物語である。


(他ルートも終えたら加筆があるかもしれません)