「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」である主人公が、ヒロインの様々な色を「心象スケッチ」する。そんな隙間なく裏打ちされたテーマと、言外には出さない設定を下敷きに、「恋愛日常」というタイトルをそのまま描いた、一切内容に偽りなしなイチャラブゲーの怪作。中でも実妹ルートは盛大にテーマへのアンチテーゼを行うことを両立させ、幼馴染ルートではド直球にテーマそのものに切り込んで来るという、ただのイチャラブとは到底言えない、カオスを綺麗にまとめた類稀なる作品です。最低でも幼馴染と妹の二つだけはやりましょう。長文最初はネタバレなしで、ネタバレで遙ルートと結花ルートのことを重点的に書いています。
自身初Parasolでしたが、TLで無自覚な布教を受け購入。たまにはイチャラブゲーするかーと思ってやり始めたらまさかこんな下敷きにした設定やテーマ考察出来る作品だとは思ってもみなかった。
一応最初に基本情報を少しばかり。
BGMは25曲(OPED挿入歌のinst曲除く)、内7曲は各キャラのテーマ曲になってます。各キャラテーマ曲が流れることがかなり多いのでその分少な目に感じるかもしれない。
一枚絵とシーンは差分抜きにして、一枚絵:エロシーン一枚絵:SD絵:シーン数の順に。
結花……9枚:10枚:4枚:6回
アリス……7枚:11枚:4枚:6回(共通での1シーン含む)
しずか……7枚:10枚:4枚:7回
遙……7枚:10枚:3枚:8回
他……1枚(集合絵):1枚(萌足コキエロ)
まぁまぁ多い方というか少なくはないというか。もう少し普通の一枚絵があってもと思いつつ、こんなもんだよねとも。けど攻略ヒロイン以外の絵が少なすぎるのがなぁ。
そんなこんなで本作、共通がすごい短いです。飛ばし気味にやれば二時間もかからないんじゃないかと。
まぁ正直、共通で挟んだエロシーン二つはいらないっちゃいらないよね。その後のシナリオ展開にはちゃんと絡むんだけど、ちょっと無理やり感があったから別のやり方が欲しかったなと。
今回はとりあえずほぼネタバレなしでは語れることが少なすぎるので以下ネタバレ注意。
先にこれだけは言っておかないといけないのは、本作は頭空っぽにしてヒロインとイチャイチャすることができる萌えゲーです。
ですので、深いこと考えずにプレイするだけでも十分に楽しめるという、本来の萌えゲーとしての要素はちゃんとクリアしていることはお伝えしておきます。
ですが、バックボーンとしてあるだろう裏設定を意識し、それと併せて読み込めば殊更楽しめるような作りになっているのもまた事実です。
それを踏まえて以下どうぞ。
まずこの作品をプレイするにあたって前提条件として必要なのは、「攻略ヒロイン+主人公の苗字には意味がある」ということです。
サブヒロインも含めて各ヒロインの苗字は必ず「色」が入ってることにお気づきの方も多いと思いますが、まず攻略ヒロインは色の三原色+白と、基本ベースと呼べる色が入った苗字であること。
併せて、先輩お三方は意味ないのかと言われそうですがそうではなく、遙を除くヒロインと先輩とで対比構造にするための苗字というのが正しいです。
まぁ対比構造に関しては書いた方が話が早いので書いちゃいますと、
「真白」結花⇔「黒川」萌
「金剛」アリス⇔「紫苑」夏芽
「赤峰」しずか⇔「碧」奈々
と、このように、苗字が相対する先輩の苗字の色と完全に正反対になっています。下二人は各々の色を混ぜるとどす黒くなるわけですが、これはシナリオ展開にも表れてますね。
一方で結花と萌はあくまで混ぜるとグレー。白と黒だから当たり前ですが、こちらは対比ではなく混ぜるということに意味があるシナリオなのでやはり正しいでしょう。
攻略ヒロインの色の意味はルート別感想で後述するとして、一方で、唯一相対するキャラもとい上級生女子がいない遙ですが、
蒼井遙⇔他ヒロイン全員
という構図が正しいです。遙に関しては「蒼井遙」という姓名全部に意味があるのですが、こちらも後述。
その上で蒼井翔という主人公ですが、少なくとも相対する相手はいません。誰か作るとしたら橙を入れた漢字の人にでもなりそうですが(橙さんか橙木さんか、何れにしても相当少ない苗字ですが)、蒼井という苗字が意味するところはそれとは別のところでしょう。
では蒼井翔とは何か。キャラ同士の関係性から考えてみましょう。
共通で特筆すべき点は、ヒロインが共通の間で一回も揃わないことです。
共通が始まった段階では一応ヒロインとそれぞれ相互に関係はあるわけですが(しずかと奈々、夏芽はまだ一切関係を持ってない)、共通終わりの時点でひとまず攻略四ヒロインとの関係性は同列になります。いや本音結花>アリス>遙≧しずかだとは思うけど。
共通ではヒロイン同士に面識がない場合も多い中、翔を中心としてサブ含めたヒロイン七人という「色」が集ってくる。主人公は真ん中でこの指止まれをやってるみたいに、輪の中心でみんなが集まるのを待っている、正確には実質的に呼び寄せているのですが、制作中のフィギュアを取り上げられたことがきっかけで、段々と周辺が活気づいていきます。
さて、主人公翔の苗字は蒼井なわけですが、単純に蒼井=青い、というつもりであるならば、一つの仮説を立てられます。
ここで、端的にこの物語と主人公翔を表す、恐らくこの作品のモチーフどころか全体を形作ると思しき、かの有名な詩集から一部を引用してみましょう。
わたくしといふ事象は
仮定された有機交流電燈の
ひとつの青い照明です
(あらゆる透明な幽霊の複合体)
風景やみんなといつしよに
せはしくせはしく明滅しながら
いかにもたしかにともりつづける
因果交流電燈の
ひとつの青い照明です
(ひかりはたもち その電燈は失はれ)
これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鉱質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケツチです
――以上、宮沢賢治「春と修羅」序より引用
「あらゆる透明な幽霊」として集うヒロイン達。その真ん中で青く明滅しながら、心象スケッチをする主人公。
ここまで書けばいいでしょう。春と修羅に於ける「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」という存在そのもの、それが蒼井翔という人物です。
――いやまぁ本当は、「蒼」という字は青緑に近い色(寧ろ奈々先輩の「碧」の方が「青」に近い)なので有機交流電燈みたいな青とは間違いなく違う色なんですけど、多分そこまでは考えておらず、青=蒼というつもりではあったのかなと。
とは言っても、苗字に「青」ではなく「蒼」を使っていることそのものも意図的な可能性は割とあります。簡潔に言ってしまえば、色の三原色は「赤・青・黄」ですが、光の三原色は「赤・黄・緑」だからです。
青とも緑とも取れるようにするために青緑っぽい色としての「蒼」、加えて宮沢賢治をモチーフにするための「青」と併せた名付けだとすれば……まぁそこまで考えてるかどうかは流石に微妙でしょうけど。
そんなこんなで、各キャラの「色」に関することを踏まえた上で以下プレイ順に感想
蒼井遙
最初にプレイしたルートにして確かにどのルートとも毛色が異なるルート。実際にこのルートは明らかに他のどのルートとも浮いています。
遙、という漢字を漢字時点で引いてみると、その内の一つに「さまよう」という意味があります。それを前提として、「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」であることを主人公が拒否しさまよう話と言えるのがこのルート。
このルートは単体ではあまりにも評価が難しいのでほんと書くの厳しいんですが、ルート内のモノを借りるなら、作中で出てきた二つのクラシック楽曲を取り上げたことがこのルートの本質を端的に示していると言えるだろうなと。
まずは遙のヴァイオリン演奏で使われた「サラサーテのカルメン」。カルメンといえば、ジョルジュ・ビゼーによって作られた、ジプシーの女であるカルメンと、ドン・ホセ、エスカミーリョとの三角関係がメインのオペラであり、ヒロインカルメンは魔性の女として描かれています。
一方サラサーテは自身のヴァイオリン演奏技術に特段の自信を持ち、ツィゴイネルワイゼンに代表されるように自身の演奏技術を誇るために作曲した超絶技巧曲が多い作曲家です。
そのサラサーテによるカルメン幻想曲は、作中での解説通りの曲なわけですが、狂想的なカルメンの題材と、遙が久々にヴァイオリン弾きに復帰するという中で、自身の演奏技術を誇る為の選曲。加えてこの曲はピアノ伴奏だけでやることも多い。となると、実際この選曲しかありえないと思います。
それと、エドワード・エルガーによる「愛の挨拶」。遙の携帯に入ってたあの曲です。
この曲は元々エルガーのピアノの生徒であったキャロライン・アリス・ロバーツと、1888年に婚約をした記念に彼女に送った曲ですが、当時エルガーとアリスの結婚は反対されていました。
というのも、まずアリスはエルガーより八つ年上(アリス当時39歳)であり、且つ一商人の息子であり当時は無名だった作曲家と名門出の陸軍将校の娘という身分の違い、その上エルガーは国内では少数派のカトリック、アリスはプロテスタントと宗教も違うという条件のため、アリスの親族が仲を認めなかったとという経歴があります。
結果的に反対を押し切って二人は結婚するのですが、ロンドンはケンジントンのプロンプトン礼拝堂にて1889年5月8日に行われた挙式での出席者は、新婦側からは従兄弟のウィリアム・レイクスとその妻ヴェロニカ、新郎側からは両親と友人のチャールズ・バックのみという実に少ないものでした。
さて、ここで遙ルートエピローグに於ける遙と翔の疑似結婚式を見てみましょう。教会貸切。列席者なし。実質的な参列者はしすったーに於ける遙と繋がりがある相手だけ――これ以上語ることもないですよね。
そして近親相姦シナリオの肝となることが多い、周りの反応。結論から言えば、そこに関しては深く書いてないだけでその実相当えぐいです。
後述しますが、他シナリオに於いて、結花はだんだん誰かが集うシナリオであり、アリスとしずかは全員が集わなくとも何らかの公認は誰かしらから得る、そんなルートとなっています。
しかし、遙ルートは最終的には二人だけの世界となるだけでなく、ルート中逐一各ヒロインとの一種の離別を描いていきます。その際たるものが文化祭に於ける似顔絵屋で、他ルート攻略三人に対し、改めて付き合えないという事実を突きつけます。そしてそれはあくまで、その前後との関係性ではいられないということを念頭に置いた突き放し方です。
故に作中では結花とは幼馴染として変わらず接するとは言ってますが、それが履行できてるかどうかも怪しいところ。「二人だけの世界」を演出するために、翔から意図的に離れていった、結花が二人を見て離れていった、自然にフェードアウトしていった、の何れかになったんじゃないかと予想します。
そして、文化祭に於いて他ヒロインを全員突き放した後で、遙だけを見つめると決めた主人公は、ミスコンの特別演奏で急に弾けなくなった遙を助けるために壇上に上がるわけです。
どんなに深い闇で覆われていても、絶対にわたしを見つけ出してくれる、お兄ちゃんの輝きだった。(蒼井遙ルート
さて、ひたすら兄妹二人の世界を演じるこのルートですが、これをシナリオ上の二人の行動だけに限定せずに全てを俯瞰して見れば、恐らく純粋に兄妹がイチャラブ「出来た」殆どのシーンを切り取っているものと思われます。
色々と箍が外れたシナリオの中にふっと差し込まれる厳しさとして、二人の実の父親が文章上でのみ登場します。兄妹で付き合ってることを話し、絶縁宣言をする。遙は頭が固いと罵るも、結果的にその後認められたというような気配はありません。
この父親の反応は、父親がおかしいわけではありません。語弊を恐れず言えば、ヒロインと実の母親が認めてくれる方が異端、もとい貴重です。
言い方を変えれば、このルートはミスコンの後、関係性がどこかしらで知れ渡ってからは二人共相当厳しい社会の目が向けられていたということが容易に想像できます。それくらいにはドシリアスなルートであり、これだけで一つの重いシナリオゲーにもなりえた話です。
しかしながら、このルートは本来大半を締めたであろうシリアスをほぼ排除、一部シナリオのスパイスになる程度のみ残しました。そして残る枠を全て兄妹二人のイチャラブという、ほぼ物理的な砂糖衣を纏わせた、「シナリオのトリミング」を行った結果、そういった重いパートはほぼ削ぎ落されました。
全体で見れば兄妹二人だけのイチャとラブしかない描写は、ライターがわかっていたからこそ。この構成は、完全に発想の勝利です。
思うに、実質的に兄妹二人だけの世界という殻を被り、一種やりたい放題にも見えるこのシナリオは、一つの近親相姦のタブーを前提とした、本来ドシリアスになるべきシナリオから脱却した、一つの実妹シナリオの完成形と言えるのではないでしょうか。
まとめると、遙ルートは、遠くへだたる、さまようという意より「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」という目的をかなぐり捨てるルート、その目的から離れるための名前であるという暗示――簡潔に言えば、ひたすらに他人を拒絶していくルートです。
「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」から「遙」遠い存在、それが蒼井遙というキャラクター。他ヒロインと交わらず、一人だけ「遙」遠くに隔離されたかのような立ち位置にいるのが遙というキャラ。
その結末が兄妹二人だけの教会貸切の疑似結婚式。翔自身もかつていたみんなからは遠く離れてしまったけど、愛する妹さえいれば何もいらないという決意だけを胸に生きていく。
「手と手繋いで fly away」とED曲で歌われたかのように、それまでいた地を飛び去るまで。
兄妹で世界を「ぶらつき」つつ、兄破、妹破をしてやるぞという一種の気概が見れるシナリオでした。――将来は、恐らく暗澹たるものであろうからこその、一時のモラトリアムだけでも、幸せに過ごしてほしいものです。
金剛アリス
初めの内は、正直頭のオツムが弱いと思ってかなり懸念してたんですよ。いや実際初めての料理を自身で味見しようとしなかったり色々と残念なところはあるのですけど。
結論から言えば、そこもそれなりに伏線として用いれていたので、なんというか、まぁ頑張っていた方かなと。
すごいぶっちゃけると、この作品内では一番語るところがないシナリオではあるんですよね。いや嫌いとか話ではないのですけど。
けどまぁ、正直な所、最後の方割と息切れしてた感があったなと。下着選びの一枚絵とか直後のエロシーンになんで生かさないの意味ないじゃん。
他にもダンスとか歌とか色々披露する機会ありそうだったのに全然シナリオに絡んでないじゃんとか、でもイメージはメシマズの方が強いとか……あれ結構あるな。
ともあれ、シナリオそのものは、スランプ克服のために一旦好きな物から離れてみる、という話です。
とはいえ、馬に接したり、あくまでアーチェリーを見直すための弓道をやったりと、完全に離れていたわけではないんですよね。
それ以外は純粋にイチャラブなので、特段語ることもありません。翔から愛情を受け取って、夏芽から弓の真髄を教わって、料理を結花から学んで、みんなからの期待を自身の成長に変えて。
そんな感じで、オ〇〇ピックで「金」を取るまでの、アリスの一時のスランプからそれを脱却するまでの成長物語でした。
赤峰しずか
アイドルと付き合うということに対して恐らくライターはかなり苦慮したんじゃないかと思いますが、だいぶうまいことまとめたとは思います。少なくとも私は割と楽しんだ。
まぁ正直、アイドルとかではないけど知り合いに関係性的に少し近い人がいたおかげでその人連想しながら読んでたんだけどな! ぶっちゃけ容姿は七割くらいは似てた。
このルートは、ルートの進行のさせ方が同種のイチャラブ系作品と似通っていることにより、この作品内では却って存在が浮くルートです。
何が浮いてるって、まず物語開始時点で唯一攻略ヒロインの中で主人公ないしは他ヒロインとの関係性が一切ないこと。共通最初で主人公が財布を拾って届けなければ発生しえなかった関係です。
そして何より現役アイドルとの恋愛という、匙加減を間違えずとも割と処理し辛いテーマであることですね。本作では、それを「アイドルの前に一人の可愛い後輩」という体を持ってしてそれを処理しています。
もう一つ、「主人公と当初相反する考えを持つ相手」という、本来ではメインヒロインが持つような考え方の違いを、本作ヒロインではしずかだけが持つことです。
翔と結花、アリスに遙は自身が元々楽しいと思った世界にいるわけですが、しずかだけは他人に用意された自分の居場所で生きているんですよね。
しずかルートを端的にまとめるなら「アイドルが自身の夢を見つける中、その日常で恋愛を知る話」です。そして翔が見つけるは全裸頭ブラジャー載せのしずかとなってこれ以上はいけない。
まぁ正直、アイドルとの恋愛を無理なく進めるために、設定面で実際そんなことはやれないだろ、というようなものは多々あります。
一例として所属する芸能事務所の「恋愛禁止どころか寧ろどんどんやれ令」。恋愛ソングを歌うのなら恋愛は必要だという現実でもよく言われる話。まぁ個人的には割とわかります。
持論として、ロックンロール創成期にチャック・ベリーやバディ・ホリーなど各々スターが誕生したわけですが、中でもビートルズがあそこまで成功したのは、当初全員がフリーの体でいながらも、四人とも当時は彼女がいたからというのが大きいと思っています。
そういや共通で結花を『みんな彼女に恋してる。誰も彼も恋人にしたいと思っているのだよ。』と萌が評したわけですが、まんまチャック・ベリーの「Sweet Little Sixteen」だよなぁとか思ったけど流石に絶対関係ないね、うん。
話を戻して、加えていざどうなってもいいように避妊具を渡しておくこと。枕営業回避前提で、いざ襲われた際の避妊具所持させておくというのは、建前だとしても悪くはない筋の付け方ではあると思います。まぁこれくらいなら実際あってもおかしくはない。
あ、ちなみに避妊具は作中一切使いません。その代り初めの頃は妊娠しないように外出し……って普通に外出しでも妊娠する時はするがな。だったら素直に避妊具使いなさいよと。サイズが合わなくて「そんなことよりおせっせだ!」というならまだわかるけど。
不満点は、どれもえちしーんの導入がくっそ雑な点。導入かな? と思ったらどれも十クリックもしない内に濡れ場に突入して準備も何もあったもんじゃない。
ですが、それ以外はそこまで不満もなく進められました。部屋を間違えて全裸で男のベッドで寝るハプニングから十数年前の歌謡曲かよと形容された半同棲生活へと至った流れとか正直面白い。
いやまぁ本作の中では浮いてるだけであってなんだかんだある種一番「普通」らしいシナリオ故に単体の感想はそんなないという。アリスよりは語れるけど。ひとまず、授賞式以前に絶対そこに至るまでに週刊誌の記者辺りが激写だかなんだかしててバレてそうですけどね。
ちなみにそんなこと言ってますが私個人はすんごい楽しんでやってました。純粋に真面目な後輩という個人的好みなキャラだったことも大きい。アイドルとは言っても慕ってくれる一人の後輩との恋愛ルートとして見れば中々の出来です。
赤い情熱を将来の目標に向かって燃え上がらせる、しずかのやる気と頑張りが見えるルートでした。
けどさぁ、ビアンカ衣装のえちしーんは正直見たかったよ。唯一それだけなくて全自分が泣いた。
ところでアイドル衣装、腹思いっきり丸出しだから全力で冷やして毎回お手洗い駆け込んでそうとか思ってません。
余談ですが、知り合いが少し近いと書きましたが、別途実体験を少し書いておくと、誰かを有名人扱いするか他の知り合いと同等に扱うかということで、先に知り合いとしての関係性が来るというのは割とそうというか、実際そうなります。
当人は飾る気はなくて、けど自身が有名人なのも弁えてるのを見て大人だなーなどと思いはしたわけですが、そういう意味では割としずかはありうるキャラであると私は考えます。
真白結花
真っ白いキャンバスは、当たり前だが何色にも染まっていない。だからこそ、何色に染まることも出来る。しかし、「白」という色は、その相手を別の色にも変えていく。正にプリズムの如く。
他の人の感想でも散々遙ルートはヤバいと形容されてますが、その実このルートもヤバいです。何がヤバいって単体で見れば実に普通な所。遙ルートと対にした途端にこのシナリオは豹変します。
大まかな流れは、簡潔に言えば遙ルートと真逆と言うのが話が早いと思います。「仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明」であることを忠実に実行するわけですから当たり前なのですが。
先に結花というキャラについて語っておくと、「自身がプリズムであることを含め、周りからはプリズムを通したようにしか見られてないヒロイン」です。
結花はしずかですら有名で名前は知っていると言い切るほどの知名度を本来誇っていますが、結花自身は兎角自信が持てないキャラとして描かれます。
どうして自信がないかといえば、一番の原因は幼少期のジャングルジムからの落下→翔を負傷させた事故が一つの大きな要因ですね。これを機に医者になる夢を叶えるために猛勉強を始めるわけですが、後々夢そのものは忘れてしまいます。
夢を忘れた結花は物事の楽しみ方すらも忘れてしまうわけですが、逆にここはある種まっさらになったとも言えるんですよね。
ひとえにこれは、結花自身が何色にも染まっていない=白であると同時、何色にも染まっていない=透明=プリズムであると言えます。白と透明は違うだろと言われそうだけどそれは置いといて。
何が言いたいって、結花ルートは結花と翔が結ばれると同時、「翔という有機交流電燈のひとつの青い照明が発する光を、結花というプリズムを通して各ヒロインの色を映し出す」ということなんですよね。これが結花ルートの肝です。
正直、他ルート同様、ルート単体として考えた際には大きい見どころはありそうで特にありません。結論から言えば、翔と付き合い始めて、自身の自信の無さを克服し、みんなと交流していく様を描いた一種のサクセスストーリー。
それが結実したのがクリスマスパーティーの一枚絵。唯一全員が揃い踏みする場面。
お気づきの方も多いかと思いますが、本作の共通ルートでは、サブヒロインはおろか、攻略ヒロインが一堂に会することは実はありません。多くてしずかを抜かした三人。
そしてサブヒロイン三人を含めれば、全員が一堂に会すのはこのクリスマスパーティーのシーンだけです。それが結花ルートという物語を端的に語っています。
ちなみに、他ルートではKanon問題をやっているのですが、結花ルートではそれが実はありません。結花は医者になれる、アリスはスランプ脱出(金メダル取れるかまでは知らん)、遙はヴァイオリンを再開できる。しずかは……舞台出たか明言されてないのでわかんね。けどアイドル活動そのものはしっかり続けられるのでしょう。
以下に結花ルートに於ける他ヒロインのことをクリスマスパーティーから抜粋。
しずか「いいえ、やはり私の目に狂いはありませんでした。つきましては例の件を進めさせて頂こうかと思います」
翔「それって……まさか例のジャケットの話?」
しずか「はい。やはり蒼井先輩の言うとおり、知名度という点で不安視する声は少なくはありませんでした」
しずか「ですが権威あるコンクールで金賞をとったというのなら話は変わってきます」
しずか「必ず関係者全員を説得するので、その際はよろしくお願いします!」
(中略)
アリス「本当に好きなコトに一生懸命打ち込めば、ちゃんと結果がついてくると証明してくれました」
アリス「ワタシもショーに負けないように頑張りたいと思いマス! だからサンクスデス」
(中略)
翔「だから遙も好きなことを胸を張ってやればいい。隠れて練習なんかしないでもっと堂々とな」
遙「お兄ちゃん……知ってたの?」
翔「気付いてないとでも思ってたのか? てか親父達だって気付いてるよ。その上で遙が言い出すのを待ってる」
遙「そ、そっか……あはは、恥ずかしいね」
翔「恥なんていくらかいたっていい、それで好きなことを思いっきりできるならな」
――以上真白結花ルートより
この場面でわかりますが、名言はしていないものの、今後ヒロイン全員との関係性が何らかの形で続く、ないしはヒロインが持つ夢を成就出来ているものと考えます。
結花ルートではこうですが、これが他ルートだと全員が夢を達成できません。遙ルートは言わずもがな、アリス・しずか両ルートも少なくとも結花は医者になれないわけで、どれだけ翔が因果交流電燈になれるかという話ではあります。
こうして、「波乱らしい波乱などなにひとつなく実に穏やかで優しい時間」を過ごしているという、遙ルートでは到底考えられないような結末を迎えるわけです。
結花「この尊くて愛すべき日常をプレゼントしてくれて、ありがとう。この恩は一生をかけてお返しするわ」(真白結花ルート
このルートに於ける「白」は、医者が着る白衣=白であると同時、ルートで将来の夢が見つからず、まだ何色にも染まってないヒロイン(=何も描いてないまっさらなキャンバスの白という意味も)を、様々な色と出会わせ変えていき、彼女自身も変えていく色です。
「真白」なキャンバスを様々な色に染め上げ、且つ周りの色をも変えていき、「様々な色(花)を結びあげていく」そんなルートでした。
余談ですが、優等生で落ち着いている幼馴染とかあまりにも好みドストライクすぎてマジでこのルートは羨ましいという感想だったという。二次元転生するならという例え話で結花ルートの翔と言いたくなるくらいには好きになりましたはい。
総括――主に遙ルートと結花ルートを比較して
先にアリスルートとしずかルートについて語っておくと、この二つのルートは対比もそうですが、同列としても扱うことが出来ます。
まず導いてくれる先輩がいること。攻略ヒロインとは対極の色であることからもわかると思いますが、共にあくまで攻略ヒロインが飛躍するための行動です。
それとやりたいことが当初から明確であることですね。アリスはアーチェリー、しずかはアイドル(女優)と、やりたいことの芯がしっかりしていたからこその導いてくれる先輩がいたということであって。
勿論ヒロイン独自の特徴もあります。しずかは攻略ヒロインの中で唯一当初は一切翔との関係性がない、アリスは親友を増やそうとする中に於いて翔との関係性を構築していく。
ただこれらは、攻略ヒロインの中ではそのヒロインが唯一持つ独自性なので、どちらかというと他作品でのヒロインでの立場に近いです。
アリスは、似た競技でありながらも対極にある競技を体験してみることにより、本来の好きという感情を取り戻した。
しずかは、本来好きであったものから永らく離れていたのを、先輩の誘いに乗る形で楽しみながら復帰した。
この二人のルートは、対比であり、同列です。恐らく結花と遙程力を入れる気はなかったと思うのですが、おまけというほどでもなくしっかりと仕上がっていました。
一方で、(世間的な意味で)後々有名人になったとは限らないヒロイン二人のルートはあまりにも対極です。
先に語っておくと、結花ルートの一部要素は、意図的にアリス・しずか両ルートと同じになるように配置されています。
その同じになるように配置され、遙ルートと対比する上で重要な要素の一例としては告白場面。
遙ルートではそもそもお互いが告白をしたという明確なシーンがないです。対し結花ルートは付き合い始めてからは結花は事ある毎に翔を好きと言っています。
翔「……なんか印象変わったよな」
結花「私が?」
(中略)
結花「私はずっと甘えん坊で、彼氏とイチャイチャラヴラヴしたいって思ってたんだから」
結花「それに人間は万能じゃないもの。例えどれだけわかり合っているつもりでいても相手のことを100%理解するなんて出来るはずないわ」
結花「だからこそ言葉が生まれた。なら照れてる場合じゃないわ。私は想いを言葉に乗せる」
結花「真白結花は翔くんが大好きって……えへへ」
――以上真白結花ルートより
結花ルートはとにかく翔について周りに喋る。翔くんが好き、翔君を愛している、翔くんと添い遂げたい。付き合い始めたその初日にクラスのみんなにどうするか翔に尋ねられた時も、「言いたい!」と二つ返事で願望を表しています。
当初はなぁなぁで付き合い始めたに近い状態だったのが、改めて告白する流れ。しずかルートもそんな感じですが、こちらの方がそれをかなり早くにやっています。
対して遥ルートは肝心なことをや本当に大事な事を口で言おうとしません。「さんはい」の掛け声に乗せて実兄の欲望を丸出しにはさせますが、その実自分自身が語るということは多くないです。
ではどうして遙は自身のルートでそういった告白などを自身からはしなかったのでしょう。
簡単な話です。自身の願望が気持ち悪いと思っていることを理解した上で、理解されないだろうと諦めている、それで理解されず拒絶されることを恐れているからです。
しかしながら、いざ理解されたくても、「一般的な常識」に照らし合わせて、「自分の倫理が理解できない」という板挟みに苦しんでいます。それを端的に表しているのがここ。
遙「……気持ち悪いって思わないんですか?」
結花「どうして気持ち悪いの? 誰かを好きになることは素晴らしいことじゃない」
遙「だって……兄妹で好きとかそんな……おかしいじゃないですか……」
結花「兄妹だと好きになっちゃいけないの? その理屈の方がおかしいと思うわ」
遙「でも……倫理的に普通はあり得ないです……」
結花「倫理ってなに? 私にはわからないわ」
結花「だって誰かを好きになることは理屈じゃないもの。好きになるのに立場は関係ない、好きと思っちゃうんだから仕方がないじゃない」
結花「倫理なんていうのは外側の人の言葉でしょ? そんなものに惑わされて本当の気持ちを押し殺すなんて私には耐えられない」
結花「普通はあり得ないって言ってたけど、恋は普通じゃないもの。誰にも否定はさせないわ」
――以上真白結花ルートより
思うに、名言はしないしするわけもないものの、制作陣は遙ルートをバッドエンドにするつもりもあったのではないでしょうか。
そういうと各所から違うとかおかしいとか言われそうですが、一応根拠としてこれを置いておきます。付き合い始める前、結花ルートで昼食用の弁当を結花に作ってもらうようになった時。
翔「遙にはいつも感謝してるよ。あいつがいなかったら俺はとうの昔に餓死しててもおかしくない」
(中略)
翔「遙はなんていうか、ちょっとブラコンの気があるっていうか、基本俺にベッタリなんだよ」
翔「ただでさえ人見知りなのに、俺にばかり絡んでいていいのかなって……」
(中略)
翔「とにかく遙にはもっと広い世界を見てもらいたいんだ」
――以上、真白結花ルートより
実の妹が考える幸せを実行するために二人きりの世界へと閉じこもることを選んだ遙ルート。
実の妹の幸せを願うために、妹を自身から突き放そうとし、広い世界を見させようとした結花ルート。
最後の最後で大人になり切れず、幸せを願うばかりに共に茨の道を歩く(=一般的な倫理観と照らし合わせて不幸せになる)ことに決めた遙ルート。
子を谷に突き落とす獅子の如く突き放し、遙に世界を見させようとしたことにより遙が自身で幸せを掴ませることに成功しつつある結花ルート。
この二つは、誰の幸せを考えるかという根は同じですが、それに対する方法と結果が完全に真逆であることは特筆すべき点です。
アリスやしずかのルートではあくまで自身とヒロインとの幸せを念頭に置いていますが、結花ルートではその実翔と結花に加えて遙の幸せも考えています。
そして結花ルートに於けるその目論見が成功しているのは、クリスマスパーティーでの記述からも明らかです。
逆に言えば、クリスマスパーティーの記述から、後は遙が兄への恋慕さえ断ち切れば、あとはどこへでも羽ばたけるくらいには成長をしていました。故に、作中一番成長するキャラは、その実結花ルートに於ける遙になります。
遙は無意識に兄は自分からは離れることはないだろうと思っていた(遙の口癖「さんはい」は無意識に実兄は自身のものという刷り込み……は考え過ぎか)中での結花ルートでの顛末。だけど遙も成長しているからこそ、素直に結花に兄を託すことも出来るようになって。
なので、すごい個人的なコメントを言うならば、遙視点の結花ルートをtrueで持ってきてケリをつけるというシナリオが見たかった。それがあることによって、綺麗に物語を締められたと思うのです。
勿論そういうゲームじゃないのは百も承知なのですが、そこだけ個人的には不完全燃焼で残ってしまったんですよね。まぁ想像の域でも十分構わないのですけど。
兄妹で愛し合う俺たちが往く道は、茨で溢れているのかもしれないけど――(蒼井遙ルートエピローグ
波乱らしい波乱などなにひとつなく実に穏やかで優しい時が俺たちを包み込む。(真白結花ルートエピローグ
作品としては本命であろう結花ルートと完全にその真逆を往く遙ルート。「プリズム lovely day」という結花ルートを完全に歌い上げたOP曲。「一途に恋する女の子とイチャイチャ甘々ADV」という、結花と遙を念頭に置いたとしか考えられないジャンル名。
本当に素晴らしい対比の二つのルートでした。
結花ルートと遙ルートを軸に、ヒロインと共に歩く「幸せな未来」を目指す恋愛日常。それをしっかり描くための名言をしないバックボーン。
プリズムを通し、作品タイトルのデザインにある、ヒロインの苗字の「色」が並ぶパレットに乗せた様々なヒロインの色/顔。プリズムを通したからこそ光り輝く毎日と化し、日常という生きることへ恋愛が加わることによって、幸福に生きることができる。
以上、『青い因果交流電燈の光がプリズムを通してヒロインを映し出し、幸福な生=恋愛日常を心象スケッチする綺麗に連ねられた優良萌えゲー』が本作評です。
また、お気に入りの結花ルートとしずかルートを中心に、この世界に浸りに来れればいいなと思います。
――実父と主人公が絵描き(美術部所属)。再会系幼馴染はベタ惚れの上で主人公の絵が好き。アイドル活動をする後輩。学園名は櫻乃杜。
散々上でああ言ったわけだし、今更枕の「サクラノ詩」との共通項に関して無理に言及しなくてもいいよね。気付く人は気付いてくれるだろうし。
現状自分から言えることは、サクラノ刻を待たずして、幸福な生という命題が、かなり俗的ながらも出て来てしまったなと。