「スキマを埋めてよ 無線の先の電子の妖精」OP曲ガレキのアリスの一節に集約された本作は、一部のプレイヤーからみれば致命傷レベルで抉ってくる作品とはなったが、そうではないプレイヤーからすれば凡作止まりの作品になってしまった。それを07th作品の系譜から見て異端ととるか真骨頂ととるかはプレイヤー次第だ。長文前半はネタバレなし。
ひぐらし奉以来二年ぶりの新作である本作。07th作品としては初めて外部ライターを呼んだ本作であるが、正直なところ、同一のライター陣で臨んだkeyの「Rewrite」が「話の規模が大き過ぎて収拾付かない」と評するなら、本作は「小奇麗にまとまりすぎてる」といった感想であった。
ネタバレなしに先に「Rewrite」との違いを上げるとするならば、「Rewrite」ではkeyの作品でありながら田中ロミオが主導し、そこに都乃河勇人と竜騎士07が参加する、という格好になった。「Rewrite」でのライターの執筆分量の比率は、先ほどの順におおまかに3.5:2:1ぐらいだ。
対して本作は竜騎士07が主導し、そこに外部ライターとして都乃河勇人と田中ロミオが参加といった具合である。配分はおおまかに1.5:1:1と主導ライターの比率は少なめである。
音楽は大体いつもの07thメンバー。基本的にサークル前作ローズガンズデイズでの音屋をそのまま連れてきた感じではあるものの、今作では特にxaki氏とM.Zakky氏の比重が高くなっている。ベスピオ編は八割方xaki氏の楽曲だ。桂子の妄想? 的なパートで普通にクリックすれば30秒もかからないような場面の一箇所のためだけに03:34の楽曲を一々用意(これは「メビウストラベル」)するなど、相変わらず贅沢な使い方をしている。
しかし今作はこれまでの作品と比較し曲数が少ないように見えるが、これまでの07th作品で感覚鈍らされてるだけなので、本来的にはシナリオ分量に対しては相当曲数ある。ただ今作は一箇所限定曲と(使いまわすための)日常曲との差が大きくて日常曲ばかり聴いてるような錯覚に陥るから、というのはあるのかもしれない。
音屋の皆さんが自作CDで発表した曲も多いので一概には言えないものの、今作での使用が新規発表になった曲に限定するなら、個人的お気に入り曲はGame End、Memory of the cloud、be happy、メビウストラベル、ロストメリー、マキシマルポジション、ファシリタジア辺りか。音楽はいつも通りプロの犯行であるといえよう。
そして本作を語る上で外せないのが演出。本作の、下手するとシナリオ以上の肝となったのが、演出などの総監督としてCircletempoのナカオボウシを参加させたことだ。
そのナカオ氏率いるCircletempoの作品は、ライターは全てナカオ氏、演出も「少年オロカと不思議の森」以外はナカオ氏が担当している。サークル最新作「W-standard, Wonderland Lv.1」では、これまでの07th作品同様にNscripterを使用しながらも、明らかに普通の商業ゲーム以上の演出を見せていた。
本作は、その「ダブワン」で見せた以上の演出が、本作のための演出としてプレイヤーの視覚に飛び込んでくる。細分化されたムービーに、各種カットイン、唐突な場面転換での変化はこれまで07thの演出しか知らない人から見ればまず驚くだろう。流石に07thの制作日記で「ナ、ナカオ…、ウソだろ、ナカオ? ナッ、ナカゥォーッッ!!」と言わしめただけのことはある。
ダブワンを含めたCircletempo全作品プレイ済みの私からすれば、ナカオ氏の演出そのものには驚きはしなかったが、それでも過去作と比較しても上昇している演出力には舌を巻いた。特に、ベスピオ編での爽快感ありつつも血生臭さを思わせる演出は見事という他ない。
極論を言ってしまえば、購入前の時点でシナリオが例えゴミだったとしても、ナカオ氏の演出に金を払ったと思えば全く高くない買い物であるだろうとは思っていたので、そこは元を取ったというか、十分に満足出来たかなと。
他に、割と小ネタを結構突っ込んでいるところは、07th作品プレイヤーからすれば見逃せない。
それは鷹取風香みたいな明らかな友情出演から、ツイッターと思しき画面に於けるたたみん(先述した「ダブワンLv.1」で出てくるマスコットキャラクター)まで、各種過去作をやっているとニヤリと出来るものばかりだ。
特にたたみんのような元プレイヤーが他作品と比較すると少なくなりそうなCircletempo作品のネタまで突っ込んでくれたのは全てプレイ済みの人間からすれば嬉しいの一言。
別に07thとCircletempoの過去作をプレイしている必要性は一切ないが、嗜んでいるともう少し楽しめる、かもしれない。
最後にシステム面に関しても。うみねこ以降の07th作品はセーブ枠が25個で、特にうみねこEp4、Ep8、ローガンラストシーズンなどはセーブ枠があまりにも足りないと思うことが多々あった。今作はそれが64個と倍以上に増え、作品の長さも相まって割と自由にセーブが出来るように思う。
ただ、システム面で使いづらいなと思う所は主にバックログに関することで、まずJ、Kの文章を読んでLの文章のところでバックログをやると、GHI、DEF、ABCと三つに区分分けされた状態でしか戻らないこと、そしてバックログを解除するとLの文章に戻らず次のMの文章に飛んでしまうことだ。このLの文章からMへと飛ぶ現象はバックログだけでなくシステム関係全般の操作をする(主に右クリック)となってしまうものであるのが少々厄介。ただ、これはシステム面に於いて現状が安定しているとのことで、これ以上直そうと思うと別の不具合が出る可能性があるようで、ここは我慢してプレイするしかない。慣れればそれなりにどうにかはなる。
追記:ユーザビリティ改善パッチ配布により、文章が飛ぶ現象に関しては、当てれば上記の状況はなくなりました。特段当てなくても進行に影響はないので、後はお好みで、といったところか。
それでも尚システム面が不安なら、体験版をいじってみることをお勧めする。体験版終わりからのセーブデータパッチも配布されているので、気兼ねなく体験版に触れるだけで、システム面と演出に関してはわかることだろう。気になった方はとりあえず体験版、である。
というわけで、以上を踏まえた上で、ここからはネタバレ込みでじっくり語らせてもらいますかね。
当初思ってたのは、ひぐらしうみねこ、ローガンほどではないにせよ、ある程度の「大作」であった。しかし蓋を開けてみれば、彼岸花のような「小作品集」であった。
正直なところ、期待外れ。面白くないわけじゃない。事前の「期待」から「外れた」のはもうしょうがない。
とはいったものの、もうちょっとどうにかできなかったのか感はある。構成の問題か大本の話の問題かは何とも言えないが、ライターが本来持つ良さを殺してる部分があるからだ。
今作はオムニバス形式でありつつも相互に作用しているのが特徴だが、それにしては如何せんその良さを生かしきれてないと思う所が多い。
短編のお話を連続して見せて、その実全てつながってました~というのはこっそりな具合の方がいい。具体的にはNovectacleの「ファタモルガーナの館」のような。
以下ざっと各話の要約とそれぞれの感想。
カントリーガアル
第一話:引きこもりになった幹彦と、退院し、ボランティア部を始める桂子
第二話:伊与視点から、桂子との探偵団活動
第三話:宮がやってきて引っ掻き回される仲間と、白竜祭の復活への活動
――これ、別にロミオの必然性あったのかなぁ? 学園恋愛はギャグ方面でトノの必要性あっただろうけど、ベスピオがロミオでもよかった気はしてる。
終わってみればかなり普通の幼馴染の友情物語でした。当然ロミオ節が発揮されることは無い。
あと、宮の出番が、一話のOP後は三話までありません。それまで全くないとは思わなかった。
とりあえず、なんだかんだ三人とも幹彦にある程度いい感情抱いてるんだから、これは最後に三人が『で、誰を選ぶの!?』的ハーレムエンドにしてそれにキレたアリス(この時点では誰だかわからないように)がスクリーン叩き割る、的な終わり方だったら評価上がったんだが。
それとところでなんでこれだけ歌曲OPあったの。全部あるか全部ないか揃えればよかったのに。
学園恋愛(と呼ぶにはおこがましい)アドベンチャー
僕はスーパー高校生! けれど引きこもりたいお年頃!?:ひたすら様々な女子とのフラグをへし折る畏人
バトルロイヤル! 畏人が負けた!?:(誰もなろうとしない)生徒会長の座を争い、校内全てを巻き込んだバトルロワイヤル
隕石相手に大勝利! 希望の未来へレディ・ゴー!:イチョウ出現、伝説をゆかりと叶え、超人的能力を手に入れ隕石落下を防ぐ畏人
出たー! トノのとりあえず立ち絵付きキャラ一杯出すけどその実半分以上はいらない法則ぅー!
いや立ち絵あれだけ用意してるんだしもうちょっと使いようあったでしょ。ただの無駄遣いにしかなってない。
「僕は~」では07th作品としてはうみねこEp8ラスト以来のルート分岐があるのも特徴。といっても正規ルートじゃない方はすぐバッドエンドで終了しますが。
ちなみにバッドエンドに行っても、選択肢の直前にすぐ戻ってくることは可能なので、あまり攻略などと構えなくて大丈夫です。
「僕は~」の時点でRewriteの時よりギャグは面白かった。流石にそこはkey仕込みなだけある。
しかしそこで出した竜ちゃん原画絵女子は後は「隕石~」ラストに出すだけでほぼ出落ち要員。もう少しキャラ絞ってしっかり書けなかったのかなと。
選択肢も、正直「僕は~」で出てきただけで、もう少し発展性が欲しかった。「バトル~」であっさり生徒会長になっちゃうバッドルート作るとか。
ギャグは面白かったしトノがノリノリで書いてたのは想像できるんだけど、如何せんもう少し発展性が欲しかったなと。ラストムービーでの宮のパソコン投げ落として強制終了はよかった。
VESPIO2438
1st PLAY:彩東京奪還作戦成功後、システムダウン後基地が急襲される話
2nd PLAY:主にヴィオネッタ視点での彩仙台奪還作戦
3rd PLAY:裏で日栄を売ろうとしていたキーンとの対決
当初は一番心配していた竜ちゃんパートであったものの、蓋を開けてみれば個別では一番面白かった。
いやほんと疑っててすみませんでしたーっ!(土下座 ローガンラストシーズン発売時のコミケで配布されたリーフレットに「次回作ひぐらし、その次宇宙戦争!?」なんて言われてて、当時のネットは「竜ちゃんトチ狂ったwww」的反応が多かったのは覚えているが、ここまでのものに仕立ててくるとは。
何より前作ローガンでがっつり戦闘描写をしていたのは大きいのかもしれない。そこに絡み合うのがxakiさんの流れるような楽曲にナカオさんの演出。ナカオさんの演出分量は先の二つよりかなり多くなってます。
それと個人的に思うのは、あれだけ作中で携帯電話を描写することを苦手としていた竜ちゃんが、スマホなりなんなり情報通信機器を割と積極的に出してきたこと。正直ベスピオはそこだけでも竜ちゃん頑張ったな! と思うし、それ以上にベスピオ単体で見れば説教臭さもなく、ほんと面白いもの竜ちゃん書けるじゃんと思えたのは大きい収穫。
いやー単体で見ればほんと面白かった。毎回ツッコミどころがないわけじゃないが、正直竜ちゃんは下手な謎解きとかやらせるより王道燃えゲー書かせた方が向いてるって。Rewriteルチアルートも後半の王道っぷりはなんだかんだすごく読ませたし。
ただ、トライアンソロジーとしてのシナリオとしては、このシナリオだからこその不満もあります。詳しくは後述。
Unknown(アリス編)
働 け ニ ー ト
いやそれ以外に要約しようがないでしょ。もっと言うならとにかくパソコンの前に座ってるだけじゃなくて外に出ろよ、って話だけど。
まぁ、一言感想にもある通りではあるけど、作品そのものを要約してしまうととにかく『外に出ろ引きこもり』に尽きる。
それにしても、ベスピオ編終わってからエンディングに至る流れが正直早すぎた。話を削ってるわけじゃなくて、言ってしまってはなんだが「真相がその程度」なのだ。
しかし、見方を変えればアリスの問題を一部のプレイヤーに落とし込んでいるともいえる。後述で詳しく。
総括
総合して、『07thの知名度をもってナカオボウシという演出家を紹介した』というのが本作の評かなと。かなり残酷な書き方してますが、それくらいナカオさんの演出は素晴らしかったし、逆に肝であるべきシナリオは淡白すぎて、シナリオで演出以上の「すごい!」を言わせられなかった。おかげで上記のような評になってしまうなと。
とにかくシナリオがもったいない。単純に「期待」が「外れた」のはあるとしても、三つの本来バラバラなシナリオが一つにまとまる快感……みたいなのがなかったのがかなり痛い。
わかったことは、とにかくナカオさんの演出はやっぱり世間一般的な商業よりもよほど出来がいいということ。音楽面では、M.Zakkyさんの曲は一般的な恋愛ADVとの親和性が高いことが判明したということですかね。いや実際M.Zakkyさんのいい意味でチープな雰囲気の日常曲書ける人ってそうそういないと思うの。
ともあれ各方面の要素は間違いなく上質、シナリオも本来のよさがあったはず。だけどシナリオはその良さを各人合わせるために水でかなり薄めてしまった、そんな感がある本作評です。
さて、いつも説教臭いと言われ、一部からは盛大に嫌われ、一部に熱狂的なファンを持つ07th作品、今作で一番伝えたかったことは何か?
一つの内なる世界に閉じこもらず、ちゃんと外にも出て自分の可能性を閉ざすな――この作品が伝えたかったことはとにかくその一点に集約される。
これほどわかりやすい伝えたいことが今まであったろうか。07th作品としてはここまでシンプルな伝えたいことはなかったように思う。
ただ、それを伝えるとするならば、逆にベスピオのシナリオに場違い感が出てしまった。作中内の現実逃避、という観点からは間違いじゃないのだけど、如何せん毛色が違いすぎる。
ともあれ、今作の場合、それまでのように地の文でプレイヤーに語り掛けるのではなく、三つの話を通して、それらの登場人物の行動(主に幹彦、宮、畏人、アリス)をもって示すというものであった。
ひとまず、アリスのそれまでの行動原理は以下の幹彦の独白が全てを表している。
政治、娯楽、音楽……ネットの世界にはすべてがある。
携帯で閲覧していたネットなどは、チラ見の世界に過ぎない。
PC。PCこそが至高。PCこそが究極。
(中略)
PCとネットの世界には、無料のコンテンツが山のようにある。映像も、音楽も、画像も……エロも。
ジャンクな愉悦の数々は、幹彦の心傷を砂糖をふりかけるように癒してくれた。
(中略)
16才は若い。余裕。建て直し可能。ヤバいのは三十歳超えてから。十四年も猶予がある。ネットの皆もそう言っている。だから大丈夫。
ここのところ、独り言が増えてしまった。
――以上、カントリーガアル第二話より
世間的には夏休みが終わった昨今、この夏海か山かに行った人はどれだけいるだろう。一方で、冷房を利かした部屋から一歩も出なかった人もどれだけいただろう。
情報化社会で、あらゆるものがネットで手に入るようになった。ただ、PCの前に座って色々なモノ、コトを集められる。wikipediaは大変有能なネット辞典だし、グーグル先生に聞けばなんだって答えてくれる。
だが、それでいいのだろうか。自分の目で見ていない情報が、全く意味が無いとはいわないが、もう少し自らの目で「世界」を見てみるべきなんじゃないだろうか。
新聞や雑誌など、記者は自ら現場に出向いて記事を書け、とよく言われるという。個人的な話にも、何か記事でもお話でも、何か書く際は足を使え、と言われたことがある。
「海には波がある」といったって、波の音や不規則性などは映像で幾らでも分かる。だが、潮風の香りや空気感までは実際に行ってみないと分からない。
外に出るということは、知ることを増やし、未来への可能性を増やすことなのだ。今作はひたすらにそれを説いている。それをPCゲームという本来は家に籠ってやるという媒体でそれを説くというのも相当な皮肉ではあるが。
ともあれ、別になんでもいい、興味あることの一つや二つ見つけて、外に出てみようじゃないか。外に出て、友達作って、一緒に何かを楽しめるように。
さぁ、外に出てみよう。自分の新たな可能性を見つけに。8月32日でもない、9月0日でもない、9月1日へ。
追記
で、学園恋愛でちらっと出てきたアリスらしき立ち絵は結局何者?
追記Ⅱ
パッケ裏に各話の登場人物が二人しか載せないのは頂けない。おかげて学園恋愛のヒロインが記葉じゃなくてゆかりって読めちゃったじゃん……。
追記Ⅲ
音楽は、ここまで話をわけてるならアリス編以外の各話はそれぞれ作曲者統一した方がよかった気がする。
具体的にはカントリーガアル:daiさん、学園恋愛:M.Zakkyさん、ベスピオ:xakiさんで。
追記Ⅳ
しかし、Circletempoの作品とかも考えると、次回07thは竜ちゃんとナカオさんの合作――は才能と才能がぶつかってアレなことになっちゃうかなぁ。
いやそれはそれで見てみたい! 正直ロミオと竜ちゃん組み合わせるよりは……と思ったけどナカオさんって竜ちゃんともロミオとも親和性高い気がしてきたぞ……。
そんな感じで欲が高まるけどナカオさんはまずはダブワンLv.2お願いしますというかこれほんと期待できるわ。
追記Ⅴ
「期待」が「外れた」とばかり言ってるけどお前は何を期待してたんだよって?
そりゃカントリーガアルの時点で段々と不穏な空気が漂って来て、祭の日に桂子辺りが宮辺りの首を取って「ねぇ、私、うまくできたでしょう?」って幹彦に見せるみたいな。
追記Ⅵ
古手梨花「風が……」
ベルンカステル卿「やんでしまう……」
鷹取風香「いやあなたたち誰」
追記Ⅶ
大 都 会 飯 田 線 伊 那 小 沢 駅(一日平均利用者数三人