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PlanadorさんのW-Standard,Wonderland Lv.1の長文感想

ユーザー
Planador
ゲーム
W-Standard,Wonderland Lv.1
ブランド
Circletempo
得点
89
参照数
492

一言コメント

処女作MYTHのようなシナリオと、進化した演出が組み合わさり、序破急で言う「序」の作品でありながら、現時点で面白さが最高潮寸前にまで達している稀有な作品。三部作の一つ目でありますが、現時点で各種考察ゲーの頂点に立つ可能性を秘めています。長文はMYTHの微ネタバレあり。

長文感想

ずっと 待ってるよ
あの高い 塔の最果てで
置き去りになった 刻の心音が
いつか 宙平線の彼方に響く日を


 Circletempoとしては三作目(「Aguni~運命の先~」はMYTH外伝として本編同様の扱い)にして、処女作MYTHの流れを引きつつ初の連作となった本作。Lv.3で完結とのことなので、今作は序破急の序になります。

 正直、MYTHで弱かったところは一周目10日までの日常シーンがぶっちゃけあまり面白くないこと。勿論そこに対して伏線はばらまいてますが、もう少し面白く書けないかなーと思ったのも事実です。
 それに比べ今作は、演出面が楽しく、またパートも長くなく早めに展開が起こるので先が気になるように出来てます。

 その演出が本作はとにかくすごい。MYTHが2008年の作品であの演出か、というのもそうでしたが、今作の演出は商業で高演出と言われるようなメーカーをも軽々超える出来栄えです。しかもこれNスク。
 本作の後、07th Expansionの新作「トライアンソロジー~三面鏡の国のアリス」にて演出面などを担当する総監督をナカオボウシ氏が務めましたが、その一年も前からこれだけの演出を完成させていたことが驚きです(逆に言えばダブワンの演出を竜騎士07氏が見てオファーをかけたものと思われる)。
 ただ、トライアンソロジーは、シナリオと演出が別担当だったため、どうしても特別噛み合ってるかというと微妙だったのも事実です。他の方も言われてますが、シナリオが演出に追いついてなかったんですよね。
 しかし、本作はシナリオと演出が同一人物で構成されているため、ライターがどのように演出したかったのか、余すことなく作品に注ぎ込まれている。故にしっかり噛み合ってるし、それによってもたらせるエンターテイメント性はすごいものがある。

 だから飽きが来ない。飽きずに序盤からぐいぐいと物語を読ませる仕掛けは演出あってのものです。
 だからギャグが面白い。素材を大量に用意して、それを一つ一つ丁寧に扱っている。それがパロディーネタであったとしても、文章に明記するのではなく、演出として「そういや似たのがどっかであった!」とプレイヤーに言わせる作りになっている。
 だから周回したくなる。お話として要考察シナリオなので、周回が必須なわけですが、それが全く苦にならない。MYTHでは一部たるく感じるパートもありましたが、本作はそれが一切ないです。

 音楽はいつものラック眼力氏。それと一部楽曲はナカオボウシ氏がオロカに引き続きやっております。
 個人的には楽曲面では現状MYTH程の破壊力はまだないとは思っていますが、それでも高レベルにまとまった楽曲群は潤沢に、贅沢に使われ作品の雰囲気を出すための重要な舞台装置になっています。

 那古野氏の絵も際立っています。萌えというほどではないですが、かわいい寄りの絵柄は、時にはほのぼの、時にはシリアスな場面によく合います。というかトトの殴られた時のたんこぶなどもよく描き込んだな……。
 それでいて、MYTH同様絵と写真を使い分けるのもそうですが、その背景絵は結構細かいところまで描き込まれており、それを一回の演出のために描いただろうものも多く、かなり苦労されただろうなぁとは。
 その演出面で忘れてはいけないことは、背景に映像を使用し、おかげでグリグリ動くことですね。この長さで3GB越えの容量の半分が背景用の映像です。特に神視編はほぼほぼ背景が映像になるので、画面がよく揺れる揺れる。

 さて、本作の欠点としては、短いからこそまだそこまででもないですが、シナリオバックジャンプが今作では搭載されていません。その代りにセーブ数が250個弱(MYTHでは24個+クイックセーブ5個)なので、相当数こまめにセーブをすることで実質シナリオバックジャンプに近いことが出来ます。
 ただ、欠点らしい欠点は本当にそれくらいで、それ以外にここが不満だ、というところが見つからない。勿論Lv.2に続く謎が残るのは一種の不満ですが、逆に言えばそれだけ引き際があまりにもよかったことの裏返しでもあります。

 完結どころかまだ序破急の序でしかないわけだから、現時点で90点以上の高得点を付けるようなことは流石に出来ない。
 逆に言えば、序破急の序でこれだけ面白いのだ。個人的にMYTHで最大瞬間風速がびゅーびゅー吹いてたのが二周目bだったのだが、現時点でこれのラスト付近はそれに近いレベルの瞬間風速が吹いている。
 正に、圧倒的。MYTHの流れを汲んだシナリオや演出方法、絵と写真での背景や鍵括弧一つに至るまでの使い分け、那古野先生の絵にそれらを支えるラック眼力氏の音楽とも合わさって、現時点でノベルゲームだからこそ出来る素晴らしい作品です。
 この勢いのまま、Lv.3ラストまで駆け抜けてくれれば、確実に100点付ける作品になります。

 ここまで大絶賛してるのは、ひとえにこれの次がまだできておらず、逆に言えばそれが作者ナカオボウシさんのモチベーションに繋がるからなんですよね。
 ナカオさん曰く、現時点でLv.3ラストまで既にプロットは組みあがってるとのこと。あとはナカオさんが演出の方法込みでアウトプットするだけ。
 自分がもう完全にCircletempo信者と化してる節はありますが、それを抜きにしても完結までしっかり駆け抜けてくれることを、ひたすらに待つばかりです。Lv.2はC92に出ればいいなぁ……。


追記
 神視編などに於ける、MYTHで使われた楽曲が逆再生(に加え倍速)やポケベルの着信音としてなど、編曲した上で何らかの形で使われてるのは以下の通り。
劇中劇

白百合の果て(うみねこのなく頃に未使用楽曲
影、ミツメル、光
嘘つきな世界
神々の詩
長考

同様に他作品関連の曲は以下の通り
A drunkard of a wilderness(ローズガンズデイズseason1使用曲
ならず者たちの憩い(同

 ローガンの二曲は、ギアだから本編じゃないとはいえ、いじらず完全に同じものが流れたのでおいおいとはなった。正直他作品で使ったものは使いまわし感出てしまうからあんまりなぁ……とは。
 まぁ体験版でも出来る範囲だから別んとこで書いた体験版感想でも言ってるのだけど、編曲ぐらいはしてほしいな、とは思ったり。