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PlanadorさんのLove Sweetsの長文感想

ユーザー
Planador
ゲーム
Love Sweets
ブランド
MOONSTONE
得点
80
参照数
296

一言コメント

女の子といちゃラブするエロゲがしたいならこれをやれ! と太鼓判を押せる一作。一部残念なところもありますが、主だったシリアスは一切なく、基本的に純粋に一対一でヒロインとの恋愛を楽しめる、初心者にこそ心置きなく推せる作品です。長文はヒロインの衣装の話と、お騒がせ系後輩の音無櫛無と万能型幼馴染の一ノ瀬結衣について。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 学園制服の立ち絵で、真の意味で一から関係を構築していくヒロイン三人(奏絵・櫛無・みなも)は制服にカーディガンを着込んでいて、旧知の間柄の二人(結衣・伊織)は着込んでないんですよね。結果的なのかどうなのかはわからないですが、視覚的には主人公樹から見た物語開始段階での立ち位置の違いが示されていて、そういう意味ではこの塩梅はよかったなと思います。

 で、本作の学園制服って、いちゃラブゲーにしては珍しくかなりまっとうな形でのブレザー制服なんですよね。よく、半分ネタとして、いちゃラブゲー辺りに多いゴテゴテしたヒロインの制服は「で、それを冠婚葬祭で着れるの?」という問いかけがありますが、本作の制服は間違いなく葬式の時にそのまま着てても違和感ないデザインです。
 よく実在の制服と被るとまずいということで、いちゃラブゲーの制服は少々奇天烈なものにするということがあるというのは聞いたことがあります(な割には陵辱ゲーヒロインの制服はだいぶデザインが普通なことが多いように思うのは気のせいですかね)が、こういうのは寧ろドシンプルでいいんですよね。シリアスも特にぶっこまれない純粋ないちゃラブゲーは、「実在しそうなヒロインとの恋愛を楽しむ」ものなわけですし、そういう作品でこそ「普通に実在しそうな制服」があってもいいと思うので、そういう点で評価したいところです。

 そしてその分、そういう少し奇天烈なものはホットショコラのバイト服で活かされています。上半身胸元より上がネクタイとネクタイ留めのためのYシャツの襟元だけという図柄は中々思い切ったなと。
 冠婚葬祭で着れるか否かの話は、半分ネタと言っても、疑問点として浮かんでしまうとこれ結構気になってしまう話なんですよね。ですがバイト服は冠婚葬祭に着ていくことはないですし、冒険しても制服よりかは然程気になりません。
 なので、バイト服をそういう方面に思い切るというのは正しい選択かと。強いて言えばどういうお店だよという突っ込みは入りそうですが、どういう学園だよ、よりかは気にならない(そういう店です! で押し通せなくはない)ですし、これ着て厳かな場に行くわけでないなら、それでいいのかなと思います。

 その制服やバイト服が多分に関わるエロシーンも、ペニス描写が一部白抜き状態でアレなことを除けば中々によいシーンが揃っていました。
 ただ、少し不満なのは、一部ヒロインに於いてシーン時の衣装的な面でばらつきが出てしまったこと。全ヒロイン五シーンずつですが、以下に衣装的な内訳を記載します。

奏絵 :制服(手マンのみ)→制服→バイト服→制服→私服
結衣 :全裸(パンツは脚に引っ掛け)→制服→バイト服→制服→制服(イヌ耳付き)
櫛無 :全裸→全裸→私服(手マン手コキのみ)→私服→バイト服
みなも:私服→バイト服→制服→私服→バイト服
伊織 :全裸→私服→制服→バイト服(ネコ耳付き)→裸エプロン

 奏絵と櫛無は本番が一回ずつ少ないとはいえ、四回シーン数があれば、立ち絵としてある全裸・制服・私服・バイト服は全コンプ出来ます。しかしながらコンプしてるのは伊織のみであり、全ヒロインシーンが完備してる衣装もバイト服のみになります。
 本作はヒロインの衣装に拘りを持っているという感がありありと感じられたが故に、じゃあその衣装でのエロシーンは欲しいよ! となるんですよね。併せて、恥ずかしがるヒロインを全裸にひん剥いて、主人公も裸になってヒロインに恥ずかしいところを見せながらお互いに初体験してほしいというのもあるので、そこはあと少し頑張ってほしかったなーと。やはり立ち絵としてある衣装のエロシーンは完備してほしかったと感じるところです。

 現実っぽいといえば、髪の色がみんな茶~グレー~黒系なので、極彩色に染めた感がないのもいいですね。みなもだけ少し脱色してるかなというのはないではないですが、十分許容範囲かと。
 個人的には、ヒロインの髪は、外国人ヒロインと明言ある上での金髪銀髪とか以外では、基本的に黒とか茶とかの、染めるでもなく無理なくなりうる色の方がいいというのはあるので、中々嬉しいところでした。

 肝心のヒロインの話ですが、本作で白眉なのはやはり幼馴染の一ノ瀬結衣ではありますし、(幼馴染厨の贔屓目抜きにしても)キャラとしてもルートも一番出来がいいと言ってしまっていいと思うのですが、自身のルート外での活躍としてでのMVPは後輩の音無櫛無ではないかなと。
 というのも彼女、とにかく周りを引っ張る引っ張る。周りがどう思おうとも、場をいい意味で引っ掻き回し、時には話題の当人らを置いてけぼりにしていきます。こう書くとヘイトが溜まりそうにも聞こえますが、そういう状況の時は嫌らしくない形で櫛無に対しオチが付くように出来ているんですよね。なので、特に個別でですが、櫛無は各個別のヒロインを際立たせる役割に徹してくれています。
 正直自身のルートでのみ、攻略対象であるが故のずれを感じずにはいられない節はある(お兄ちゃんになってくださいのくだりは櫛無にしては迂遠な好意の伝え方である感が拭えない)のですが、それ以外ではひたすらに周囲を巻き込むイメージリーダーであり続けました。正直彼女の有無で作品全体の雰囲気がガラッと変わるレベルです。
 櫛無がいなければ、各ルートに於ける攻略ヒロイン以外が絡む割合が半減するぐらいには兎角櫛無の存在は重要です。櫛無が唯一一歩引いた立ち位置になっていた結衣相手でもその役割を任されていたので、その徹底ぶりが窺えるかと。本作の空気感を醸し出すための一番の功労者でした。

 そして幼馴染の結衣ですが、キャラとしてもルートのシナリオとしてもラブコメの最上位のものができていたなと。本作のいいところは結衣の関係に集約されていると言っても過言ではありません。
 作品の傾向的に、「新たに知り合った女の子と仲良くなって恋仲になりたい」と樹が考える状況下、結衣や伊織に流れることは、ともすれば「妥協」だとか「致し方なしに」という言い方をすることも可能です。実際、実妹の伊織ルートはわずかながらにその気がないではなく、共通段階の選択肢的にもそういう雰囲気がないわけではありません。
 結衣は、共通選択肢で積極的に結衣を選ぶことでルートに突入するわけですが、そもそも結衣の初バイト時にバイト服姿に見惚れたり、個別に入ってからも煽り煽られからのキス事件があるわけで。というか胸のサイズを86のEだなんて意識する前から伝えてくれちゃうわけで、その段階で無意識な好意はあったと考える方が自然です。
 なので結衣ルートについては、「ホットショコラで女の子と接して幼馴染の良さを再認識した」という流れで考えていいと思います。共通段階だとかで過去回想が挟まれることはありませんが、一言二言「樹が五歳の時にさ~」というようなのがちょこちょこ挟まれますし、名ばかり幼馴染ということもなく、安心して見ていられました。
 ですが本懐はやはり個別に入ってからのデレデレ具合。共通段階でちゃんと語られる幼馴染としての過去エピソードでバフをかけた上での、「これまで一番近しい友達としてやれてたことがやれないというもどかしさ」というラブコメとして一番おいしいと言う人が多いパートはニヤつく事必至。付き合い始めてからの手つなぎ→キス→初体験と順序だてて進んでいく関係性は、かといってラブコメとしての質を下げることもなく、ずっと良質ないちゃラブを堪能することが出来ます。
 幼馴染としてのよしみというのも、エピローグの結婚式までずっと言い続けているので、(櫛無相手にのみ幼馴染から恋人に進化した、と話してはいるものの)「幼馴染兼恋人」というスタンスをずっと堅持していたのもよかったです。幼馴染と恋人は同列じゃないタカ派として、そこはすごい大事なポイントだったのですが、ちゃんと満足感をもたらしてくれました。
 幼馴染という関係だけでいられなくなりそうになってあたふたふる姿から、落ち着きを見せてるようになってからのド直球で甘えるようになる姿まで、正に「ラブコメ」を体現してくれていた結衣ルート。一番人気は納得ですし、本作では私も結衣を推します。結衣ルート外でも、樹の一番の親友であってくれるわけなので、付き合おうと付き合わまいと、兎角隣にいてほしいような相手でしたね。

 本作、正直、伊織ルートは少し内省的過ぎ、みなもルートは伊織との関係への苦慮、櫛無ルートは少しだけずれた櫛無の勢いと、他ルートでは一部不満もあったんですよね。奏絵ルートは段々と心開いていくというのが楽しめるのもあり、目ぼしい不満はありませんでしたが、結衣ルートを見てしまうとそれら全てが吹っ飛んでしまい。
 ともあれ、物語の牽引役としては、やはり結衣と櫛無のツートップになるのかなと。正直奏絵とみなもはその辺りは少し弱かったです。実際よくも悪くも、櫛無が全部持って行ったという見方も出来るので、特にみなものキャラ立ちについては共通・個別共に少し弱かったのは否めません。
 逆に、キャラ立ちについての櫛無とキャラ・シナリオとしての結衣目的の場合はこれ以上ない作品でしょう。結衣ルートは時折見返したくなる、中々心に残るシナリオにもなりました。
 楽曲や一枚絵についても特に目くじら立つようなところもなく(一枚絵はもう少し欲しかったと思わなくもないですが)、作品の空気感を壊すものも存在せず(男友達はいる方が好きですが本作はなくて正解)、寧ろ櫛無が空気を作り出していくという好循環にも恵まれて、結果的にはいちゃラブゲーの優等生となりました。特にラブコメとしての出来は白眉であると言っていいと思います。
 にしても人気投票の順位が結衣→櫛無→伊織→奏絵→みなもの順なのはあまりにも納得してしまうというか。伊織と奏絵はどっちが上かな、結局伊織が上か、だけど殆どポイントの差がないからほぼ同列だよね、というところまで含めて納得の範疇です。

 ということで本作、学園やバイト先、主人公やヒロインの自宅や寮等で、存分にヒロインとのいちゃラブとその空気感を堪能できる優良作でした。この空気感を醸し出すというのが中々難しく、そういう点でそれを醸し出すことに寄与した櫛無は裏MVPです。表のMVPは勿論結衣ですが。
 初心者にこそお勧め出来るのは間違いないですが、シナリオゲーに疲れて甘いものを読みたいという時にもぴったりの作品です。また時折結衣ルートは読み返しますかね。

 ……うん、結衣みたいな幼馴染が兎角欲しい人生だったね?