発売開始時にはバグでクソゲー扱い、段々改善されるにつれシナリオがひどいという評価に落ち着いてきた本作ですが、所々光るところはあります。問題だったのは根幹となるべきシナリオ(はるかルート)の詰めの甘さではあるのですけど。長文は大体結衣ルートのこと。
正直ブランド買いしてたメーカーがこうだと萎えるというかなんというか(性的な意味ではなく)。
そして、案外誰も突っ込んでないな、と思うのですがOPムービーではライターが四人書いてあってetc...となってますが、実際には七人関わってます。まぁ情報欄にありますけど、正直OPでの書き方を考えると詐欺感ある。
で、ぶっちゃけ展開を考慮すると本来結衣か雫とくっつくのが正史となりうるでしょう。で、結衣ルートがトゥルーの上で加筆があれば、もうちょっと評価もあがったはず。
はるかルートの問題は、妹系シナリオでやるべきことを殆ど回収せず(代わりに結衣ルートでやってくれましたが)、安易にお涙頂戴っぽいものに仕立てちゃったこと、だと思うんです。実妹としてのはるかの描写が薄すぎて、ある種ただの転校生にしかなってない。
あと、折角トゥルーがあるのに、Kanon問題と呼ぶべき事柄が何も解決していない。結衣は義兄への踏ん切りが付けられない。渚さんは死ぬ。心音はトラウマを乗り越えられない。そしてトゥルー以外ではるかは死ぬ。はるかの死を回避したぞ! といえればよかったのかもですが、どう考えても解決してない事柄が多いんですよね。
雫に関しては解決したような描写が各ルート最後にありますが、雫ルートの展開を見る限りかなたの支えがなければとまでは行かなくとも、朝陽さんが強引にでも家に連れてかないと立ち直れないはずだし、今一よくわからない。
心音は何も解決してないだろうなぁ。結衣は無理やり押し込めたんだろう。はるかは死ぬ。
雫はルート以外で何も言ってないけど、普通にかなたや結衣らと暮らすことになる方が自然。朝陽さんの性格考えると、恐らく無理にでもそうさせるだろうし。
ついでに心音は歩夢とくっついた方が幸せになれるのは間違いない。そしてはるかは死ぬ。
あとはまぁ羅列すると、雫ルートでアテナを殺す必要はなかったよねとか、結衣ルートで父親のそれ実の娘にやる仕打ちじゃねーよとか、そもそもはるかの死別展開に感動もクソもないとか。
そして心音ルート、てめーは駄目だ。一部の方はいいとは言いますが正直これは駄目だ。どこから突っ込めばいいかわからんくらいご都合主義満載のシナリオ。点数はこれのお陰で相当下がってます。
けなしてばっかでもあれなのでいいところも。まずは業界最高峰レベルの背景のよさ。これは過去作同様素晴らしく、聖地巡礼したくなる(本作は主に小樽と函館)仕上がりになってます。
音楽の出来も相変わらずです。ティンカーベルからUNAさんが抜けたものの、ALVINEの琉姫アルナ氏が加わり(寧ろ本作はアルナ氏がメイン)、夏感を出しつつAQUAとは違った雰囲気に仕上がってます。「Cause and effect」と「涙痕」は個人的にいつまでも聴いてられる名曲。
そしてED曲の「Remember One More Time」は実に秀逸。トゥルー以外の各ルート終了時には召されてるはるかの心情を歌った歌詞とバラード調の旋律は見事。でも本編EDとサントラ特設WEBページとで記述が違って、本曲と「あの日は夏の日/Lonely toDay's.」を歌ってるのが各々KEiNA女史なのかMiU女史なのかわかんねーぞおい。AQUAの時も間違いあったけど。
→Hearts「ナツイロココロログ」ED「seed of happiness」を聞く限りMiU女史は「あの日は夏の日/Lonely toDay's.」の方歌ってるかなぁと。だから多分ここの記述情報&本編EDの情報が間違っててサントラ特設ページの方が正しいんじゃないかなと。
あと、個人的になんですが、章終わりのジングル、黒背景に青の羽が落ちる演出は、AQUAの時といい雰囲気の作り方は素晴らしいです。
ここまで書いといてシナリオは一切評価しないんかい、と言われそうですが、確かに正直殆どポイントないんですけど、全く駄目ということもないです。まぁ大体結衣ルート前半。
正直、結衣ルートで恋人関係になるパートまでだったら相当高い点数付けられると思うんです。異母兄妹だとばかり思ってたのが、違うことが判明して、兄妹だからと抑えていた恋心の抑制が効かなくなった妹と、それに真剣に悩む兄。実妹ルートでも中々やってくれない葛藤を、ここではしっかりやってくれました。
確かに後半の更紗悠真(結衣の実父)が出て来てからのシナリオは陳腐の一言だからこそ、前半の丁寧な描写が霞んでしまうものの、下手な実妹シナリオでもやらない心情描写を、ここではがっつりやってくれました。
まぁ、自分がガチシリアス好きでそういう心理描写を特に重要視するというのはありますが、義妹なのにあそこまでやったことを、自分は最大限評価したいと思います。
あと、ルートラストで結衣生かしたのは、あのシナリオの中では正解かなと。中途に車椅子なんて言わず下半身切除とかにすべきかもだったけどそれこそ他のユーザーがドン引きするか。落としどころとしては悪くはないかと。そもそもトゥルーはかなた殺せよだったわけだが。
総括すると、「シナリオ以外の要素は最高級なのにシナリオが風邪で頭が回らず体も動かないシェフが無理をして作ったもの」と言えるかなと。
ポチくん、砥石大樹、昼王各氏は間違いなく力量のあるライターですが、今作はどうにも本気モードじゃないなと。そして、それを不味いと思った料理からきしな客が、自分が思うごった煮を付け合わせにした、というイメージ。
あと、AQUA、さく咲きでブランドイメージとして出来上がってた「死生観」がこの作品で悪い意味でぶっ壊されちゃったなと。顕著なのが雫ルート後半で、無理に盛り上がらせようと無駄にアテナを殺してしまったことからも伺えます。
Byeを書いたここが、別に現代恋愛ものが書けないとは一切思いません。だけど、それにしては割と適当感溢れるシナリオ運びは、どうしてこうなった……という以外の感想が出てこない。
今後は、SORAHANEの前身である同人サークルトラウムブルグ七番地として新たにやり直すみたいですけど、本来良質なシナリオを書け、且つ「背景買い」が出来るレベルの業界最高峰の背景を描くブランドなわけですから、再起に期待したいです。
追記
kyouraishi氏の感想と(結衣ルートの評価以外は)割と似通ってますが、思ったことそのままに残しておきます。
追記Ⅱ
歩夢「義理の兄妹だからって……そんなに簡単に、越えちまえるもんなのかってな。悪いけど、俺には理解できねーし……前よりもお前達を遠く感じるよ」(第14話「ホール・ニュー・ワールド」
実柚「結衣は多分、かなたさんのことを本気で好きだったと思うんです。それはたぶん、兄妹としてだけじゃなくて……」
(中略)
実柚「でも……血が繋がってないのなら、結衣が我慢する必要はないんじゃないかって……それが今の私の気持ちです」
実柚「甘い考えかもしれませんけど、もし結衣がかなたさんに想いを打ち明けられたら……その時は、受け入れることを考えてあげてください」
――以上第18話「Sunset & Moonrise」より
何度でも言いますが、これを実の兄妹でなく(元々血がつながってると思ってたとはいえ)義理兄妹のシナリオでここまでやったというのはほんと評価しますし、結衣ルートはとにかくそこを読んでほしいです。ぶっちゃけ買う意味合いはここが最大の要因足りえます。
まぁそのせいではるかルートがアレなことになったとも言えるわけだけど。何故結衣ルートを正史にしなかった……。
TRUEラストで「これが俺たちの望んでいたもの」とあるけど、如何せん結衣ルート比較妹との恋愛に葛藤する描写がなさ過ぎて眉唾もの。ついでにTRUEははるかの体の弱さ考えると子供作れんだろ。
てか結衣ルートだけは、はるかルート以外ではるか死んでることをかなた以下知ってそうということを、よく見たら匂わせてるのな、再プするまで気付かんかった。
追記Ⅲ
心音ルートのトンネル崩落は、聖地的に1996年の国道229号線豊浜トンネル岩盤崩落事故がモデルかなーと思ったり。この事故で乗客乗員19人の路線バスと一人乗車の乗用車一台が崩落岩盤の直撃を受けて全員が亡くなってます。
でもそれを前提とすると心音は生きてるのはおかしいし、でもそもそもモデルがないとするなら視察まで行っといて何やってんだとなるし、うーむ。
追記Ⅳ
悠真の憎悪はまぁ結衣ルート最後までやれば理解できます。
『何十年も前のささやかな想いを、どす黒く煮詰めてしまった子供』って、正直割と人間の本質を突いてると思うし、この表現割と好きです。
結衣「ただ、あの人は寂しかったんじゃないかって……そう思えてしょうがなかった」(第20話
実際同じ状況で悠真と同じ轍を踏まないと断言できるかというと、全員がそう言えるわけではないんじゃないかなぁと。長くなるのでここら辺で。
とりあえずここでただの喧嘩に何故か結衣が路面電車に撥ねられる不必要な展開じゃなければなぁ。
路面電車って実は車以上にすぐに停まれるんだぞ。普通運転士気付くわ。「雨(だからレール)三本(分早くブレーキかけろ)」でも間に合わなかった――わけないだろ運転士めくらかよ。
追記Ⅴ
しかし、どうすればこの作品に於けるKanon問題を解決できるのか。心音のトラウマ、雫の自己否定、結衣の恋慕、はるかの病――うん、一筋縄では行かないなぁ←
ただ、心音のトラウマは割とどうとでもなるので、雫を幼馴染のよしみで解決しつつ結衣と恋仲になってはるかを救ってかなた死亡! ――うん、一番しっくり来るけどかなたは死ぬ。
雫ルートの展開を見る限り、割と雫はかなたと結ばれないと解決しないっぽいのが問題なんですよね。
ぶっちゃけると、はるかはヒロインとして出すべきじゃなかったと思う、と言うと身も蓋もないですが、中途にシナリオに整合性が取れないなら、やっぱり近未来設定で大どんでん返しをやってもよかったんじゃないかなぁと。
――というわけで整合性取りつつKanon問題を解決するのは諦めましたorz やる気なら二次創作書くしかないですねぇ……。
追記Ⅵ
聖 地 北 海 道 な は ず な の に 何 故 味 噌 汁 出 汁 が ア ゴ な の か
――いやまぁ作中設定では近い月ヶ浜が長崎だから別にそこまで関係ないだろうけどさぁ。