幻創庭国イスタリカは尊い犠牲を伴って崩落した。この作品は、最期まで生徒と同僚想いであった、ある教師に向けた鎮魂のための墓標である。
ジャネット先生――本名田中夢子さん。30代前後の独身女性であるが、生徒や同僚からはJ子と呼ばれるなど親しみを持って接せられていました。尚、「学☆王」にも輪廻転星の魔法を使用した上で出演されているとのことだが他作品事情までは把握されていないです。
8月上旬、幻創庭国イスタリカの崩落の日、彼女は休暇中であるにも関わらず学院におりました。
勤務先のウィズレー魔法学院は夏休みで校内には帰省しない生徒も多くおり、彼女も帰省せず滞在をしておりました。
昼下がり、学院内で騒ぎが発生し、緊急で生徒の避難を余儀なくされました。その時、率先して飛行艇による避難誘導と整列を執り行ってくれたのが彼女でした。
十組に渡る飛行艇での学院からの避難。これらを彼女一人で全てこなし、生徒の人的被害を零にしてくれたのは、紛うことなき彼女の功績です。
彼女が、最後の飛行艇が飛び立つ前まで、生徒や同僚の身を案じてイスタリカに残り続けたのは明確です。それは、彼女が学院、ひいてはイスタリカに残る人数を確認しに来たからと、最後の飛行艇で脱出した生徒の一人は証言しております。
しかし、最後にイスタリカを飛び立った飛行艇にて、かつての同僚が変わり果てた姿であろうとも生徒らに抱きかかえられている中、彼女の姿は一切確認されませんでした。
飛行艇での会話に田中夢子さんは混じっておらず、代わりに別の少女が乗船しておりました。学院の生徒でもないというその少女は田中夢子さんのことは存じ上げないとのことで、同僚同様に姿かたちが変わってしまったわけではないようです。
田中夢子さんは、その後、物語が終わるまで一切の安否が確認されておりません。恐らく、残念ながら幻創庭国イスタリカの崩落に巻き込まれて、亡くなったものと推測されます。
この作品は、そんな田中夢子さんが、同僚と共に、教師として生徒のために身を粉にして働き、学院を支え続けたという記録です。せめて、墓標としてでも、彼女の生前の活動の記録が残るのならば、これに勝る嬉しさはありません。
願わくば、全ての生徒並びに同僚想いであった田中夢子さんの霊魂が、未来永劫安らかでありますように。
追記
茶番は兎も角()端的に本作の感想を述べるなら「各種要素をごった煮した結果いい所悪い所の差が如実に表れた作品」ですね。けどジャネット先生飛行艇にて姿見受けられないんでマジで崩落に巻き込まれたんじゃ……。
ともあれ各種要素毎に私見を。この作品は主に三つの要素で成り立っているというのは、既プレイ者ならお分かりかと思いますが、端的に順に見て行きましょう。
まずはイチャラブゲーとしての側面。プロローグ以外は実質個別扱いされる共通とステディモードと、付き合い始めるまでとその後という風に二段構えになっております。
他の方が仰ってる「女子校なのに他の女子との絡みが殆どなくて作業ゲー」という意見については、最もであると同時、クロノカードの弊害的な側面が強いのでこうせざるを得ないのも理解はします。ただ、立ち絵無しのモブ女子三人も名前すらなくてもよかったよなぁとは感じましたね。
勿論クロノカードにもこれら各生徒は記録はされたんでしょうが、まぁそこまでやってると収拾つかなくなってしまうので仕方ないとして。
共通は主に付き合い始める、ステディモードに至るまでの経過ですね。個人的には馬鹿ゲーに至る分岐を抜きにしても、各人の惹かれる描写は、物語以前より惹かれていた秋音と諷歌も含めよく出来ていたと思います。正直その空気感が個人的には一番好きでしたね。
で、そのステディモードの、共通と別枠でヒロインとのイチャイチャを楽しめるというのはよかったと思います。後述しますが、故にtrueとの噛み合わなさが余計気になったのですが。
で、このステディモードをわざわざ分ける構成は個人的には好きでした。というのも、共通はともかくステディモードは「主人公とヒロイン」と登場人物が絞られることなんですよね。勿論必要に応じて他キャラも出てきますが、ともあれイチャラブをする箇所であると分けることにより、プレイヤーの気分的にもメリハリが効くようになります。
なのでステディモードを最初から見るには基本的にキャラと恋人関係になってから、というのは、ワンテンポ置いてキャラとイチャラブするぞ! という気分にさせてくれるという点で非常に有用です。そうした上で読み進めるイチャラブは専用システムボイスを筆頭に「キャラとイチャラブしてる」という確かな感覚があります。
ちなみに、各種記念日は正直記念日じゃなくても見たいと思うので、各種記念日は済になったらまた見せて欲しかったですねぇ。一年に一回待つというのは逃すと面倒なので自動回収して読ませてくれるようにしてくれた方がありがたいです。
お次に馬鹿ゲーとしての側面。これらの各種エンドはどれも腹抱えて笑ったくらいには面白かったです。お茶漬けエンドとかどうしてその流れで選択肢にお茶漬けが出て来てしまうのか。
これこそクロノカードを使った展開の多様性ですね。バッドエンドなどがあるならば寧ろ多様性が見たいと考える人間からすれば実においしかったです。
とはいえ一部論理付けに無理あり過ぎるとも思うけどな! 飼育委員を選ぶ→飼育されたい!→姫百合に隷属するとか流石にもう少しいいカードはなかったものか。あと学院の支配者エンドはちゃんとシーン回想にいれようよあれ。
で、肝心のtrue。正直trueとして持ってくるにはシナリオが弱いというのは先述しましたが、それ以上に素材関係があまりにもおざなりかなぁとは感じました。
何って、スタッフロールはおろかED曲もなしで専用CGも実質ラストの一枚だけなんですよね。イスタリカの回想で二枚その他CGとしても入りはしますが、流石にこれは少なすぎるでしょう。
音楽もtrueに入らないと流れない曲が三曲あり、こちらは終わりが近いと思わせるには十分でしたが、視覚でわかる大団円のCGがないのは素直にいただけません。イスタリカが崩壊してる背景画でというのはお茶を濁し過ぎというもので。
特にEDは、わざわざおれらENDでバッドエンド専用曲などという馬鹿ゲー極まれりなことをやってはいるわけで、そこでtrueはスタッフロールを含めた総清算としてのED曲がなしというのは流石に臥龍点睛を欠くというもの。
trueルートがシナリオゲーであるという前提でない方がいいというのは確かなのですが、諸々を踏まえた上での展開であるということを考えるとtrueルートはシナリオゲーと言う他なく。
ただ、trueのシナリオの出来如何に関わらず、これらイチャラブとtrueの要素が噛み合ってないという事実は否めないと思います。ということで各ヒロインルートについて。
まずオリエッタ以外の三人ですが、これはステディモードはとにかくイチャラブ全開でキャラとの恋愛を楽しめます。ですが、trueに入ってしまえば、ヒロインもそれらのイチャラブが「なかった」ことと「記憶」した上で「負けヒロインと自覚」するんですよね。
この構成は、三人の何れかが推しである人からすれば中々に憤怒モノ。結ばれてその後イチャラブしたという結果が「なかったこと」にされた上に負け扱いで本編中ではフォローすらされないのは流石にどうなのかなと。
ちなみに、しげた氏のブログで「各ルートは全て実在の上歴史を紡いでいる(がイスタリカを救うため輪廻転星が毎回働いている)」という補足がありますが、本編上でこうヒロインに言わせてるという時点で正直いい気分にはならないですね。
余談ですが、秋音は正直男の娘エンドがあまりにもしっくりきすぎてしまって、ボーイッシュ気味な同室幼馴染とかいうあまりにも個人的ドストライク設定でそこまで萌えないというオチがついてしまってそういう意味でも不完全燃焼でした。まぁこればかりはしゃーない。
一方のオリエッタ。こちらは構成上完全なる勝ちヒロインです。trueを見ればイスタリカ大勝利エンドにも出来たでしょうに、果たしてオリエッタtrueと呼べるぐらいには大正義ヒロイン扱いです。
実際それ自体は正解だったと思います。結果的にぽっと出になるイスタリカを攻略扱いにしても限度がありますし、それならばどうせ双子の片割れであるオリエッタ自体を掘り下げた方がイスタリカ自体の掘り下げも出来ます。
ということで構成はいいのですが、肝心のオリエッタのステディモードがtrueに向けた伏線をばら撒きながら進むため、共通終盤からの違和感が拭えないままイチャラブも同時並行と、どうにもイチャラブに没入出来ないという欠点が生じます。
オリエッタルートは恐らく冬茜トム氏の執筆と思われますが、基本的には謎が残るような状況では伏線をさらに張るということを行うライターですので、作品自体の没入というマクロな視点ではいいのですが、オリエッタのステディモードに限ればその性質が却って仇になってるようにも感じます。
私は彩頃サイコロで氏を知り一発で推しライターになったわけですが、本作がまずはイチャラブが大前提であるからこその不満点です。そういう意味ではオリエッタも多少なりともシナリオの犠牲になっている面はあるかなと感じます。
ただ、これら弊害は、ライターの腕のいい悪いというより、元々のしげた氏の企画が少しばかり無茶があったというのが正しそうです。
まぁ、とにかくクロノカードがシナリオ面でもシステム面でも兎角優秀だったので、これを前提とするとこういうシナリオ構成にするしかなかったかなぁとも思うので、致し方ないところなのかなと。
結論として、イチャラブゲーとしては間違いなく良質。trueルート前提としたシナリオゲーとして見る分にはちょいと弱いですね。正直な所、そういう意味では個人的ピークは各共通終盤の各キャラとくっつくとこまででした。
ですがそれ以上に、そのイチャラブとtrueのシナリオ具合が喧嘩してるのが気になっただけに、クロノカードを差っ引いても、もう少しどうにか出来なかったかなぁというのはやはり思う所です。
とはいえ、要素要素に於ける光り方は他と一線を画すぐらいの所もあって、手放しでは褒められないですが、全編通して安定して面白い作品であることは間違いないでしょう。
真のtrueエンド? うーん、そこはやっぱり妊娠エンドかなぁ……。