ErogameScape -エロゲー批評空間-

PlanadorさんのPrismRhythm -プリズムリズム-の長文感想

ユーザー
Planador
ゲーム
PrismRhythm -プリズムリズム-
ブランド
Lump of Sugar
得点
85
参照数
564

一言コメント

共通では雰囲気ゲーかと思えば、個別は各種要素に散らばって、おまけにラストのExtraのお陰で却って整合性つかなくなって。ですがそれら一見雑にも見える作りは、全編に渡って意図的に「妖精の気まぐれ」という作りにするためだったのかなと。長文はプレイ順に軽く各ルートまとめ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

リア・ベルリオーズ
 情報屋系ヒロイン。他人と接点が多い割には特にモブキャラとの絡みがなかったのは本音なんだかなという感じ。奸智の申し子というならそれ位はねぇ。
 自分の夢より他人の夢を優先しちゃう系女子。リアがミルレイス・スノー祭の演舞要請を辞退して、けど結局一騎一人の頼みで銀に無理言う流れは流石にどうかと思いましたが、それ以外は他イチャラブ系作品に似たシナリオ運びをしてたんじゃないでしょうか。

 意外とカスミ以外の「ベルティナになりたい」という三人の中では一番ベルティナ関係が絡んでいたルートでしたね。
 ただまぁそれ以外はほんとにイチャラブしかしてないというか、特筆すべきことが本当に何もないなぁと。まぁイチャラブゲーなのでなくていいといえばいいのですが。

 欲を言うなら、バイト先でも自宅でも本に囲まれてるなら、その本で得た誰も知らない知りえない知識とか披露して見て欲しかったなと。
 とりあえず、三つ目のえちシーンの前のキスの音声、一箇所明らかにマイクにぶつかったと思しき雑音が入ってて思いっきり没入感阻害されるんでどうにかしてください、いやマジで。



土岐遠カスミ
 昔は男勝りだった従姉妹のねーちゃんが今では、みたいな感じ。
 なんだかんだ一番一途なヒロインではありました。まぁそりゃ生死に関わる状況をああやって助けて貰ったなら当然ちゃ当然ですが。しかし小舟の苦手意識が消えてたってのは地味に読めなかったですね。

 このルートで特筆すべきことはこの世界の文化的なことですね。復興が遅ければ文化も成り立たないというのは正にその通りで、個人的にそこに触れた上で、ティーナに文化を持ち帰るという一騎とカスミの将来を考えてくれたのは嬉しかったです。

 しかしまぁなんというか、特に年上幼馴染好きからすればこれ以上なくたまらないルートでしょう。
 イチャラブの配分がかなりよく、その上で一騎とカスミが目指す先を見据えた展開をするという、なんというか基本を忠実に押さえたルート。他ヒロイン興味なくともカスミにはびびっと来る、みたいなのがあったらそれだけで買いでもよさそうです。
 しかしExtraの描写を見る限りカスミも結構状況に流されやすいとこもあるし、実際一騎みたいな性格は相手としてぴったりなのかもしれない。それも含めてのルート構築がしっかり出来てるシナリオでした。



水音銀(クリスティン・マックウォーター)
 カスミお姉さま好き好きオーラ全開ロリ系同い年ヒロイン。ライトな特殊性癖詰め合わせのキャラだったので、それらが好きな人にはぶっ刺さるヒロインなのかなと。
 まぁ正直共通序盤の「お姉さまに近寄る悪い虫」的扱いだったのはキャラ立ち目的だったからこそもうちょっと別のやり方はなかったかなぁとは思うのですが。親戚なんだから普通に喋ってたっておかしくないじゃん。

 一言の方で先述した散らばる各種要素というのは、一番このルートは顕著だったかなと。何が言いたいって個別でのイベントが繋ぎ合わせただけで特段流れになってなかったんですよね。
 例えば共通に於ける銀のクラスメートによるひそひそ話。銀へのナンパはみんな玉砕した、という話があるなら、銀を連れ出せた時点で何か言われるはずですし、個別で付き合い始めた際にもう少し何か周囲の反応があってもいいと思うんですよ。
 個別では他にも両親の話、カスミお姉さまの話、ベルティナの話と各々発生しますが、それらが一直線にはなってない。あっちこっちに話題が振られて落ち着かないんですよね。

 なんでそんな状態かって、殊更に作中「大人」を強調していた銀です、逆に「子供である」ということの示唆としての作りだったのかなと。
 銀は話したい。大好きな家族のことを。慕っているカスミお姉さまのことを。いつしか好きになっていたカズキのことを。いつかはなりたいベルティナのことを。
 そうやって話したいことが一杯あるから、整理もせずにとにかく話す。子供っぽい銀の「気ままさ」に振り回されるお話と考えれば、悪いもんでもないのかなと。一騎とカスミの二つの視点から、銀の成長を見届けられるルートでした。

 だけど三回目のえちシーンの前、一枚絵入れるべきなのは弁当描写より膝枕じゃないですかね。リアで膝枕する側はあったけどされる側はなかったんだし、弁当はエルスの水上下りと被るから絶対そっちの方がよかったって。



エルステリア・マリーゴールド
 どこに出しても恥ずかしくない優等生ヒロイン。その理由は最愛の姉を目標とし自己研鑽を怠らないため。

 妹が姉から羽ばたく話。本編内で明文化はされてはいないですが、エルスが常々感じているものに「キャロラインへの劣等感」があります。それに付加して自身が誰かに劣ってるという「思い込み」ですね。
 妖精ごっこも、あくまで姉と妹とで見えてる世界が違う「かもしれない」という疑念があったわけですが、そこから空想が出来なくなり、森に拒まれてると「思い込む」ようになった所から、本編内のエルスは形作られています。
 故に一騎のキャロラインへの憧れ=恋だと思い込んでるし、自身が子供だから姉や一騎に妖精が見えても自分には見えないと思い込んでるし、一騎から告白されるまで一騎と自分は釣り合わないと思い込んでる。

 そしてそれをサポートする一騎が実に主人公してるんですよね。
 キャロラインから妖精ごっこの話を聞いて、キャロラインも同様に妖精「ごっこ」をしていたとは言わなかった、だから妖精はいる、とエルスに伝えるところとか普通に冴えてる。妖精を二人で探しに来て手を離したエルスの震えに気付く一騎は普通にイケメン。
 その上でリアでも出来なかった卑下する自分を常にプラスの思考に傾かせてくれる発言の数々。そりゃエルスも感極まって自分からファーストキス捧げに行きますよ。

 姉に認められないとわかっているからこそ、姉に認められて初めてベルティナへの一歩を踏み出せる。一騎が支えてくれるから、キャロラインがいなくなってもその道を歩んでいける。
 アルガロ・デ・モンド祭のラストで舞踏したこのルートのエルスは恐らく学生の内にベルティナの資格を習得したことでしょう。あと多分キャロライン失踪後どっかのタイミングで一騎と同棲始めてそう。

 そうそう、エルスルートは一枚絵絡みで褒めるところが滅茶多い。
 まず告白シーン。あそこは敢えて夕暮れ空を大きく写し、全身が写るように二人を小さめに描写することによって、大きな世界の中の二人きり、という状況が的確に描写出来ててすごくシーンに入り込める。
 それとふくらはぎのマッサージ。なんですかあの表情! 非エロ一枚絵であれだけ表情エロいと思ったのは久々でしたね。あれはえちぃとかそういうんじゃなくて、表情が滅茶苦茶エロい。
 というかあの絵そのままえちシーンで使ってよかった奴だよなぁと。まぁプレイの内容的にも厳しかったろうとはいえ、気持ちえち絵が一枚増えたように思ったエルスでした。そもそも他ヒロインより一枚絵一枚多いけど。

 とまぁ、一言でいえば「完成」されたルートでしたね。エルスと一騎の関係性、共通からの連続した雰囲気、丁度良いイチャラブとどれも一級品。
 虹色の羽など、Extraで明かされる伏線もそれなりに張っていて、堂々のtrueルート然とした風格でした。Extraもエルスルートの続きでよかったのよ?
 一つ注文付けるとしたらエルスのデート服はもう少し要所要所で着て欲しかったわね。ああいう服ドストライクなんや……。



Extra(キャロライン・マリーゴールド)~総括


 キャロライン:カールの女性名、カールは「自由農民」の意

マリーゴールド:「聖母マリアの黄金の花」の意、花言葉は「信頼」、「生命の輝き」、「変わらぬ愛」など


 時間軸的には本編ラストのアルガロ・デ・モンド祭から二年後。一本道だけど途中分岐して収束してく形のルート。キャロラインと会うのがエルスか、一騎だとするならえちするかしないか。
 まぁ一騎が会いに行って正体を知る(=えちはない)が本ルートでしょうけどね。ただ他二つの展開でもなんとなく一騎は感づいてそうな感はあります。まぁ先述の通りエルスルート前提でエルスと一緒に会いに行けばよかったようには思うのですが。

 エルス自身はここでは一騎と会うのは久しぶり(といってもせいぜい長くて一ヶ月ぶり程度)と発言してますし、誰ともくっつかないifルートではあるのですが、Extraの内容そのものは実質的にエルスルートの延長線上のものと言えそうです。
 まぁエルスの反応見る限りエルスと一騎は親友以上恋人未満状態なのかなとは思いますけどね。カスミは完全に恋する乙女だし銀も同様だけどカスミの手前完全に下がってるのは特に銀スキーからすれば賛否両論ありそう。リアはその後いつの間にか京司とくっついたとか割とありそうな気も。
 ひとまず状況は完全に「カスミ→一騎→←エルス」でしたありがとうございました。尚一騎は未だに無自覚な模様。


 ところで、正直な所、他の方が言うほど雰囲気に傾倒した作品ではないというように感じます。各要素がよくも悪くも点在、シナリオは殆ど起伏がなく、ルート毎の方向性が細かいところでずれる、と合わない人には合わないの一言で一蹴されてもおかしくないように思います。
 途中、各個別などでキャロラインに対して感じたのは「都合のよさ」でした。キャロラインのキャラがというより、エルディスで忙しいはずなのにキャロラインが何かにつけて登場することへの都合よさですね。

 また、シナリオ以外でもそういった傾向は表れています。
 一番顕著なのはBGM。特に「PrismRhythm」(初期タイトル画面曲)はほんと無限に聴いていられるわけですが、厳かに舞踊をしているかと思えば途中から跳ねたり転げたりするように転調する曲です。Extra出現時に代わりにタイトル曲になる「少女たちのそれぞれの未来~Long.ver~」も同様ですが、言い方を変えればこれらの曲は「落ち着きがない」と形容することが出来ます。

 そして、何より一部は明かされるどころか増やされる設定面での謎。最終的にキャロライン=妖精という事実だけを与え、寧ろ謎は増えた状態で物語は幕を下ろします。
 見る人によっては、これは投げっぱなしであると評価されても仕方ないですね。投げっぱなしではないとは個人的には思いますが、実際私自身もExtraは蛇足な面が多いと思うのも事実です。

 けどいいじゃないですか。だってキャロラインは「妖精」なんですから。これらをまとめると「妖精は気まぐれ」の一言に尽きます。
 妖精というものは古今東西に於いて神話や伝説などに出てくるものですが、その性格は概して「気まぐれ」です。ですがその訳された元である「フェアリー」の語源がフェイト=「運命」です。
 故に、キャロラインとエルス、そして一騎の一連の行動は恐らく妖精=キャロラインが作り出した物語であり、且つ運命だったのでしょう。最後のキャロラインとの対峙は、恐らくキャロラインが各人の成長を見届け、退場することによる「運命の終わり」をも示唆していたのかもしれません。

 ――まぁえちシーン込みでキャロラインルートを設定するためにはあれ以外なかったわけですが、無理に設定する必要もあったかなぁとは実際思いもしますが。ただ流れとしては理解はします。
 一騎に告白されたとして、キャロラインとしても、一騎が聖職資格を若くして得たからこそ、一騎なら、と踏んだ節はあるでしょうね。まぁその理屈だとカスミもそうなんですけど。
 ただ、キャロラインが一騎に向けて言った、エルスを宜しくねという言葉は、エルスの「実姉」としての、最後の一騎に対する望みだったと思うのは、私だけなのでしょうか。

 キャロラインは、エルスたちが生きてる間にまたふらりと現れるかもしれないし、現れないかもしれない。気まぐれな妖精は、最後までキャロライン以外その存在を明確なものとはしなかった。
 言ってしまえば空想の余地を多大に残す作品ですね。これ以上の気まぐれもないでしょう。これを設定抜け抜けと見るか、意図的に多大な余裕を持たせたと見るかは人によってわかれるかと思いますが、私はこれでいいと思います。
 キャロラインが妖精で、虹色の羽で自由気ままに舞ってるのなら、また一騎もエルスも会えるのでしょう。キャロラインはずっとエルスと一騎を見守っている。なら、また三人で、森の泉のほとりで。


※上記のぶん投げた伏線を自分なりに回収してみた、エルスルート前提のExtraという二次創作を書きましたので宜しければ。以下二つは全く同じ内容ですのでお好きな方でどうぞ。
Pixiv:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=9544168
ハーメルン:https://syosetu.org/novel/155921/


 虹色の羽は「プリズム」であり「プリズム・リズム」であるとエルスルート「虹色の羽」に於いて語られています。正に存在が気まぐれである「妖精」というタイトルを冠したのが本作。
 この祈り伝えて欲しい 愛が消えない世界に――「泉で妖精が戯れる気まぐれな雰囲気お裾分けゲー」が本作評。
 徹底的に整合性を求める人にはお勧め出来ないですが、ありそうでない独特の柔らかい雰囲気に触れたい方や、作品という壮大な気まぐれどんと来いという方、世界観の空想に深く沈みたい方には全力でお勧め出来る作品です。