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Peetaroさんの彼方の人魚姫の長文感想

ユーザー
Peetaro
ゲーム
彼方の人魚姫
ブランド
Wonder Fool
得点
72
参照数
433

一言コメント

夏を舞台とした「青春群像劇」でした。 大切な友人を失った4人の少年少女が、お互いを想いやり、慈しみ、尊重し、淡く恋する。 描写不足もありますが、物語の締め方は綺麗で心地よい余韻を感じています。 勇気を出して踏み出した先が、どうか優しい結末でありますように。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

キャラの心情が丁寧に描かれた綺麗な青春群像劇でした。
大切な友人を失くした4人の少年少女のお互いを慈しむ心、不安や葛藤がそれぞれの視点で描かれていました。
描写不足や雑な展開も多いですが、最後は綺麗に帰結したと思っています。


★誰の視点の物語か★
まずこの作品を楽しむうえで重要な事。
それは誰の視点の物語であるのか。
この視点が期待したものと異なれば評価が大きく変わる作品であったと思います。

通常であれば主人公の視点で物語が語られますが、本作は4人の視点を交差しながら物語が進行します。
正直に言えば共通√をプレイしている際に、主人公が全然フォーカスされない事でモヤモヤを感じていました。
主人公視点が軸ではないという違和感。
それが共通√中盤で「4人が主人公の群像劇」だと思えた事でモヤモヤは解消されます。

頭の切り替えの話なんですが、主人公主体という思い込みを捨て、群像劇と受け容れれば作品の見え方が変化します。
キャラの心情が丁寧に描かれ、汲み取りやすい事が魅力だと感じるようになります。
どんな想いで綾音を失ったことに向き合っていたのか、藍魚と友情を深めたのかを理解する事が出来ます。
それによりプレイヤー側も居住いを正す事が出来るわけです。
この切り替えが自分としては重要なものでした。
反面として明け透けでもあるため、恋愛描写のドキドキは薄まってしまったようにも感じましたが…。



★個別√について★
4人それぞれが綾音を失った事をどの様に受け止め前に進むのか、それに恋心を交えて描いたものが個別√でした。

①藍魚√について
共通√の流れを全て最後まで綺麗に繋げたのは藍魚√で、自分はTRUE ENDと捉えています。
人魚姫の物語をハッピーエンドに繋げた事に価値がありました。
共通√の最後に罪の告白があってからの藍魚√導入なので、既に大きな問題が解決されています。
この重要な告白をしっかり後の展開に繋げてくれた事が、物語に奥行をつけてくれていました。
綾音の魂が宿っていた事で「好きという感情」の葛藤(本人は始めから答えは分っていたわけですが)と疑念により、伊月の告白を断るすれ違いはまさに王道。
まぁ先は読めましたが復活の儀式を行う藍魚に、伊月が訴えた命の価値の告白は胸が熱くなりました。
それらを経て、淡い恋心がだんだんと色彩を増し、大切な想いへ昇華していく過程を見れたこと。
こういった強い思いのぶつかり合いの描写は丁寧だったと思います。

また、約束というキーワードもしっかり物語の帰結に説得力を持たせていました。
エピローグは二人の間の子供だと思われる葉月と掛け合いが見れましたが、そこに藍魚の姿は無くテキストのみ。
物語を投げているともとれる描写ですが、個人的にこの余白の残し方はとても好みで、想像の余地があるハッピーエンドであったと思います。


②日輪√について
個人的に一番好きな√であり、深く心に刺さったのは日輪√でした。
生まれてから一緒にいるのが当たり前であり、当たり前にお互いを愛している。とても強い愛の告白です。
愛は重いですが新鮮な愛の解釈で、素直に素敵な関係だと思い深く心に刺さりました。
その後の展開では幼馴染という呪いに縛られることで、自分の恋心に対する疑念と葛藤。
なんか、めちゃくちゃめんどくさいこと考え始めるわけですが、日輪がどこまでも誠実な事に間違いないわけで。
謀のお見合いにて、幼馴染を受け入れつつも、新たな関係を築く締め方は綺麗で好きです。
それを見守る家族や友人の暖かさが良い余韻を残してくれました。


③葵√について
葵√は過去にとらわれ過ぎている印象を持ちました。
強い葛藤や、想いのジレンマなど青春らしさはあります。
彼女にとって大切な想い出であったのは理解していますが、それにしても重いです。
とはいえ、あまりに純粋且つ優しい心だったからこそと思えばその気持ちに歩み寄りたくもなりました。
間違いなくいい子なんですよね。
なので、最後は幸せを掴んで笑顔でいてくれたことに心底ほっとしています。



★気になった点★
①えちシーンの導入がかなり雑な印象を受けました。
前触れもなく、取って付けたような導入は違和感しかありません。
シーンのテキストも物語からかなり乖離したようなもので余計に違和感。
割り切ってめっちゃエッチじゃん・・・って思えれば納得なんですが、個人的には気になってしまいました。

②エロゲの主人公とヒロイン
主人公の伊月君。共通√では本当に若い男なのかと疑うほど菩薩です。
心配になるレベルで聖者です。
ただ、個別√になると性人として覚醒します。
もうギャグかと思って笑てしまいました。
そしてヒロイン達。エッチすぎ。いや、良いんですけど・・・w
でも、なんかよく分からないモヤモヤがあります。
豹変しすぎ。いや、良いんですけど・・・w
そんな感じです。

③みんな物分かり良すぎ。
あまりに成熟した思考の登場人物たち。
葵は不安定ではありつつも、相手を思いやるという点では当てはまります。
みんな達観しているわけではないですが、精神的に大人すぎる。物分かり良すぎ。
こんな出来た人間ばかりの世界は綺麗ではありますが、現実味は薄くなります。
あくまで創作の物語であると割り切る必要がありました。



最後に。
うみこ先生の原画、音楽、雰囲気の良さは素晴らしかったです。色々思う事もありますが、結果として綺麗な青春群像劇を満喫出来ました。