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Peetaroさんの妹と彼女 それぞれの選択の長文感想

ユーザー
Peetaro
ゲーム
妹と彼女 それぞれの選択
ブランド
Waffle
得点
93
参照数
1697

一言コメント

とんでもない傑作でした。 いっぱい泣きました。 たくさんの感情が溢れました。 そして、今も心は迷子です。 ただ解るのは、この抱えた思いが忘れられない宝物になった事。 妹と彼女。 全ては、愛ゆえに。 素敵な物語をありがとうございました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

傑作です。
それも滅多に出会う事の出来ないレベルでの傑作。
これは世界に浸れる文章です。
言葉の重みを噛み締めながら、美しい表現に見惚れながら、心情から察する彼らの覚悟を思い知りながら読み進めました。
じっくり読んでいたせいかクリアまでに37時間。
この愛しい物語の世界に溺れるほど浸かることが出来ました。
いつもであれば項目に分けて感想を記していますが、今はまだ感情が追い付いていません。
この感想ではプレイ直後の今感じている気持ちを、備忘録として記そうと思います。
ろくに考察もなく、感情のままを残しますので見当違いなものがあってもご容赦を。


未だかつて近親愛という題材を、ここまで負の方向で描き切った作品があったでしょうか。
切ないとか、儚いとか、背徳であるとか。
言葉にすれば当てはまるものは幾つもありますが、そういったものと一括りに出来ないほど濃密な物語でした。
正直、誰にでも刺さるとは言えません。
ただ刺さる方には徹底的に、愛ゆえの呪いとして心の最深部にまで刻まれる作品です。
自分にとってはそういう作品でした。


プレイ中は慈悲など一切無く、心に深刻なダメージを負うことになります。
滅多打ちのフルボッコで心はズタズタ。
そして、クリア後もその傷が癒える事はありません。
3人それぞれの愛する覚悟を思い知った時、むしろカウンターパンチが更に飛んできてトドメです。

まさに「最高のやるせなさ」とは上手く謳ったものです。
そんな簡単な言葉には収まらない感情が、まだ心の奥で叫びを上げています。
感情が迷子とはこういう感覚なのでしょうか。
果たしてこの結末は良かったのか。クリアした今でもまだ判断が付きません。


分かっていた事ですが、禁断の近親愛の結末は愛に殉じて死ぬ事でした。
奇跡など無い、救いなど無い。
物語序盤で既に語られていたそのままが、この禁断の近親愛の答えでした。こんな残酷な愛の帰結を受け入れなければならない。
失楽教授との会話が全てフラグだったと背筋が凍りました。
主人公編・陽香編の結末を見届けた時、それを理解出来ても自分の心はただ抗うばかり。
とても受け入れられるようなものではありませんでした。

でも、この作品に期待した事はトラウマ級の物語でした。前作『初めての彼女』で感じたあの絶望を超えるトラウマを望んだのは自分です。
「妹」の魂を殺し、命尽きる断末魔を聞いた時、この物語は全てを超えたと確信しました。
この文章は一切容赦がありません。静かな熱を持ちながら、虚しさと後悔を残し「妹」の命は潰えます。陽香の呻くような泣き声が耳から離れないトラウマ。
心臓の動機が早まるなか、涙を流しながら、心をズタズタに切り刻まれながら。歓喜していました。

ただ、この物語の展開に心の疲弊は深刻です。
もうこの苦しみから解放されたい。
その為か、満月同棲編での幸せな3人は救いでした。
硝子細工のように繊細で、儚く、あまりにも尊い。
その甘やかな時間は疲弊しきった心を癒してくれます。
どうかこの時間がずっと続いて欲しい。
トラウマ級の物語を望んだ自分はもういません。
ただ願うのは、3人が自分たちなりの答えを見つけ幸せになってほしいという事だけ。
既に自分の願いや望みは変わっていました。

そしてあの結末です。
抑圧していた恋を自覚し壊れていく満月。
それは、3人で共に過ごす事で「大好き」を知ってしまったから。
恋の先にあるべき「幸福」を願ってしまったから。
そして、そんなものは実現しないと理解していたから。
満月を、慧と陽香を思うと彷徨うこのやり場のない感情。

もうこんなの、泣くしかないじゃないですか。
愛し合う兄妹に巻き込まれた彼女の選択をどう捉えれば良いのか、延々考えても感情の置き場が定まりません。
「愛」により解けた呪い。

「最高のやるせなさ」の答えだけは在りました。
愛ゆえの呪い。この作品に出会ったことで一生付きまとう呪いです。
だからでしょうか、この作品が愛おしくてたまらない。

自分にかけられた「呪い」が解ける事はこの先無いでしょう。
もう後戻りはできません。
「答え」は一生見つからないままです。