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Peetaroさんの虚ノ少女《NEW CAST REMASTER EDITION》の長文感想

ユーザー
Peetaro
ゲーム
虚ノ少女《NEW CAST REMASTER EDITION》
ブランド
Innocent Grey
得点
91
参照数
28

一言コメント

推理ミステリーの傑作。 殻から虚へ見事に繋がった。 時間を超え複雑に絡み合う闇はあまりに歪だ。 全て綺麗にまとめきった手腕に驚愕する。 素晴らしい。 物語を終えた時、大声で叫びたかった。 この感情こそパラノイアだった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

本作のミステリーの特徴は”ヒンナサマの祟り”という土着的因習と、それを取り巻く近親関係の歪さを中心としていました。
人形集落を舞台としたミステリーは時を超え、玲人の人間関係にまで及び、さらに虚ろとなった雪子の事件まで加わります。
複数の事件が同時進行で進み複雑に絡み合いながらも、最後には見事な決着を見せるだけでなく、殻ノ少女から続く冬子への偏執の果てまでも見せてくれました。
いやーお見事だった…ってのが素直な感想です。

もう少し細かく語るならば、物語が進む中で細かな伏線が配置されるので、真相の先読みがそのまま推理する楽しさとなり、玲人と一緒になって事件を解き明かしていく気持ち良さがありました。
また、過去編の出来事は”ヒンナサマの祟り”とする人形集落の人々の狂信さと、土着因習の歪さがそのまま読み進める楽しみとなりました。

さらには『カルタグラ』の天恵会や『殻ノ少女』での葛城シンも関連し、物語はドロドロに溶けあってどんどん出口が見えなくなっていきます。
それなのに不思議と物語の展開を追うことに大きな混乱はなく、理解しやすいとさえ思えました。
過去と現在の関連性を考え「事件NOTE」を眺めては、あーでもないこーでもないと推理を巡らせたものです。
これがとにかく楽しかった。

過去の出来事と現在の事件を繋ぐ謎を追うことで、複雑な人間関係が詳らかにされていく展開は、玲人が言う「探偵とは他人の秘密を暴く仕事」の如くであり、その秘密とされた理由にもしっかり物語が存在しているのが素晴らしかったと言えます。

TRUEエンドに至るまで強制的に2周することになりますが、物語の理解度が上がった状態で読む2周目は特に重要だったと思います。
スキップせずにしっかり読むが本作の正しい嗜み方で、解像度の高さゆえの細やかな心情や、伏せられていたモノローグが語られたことにより、全てのピースがガチっとハマる快感がありました。

今回は攻略サイトに頼らず自力で攻略したのでクリアまでに43時間も掛かりましたが、事件を解き明かした達成感は思ってた以上に充実したものでした。
前作よりも難易度がコントロールされていたとは言え、推理した通りに物語が進んでいく高揚感は脳汁がドバドバで、物語の展開そのものを堪能出来たなと思います。
だからこそ、不意打ちでもある冬子との再会には言葉にならない喪失感を覚えてしまうわけで…。
強烈なパラノイアはまだ続きそうです。