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Peetaroさんのフラテルニテ HDリマスターの長文感想

ユーザー
Peetaro
ゲーム
フラテルニテ HDリマスター
ブランド
CLOCKUP
得点
81
参照数
688

一言コメント

人生爆裂HARDモード。虚無です。 恐怖による心の破壊。 本作をプレイ中、自分が犯された現象です。 脳が危険だと警告してきます。 これからプレイする方、覚悟して下さい。 これは人が堕ちていく姿を覗き見る悪趣味な娯楽。 でも‥‥すんごく面白かった‥‥。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

さて、何を語ればいいでしょうか。
正直クリア後の感想なんて「虚無」です。
友愛とはいったい何だったのでしょう。この結末に救いなどありません。酷いラストです。
でも・・・めちゃくちゃ面白かった。
それは間違いないわけで。ゆえに感想なんて「虚無」です。


★物語について★
とてもシンプルな物語でした。文章も読みやすく、展開の理解もしやすい。その為、かなりテンポよく読み進めました。ただし、圧倒的な狂気に支配され、尋常ではない恐怖を覚えながらですが。

中盤までは複数の視点で展開するので、主人公の行動の裏でヒロイン達がどのように行動し、墜ちていったかが把握しやすい反面、後から明かされる驚きはほとんどなく淡々と物語は進みます。
でもこれには理由がありました。

中盤以降「別視点で始める」をスタートしてその理由を理解します。
愛視点のみを過去から今まで全て見せることで、主人公視点とのズレを意図的に狙たトリックだったわけです。
「人は限られた情報の中で都合良く解釈する」という愛の発言を思い知ることに。愛は穢れていない常人だと思っていたのに、狂気の元凶は愛だと知った時の衝撃は凄まじいものでした。
振り返れば予測できた事ですが、作品の狂気に浸っていると脳が麻痺してくるのか、思考が鈍るんです。まんまとやられました。

そこからはひたすら地獄でした。救いという名の悲劇なんてものじゃない。
このどうしようもない狂気の中で、最も救いを必要としていたのは愛だったのでしょう。本人は気づいていないでしょうが、最後の「ありがとう」に友愛による救済があったのかもしれません。

それにしても主人公があまりに無力すぎる。
とはいえ、狂気を打開する結末になればカタルシスはあれど、ここまで心が惹きつけられ無かったというのは容易に想像がつきます。
道化のように踊らされた滑稽な姿はこの作品の真価でした。
あまりに軽薄で不謹慎な事を分かったうえで評しますが、隙など微塵もない完璧な鬱物語であり、素晴らしい作品だったという事です。


★本作の狂気について★
本作の狂気は幸せと同義でした。
幸せなんて人それぞれです。その人が幸せならそれでいいじゃないか。
そんな言葉、本作をプレイするとあまりに「虚無」で心が揺らぎます。
もう何が何だか分らない、どうしようもない。

本作の狂気による”精神の抉り方”は、心情を理解して脳にクるタイプではなく、理解困難な登場人物の状況とグロテスクな表現による直接的な暴力によって心を支配するタイプです。
前者は『WHITE ALBUM2』のようなタイプ、後者は『クロノボックス』や同ブランドの『euphoria』のようなタイプでしょうか。
これは個人的見解ですが、前者の方が圧倒的に心にダメージを受ける気がします。

ヒロイン達の背景や思いを理解したうえで悲劇が訪れ、見出した希望のフラグがひとつひとつ折られていく絶望感が精神をズタズタにします。
本作の場合は主人公がそうでしたが、彼の無力さはリアリティに溢れ、それでも擁護のしようもないので当然の結果だと受け止めています。酷な話しです。
絶望はしましたが、精神を抉るほどにはなり得なかったと結論づけました。

そしてメンタルが無事であった最大の理由は、ヒロイン達のキャラ造形が緩い事でした。
愛以外のヒロイン達は救いを求める原因や、クラブと関わるきっかけこそ描かれたものの、人物背景は深く掘られていないので、とんでもなく酷い目に合っているのに俯瞰で見ている感覚でした。
しかも救済と信じて悦楽の中にいるので、可哀そう、苦しいというより怖いが感情を支配します。
つまり感情移入に至らなかったことが功を奏し、メンタルは無事でいることが出来たのだと言えます。これは意図的に仕向けたのかは分かりませんが、もしそうであったならプレイヤーへの救済措置だったでしょう。
もし深く感情移入してしまうほどヒロインに思いを傾けていたら、とんでもないバケモノ作品となっていた事でしょう。
正直その方が期待以上で数段評価を高くしていましたが、そうならなかったのが本作の惜しいところでした。

ただそれでも心は疲弊します。
この鬱展開は人によってはとんでもない劇薬で危険なものです。
プレイ時のメンタルによって、狂気に染まる可能性があります。
仮に救いを求めてこの作品をプレイする人がいたとしましょう。
救い、信じちゃうんじゃない…?
まさかですが全く無いとは言えないのではないでしょうか。
人間の脳なんて解明されていない事の方がほとんどなので、誰がどう感じ、どう受け止め、どう行動するかなんて分かるはずがないです。
色々言いましたが、最狂の鬱作品であったと断言します。


★えっちシーンについて★
実用性?無いですそんなもの。
薬漬け、グロ、スカ、凌辱、猟奇など、思い至る酷い事はほぼ網羅されてるんではないでしょうか。
正直二度と見たくないシーンばかりです。
まじで辛かった・・・。
自分は環境設定でグロ表現などは全部ON設定でプレイしていたので、ダイレクトに脳が犯されました。
因みに危険な表現過ぎて描写できなかった画像もあるとか。クリア後のスタッフコメントで触れられています。
ちょっと、本気出し過ぎですよCLOCKUPさん。
特殊性癖の方以外はここに期待するのはやめておきましょう。


最後に。
誰かを救いたいという正義感が、必ずしも善であるとは限らない。
これは話題になるのも納得の作品でした。
怖いもの見たさがあっても、プレイに躊躇する方がいるのも納得。
でも敢えて言います。
プレイするなら、まじで覚悟してプレイしてください。
ネタバレ感想なので、未プレイでこの警告を読んでる方はいないと思いますが、素直にそう思うので記載しておきます。
色々な意味で忘れられない作品となりました。
ありがとうございました。