杏の樹の下には屍体が埋まっている! これは信じていいことなんだよ。何故って、ApRicoTが駄作を出すなんて信じられないことじゃないか。俺は『Maple Colors』や『AYAKASHI』を信じていたので、この2,3日楽しみだった。しかしいま、やっとわかるときが来た。杏の樹の下には(クリエイターの)屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。
他に形容することばが思いつかないので直截に表現するが、控えめに言って糞。品がなさすぎるのであえてマイルドな表現をするならうんちである。
実の姉妹にいじめられていた主人公・清晴が、行き倒れの男から受け取った催眠の能力で姉妹を調教して復讐する、という物語。導入部分から破滅のにおいが漂っており、全体的にダークで救いのない構成になっている。
ただとにかく、雰囲気云々以前にどこから切っても糞糞糞。糞を煎じ詰めた糞のイデアのような作品で、困ったことに、ネタになるような面白さや愛嬌もない。ただ単純にあらゆる要素のクオリティが低く、内容もシンプルにつまらないので対処のしようがない。ぶっちゃけ最低保証と考えていた「TOMA画集」としても使えない。勃たない、抜けない、笑えないと三拍子揃っていて精液のかわりにべたべたとした冷や汗が溢れ出し、憂鬱な気持ちにさせられる。
唯一の美点として、声優さんお2人(いねむりすやこ/朝井こもも)の演技には見るべきものがある。ちょっとした会話からHシーンまで丁寧に演じておられたし、さまざまなシチュエーションで発される喘ぎ声に対しては、別ゲーでこの声に聞き覚えのある人からすればこみ上げてくるものがあるのではないかと思われるのだが、握手会や朗読会に行ったわけではないのでこれに6800円(パケ版)を払うというのは相当気合の入ったお布施だと割り切らなければ厳しい。
もちろん、作り手の方にはさまざまな事情や想いがあるのだろう。また、少なからぬ人の手を伝って完成された作品であることも理解る。そういったことを考慮せずかくも過激なコメントをすることが無礼だとは承知しているつもりだ。しかし1ユーザーとしてはこの作品を受け入れることはできなかった。なぜならば、この作品から伝わってくるものが何もなかったからである。
私は本作から、伝えたかったものが何かとか、力を入れているところがどこかとか、そういったアピールポイントを受け取ることができなかった。それは、新しいものを生み出そうという気概がない、みたいな精神論的な意味合いもさることながら、「姉妹催眠」という手垢のついたシチュエーションのどこを「ウリ」にするのかというマーケット戦略的な意味も含んでいる。
たとえば実の姉妹でいくなら血縁者を凌辱する背徳感を前面に出すのか、現実では結ばれないという悲哀にフィーチャーするのか。催眠でいくなら思うままに相手を操れる支配欲を満たすのか、違和感なく現実認識を改変させるまでの頭脳戦を楽しむのか、はたまた限界まで身体を調教したあと意識を戻してサディスティックな悦びに耽るのか……。さまざまな選択肢が考えられる中でどれをメインテーマにしたのか、作品の中心が何だったのかがわからない。もっと端的に言えば、どのHシーンが一番見せたいシーンだったのかがわからないのだ。
もしかすると、しっかりしたコンセプト的な軸は構想されていたかもしれない。しかし、少なくとも伝わりやすいかたちでは作品として表現されていなかった気がするし、それを補うような情報発信もなかったと記憶している。何がやりたかったのか不鮮明なので、とにかく個別の要素を見ていくしかなく、そうするとひたすら粗が目立つので肯定的な感情を抱けなかった。
さて、具体的に糞さを解説しようにもどこから手を付けていいのか判らないのだが、まずはテキスト。冒頭シーンから誤字脱字の嵐。名前の表示まで間違える始末だ。更に、内容面の説得力とか整合性のようなものもない。たとえば、指を鳴らすことが催眠のトリガーになっているはずなのに、いきなり無条件で発動することもある。そうでなければ、路上で女にフェラチオさせながら指をパチパチ鳴らし続けて通行人を手当たり次第催眠にかけている主人公……というきわめてシュールな光景を想像せざるをえないのだが。
とにかく一事が万事そんな調子。能力の使いすぎで死にかけていた男が水を飲んだ瞬間、べらべらと自分の能力と過去について語りだし、元気に主人公に訓戒を垂れはじめたあたりで私は本作のテキストをまともに追いかけることを断念した。なお、開始10分ほどのできごとである。
思いつきを練り上げることなく詰め込んだ結果、ムダな描写とムダな説明で「水増し」されているような文章は間延びしてまとまりがない。文章を読むとは拷問か何かだったかとぼやきたくなる。かろうじて総プレイ時間が短くて済むのがせめてもの慰めだろう。もっともそれは、ボリュームが少ないことの裏返しなので無条件に歓迎できることでもない。
あるいは本作、ツッコミどころを探す楽しみが意図されていたり、この世の理不尽に耐える訓練を目的としたものだったのだろうか。それならばおおいに成功しているのかもしれないが、媒体をエロゲーにしたのが間違いである。
スタンダードなADVなので、文字のほうが壊滅していても絵のほうが何とかなっていればせめて救いもあったのだが、残念ながらそれもダメ。きっぱりと酷い。
私は絵について専門的な知見を持たないが、それでも認識できるくらいに頭と胴体のバランスが崩れていたりハッキリと構図がおかしいと判る箇所が多い。特に顔の輪郭と目のバランス。立ち絵・イベント絵の間で頻繁に様子が変わり、同じキャラなのに見るたびにイメージが微妙に違って見える。いくらなんでも元絵の段階から目が丸くなったり細くなったりしてはいなかっただろうから、これは原画の問題というより、仕上げ段階の手入れの問題だろう。
その意味では、最大の戦犯は塗りかもしれない。おそらくは凌辱作であることを意識してこの塗りにしたのだと思う。しかし、とにかくのっぺりしていて雑な印象を受ける。影の多い肉感的な塗りでTOMA氏の絵を見ることに慣れていないだけかと思っていたのだが、原画の繊細な雰囲気を台無しにする「大胆な」塗りが多くてがっかりした。正直、ただ色がついているだけというレベルだ。過去の抜きゲーよりも凌辱に寄せたにもかかわらず、頬の赤みを相変わらず「////」という赤い斜線で描くのもどうかという気はする。可愛らしい印象を与えてしまい、ハード寄りの凌辱とはマッチしないのではないか。
アへ顔は表情のパースが狂っているせいで、ほんとうに福笑いかひょっとこに見える。これに欲情しろというのはなかなかハードルが高い。Lilithのアヘ顔と違い、表情だけでなくバランスも崩してしまっているのでアヘっている表情にエロさを感じにくい。精液も、挿入時にヒロインが股間から吹き出ている透明な愛液に白く色がついたら射精という斬新な演出になっていて、もうナニをどう突っ込めばいいのか判らない。抜きゲーならせめて、Hシーンの演出には気を使ってほしかった。
これだけでも勘弁してほしいくらいだが、なんと本作には「回想モード」が存在しない。CGやシーンをどれだけ見たか判別できないだけでなく、Hシーンをクリア後に見るためには、いちいち直前でセーブを取らなければならないのだ。TOMA氏はTwitterで「ちょっと思い切って仕掛けをしたのでユーザーさんの反応が怖い(>_<)」「絶対怒られる覚悟の催眠調教姉妹」と述べておられたが、これがその「仕掛け」なのだとすればいったいどのような意図があるというのか是非ともうかがいたい。少なくとも抜きゲーで、CG・シーンの達成度をマスクしたりHシーンの回想を拒否する積極的な理由が私には見当たらない。
ついでにオフィシャルホームページの「ダウンロード」や「バナー」が発売後の今になってもまだ「準備中」なのも、何かの仕掛けなのだろうか。更新履歴は、ティザーサイト公開の2月4日と、公式サイトがオープンした3月28日の2回のみ。しかも、「公式サイト開しました」というややたどたどしい文言とともに告知がなされているだけで、なんとも寂しい状態である。
それにしても、なんでまたこんなことになったのか。
時間が尽きたのか予算が尽きたのかマンパワーが尽きたのか、どういった事情があったのか定かではないが、全体から感じるのは余裕の無さというか間に合わせ感である。テキストはとりあえず文字が埋まった。CGもとりあえず塗り終わった。システムもプレイできる状態には仕上がった……。未完成品とは言わないまでも、推敲やデバッグなどクオリティを高めるチェック工程に大きな労力を割けなかっただろうことは想像に難くない。エンディングを迎えた後、スタッフロールがないのもこのあたりの余裕の無さのあらわれではないかと思う。
……穿った見方をすれば、関わった人間を作中で表示できないような丸投げ的事態が起きたということも考えられるけれど。
とにかく、マスターアップ後のApRicoTにはくたびれ果てたスタッフのみなさんが死屍累々折り重なっていたのではないだろうか。あるいは逆に、誰もいなくなっていたのかもしれない。ただ、だとしてもこれが「十分」な作品だと思って発売したなら正気を疑うし、まずいと思いつつ店頭に並べたのなら良識を疑う。まあシビアなお金の問題もあるのだろうしエロゲーの現場などだいたいそんなもので、今回はたまたま運が悪かっただけなのかもしれないが、そこをしっかりしているメーカーさんも少なからず存在している以上、免罪符にはなるまい。
スタッフの皆さんには是非このことを重く受け止めたうえで、可能なら次回はもっともっと良い作品を作っていただきたい。個人的に期待しているというのが第一だが、加えて(上から目線でまことに恐縮だが)それがこういう作品を世に送り出した責任ではないかと思う。