ErogameScape -エロゲー批評空間-

OYOYOさんのエッチから恋を引いても、友達にさえなれない。の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
エッチから恋を引いても、友達にさえなれない。
ブランド
WendyBell
得点
66
参照数
4293

一言コメント

人間誰だって、他人からどう思われているかは気にかかる。まして相手が、想い人なら尚更だ。

長文感想

相手の心の中を知りたくて、でもわからなくて。苦しくて辛くいだけで、良いことなんて何もない。けれど、そういう思いが恋の原動力だというのも、頷ける気がする。隠れているからこそ、もっと覗きたくなる。それが人の性というものかもしれない。

低価格作品を作ってきたWendyBellが、満を持して送り出したフルプライス作品、『エッチから恋を引いても、友達にさえなれない。』は、そんな恋する少年の募るもどかしさを切り取った作品だ。

主人公・永井智也は、クラスでも目立たない平凡少年。彼はある日、憧れの相手・綾辻果歩が放課後の教室でオナニーをしている現場に遭遇する。覗きながら自分もオナニーを始めた智也だったが、果歩に見つかって……なぜかそのまま押し倒され、あれよあれよと脱童貞。更にこの後、「智也が好き」と公言する幼なじみ・篠原えみりが転校して来て……。平凡だった智也の日常は、劇的に変化を始めるのだった。

アクティブだが感情を見せない果歩と、消極的だけど好意を全面に押し出してくるえみり。ヒロインが好対照で面白い。2人はそれぞれ魅力的だけど、私はやっぱり果歩が好きだ。容易に心の内を、こちらに見せないのが良い。なので今回は、果歩を中心に紹介を進めることにする。

押せばひらりと身をかわし、退けば悪戯を仕掛け……。恋愛対象として見ている気配は無いのに、「セフレになろう」と提案してきたりと、果歩は巧みに男心をかき乱す。彼女の真意はユーザーにもさやかには見えないので、私も一緒になってやきもきできた。この辺りは、傍目には明らかな好意を振りまくヒロインに迫られても気づかない、鈍感主人公を見守るのとは違った楽しさがある(そういう話が良い人は、えみりルートが一応その役を引き受けてくれている)。

「綾辻さんはどうしてあんなことをしたんだろう?」その問いばかりがぐるぐる廻る。「心の問題を解決する数式があったら良いのに」――数学の授業を受けながら、智也は考える。人の心は、いつだってわりきれない。悩みはいつしか、自分にも向けられ始める。自分は、自分の気持ちを分かっているのだろうか。僕は、彼女のことを本当に好きだったんだろうか、と。

紆余曲折を経て学校の屋上で告白するシーンと、その後最後に教室で発生する「事件」はなかなか良かったのだが、その辺詳しく語ると、激しくネタバレになってしまうので差し控える。Hで繋がっていた2人の関係がどう変化するのか、気になる方はプレイしていただきたい。特に綾辻さんラブラブルートは、彼女の「いい女」っぷりが発揮されて、非常に楽しめた。

ヒロイン2人、立ち絵が出てくるキャラも4人というこぢんまりした作りながら、恋愛の「見えない不安」をうまく描けていたと思う。ただ欲を言えば、「期待」のほうも描いて欲しかった。チェリーボーイがいきなりHを迫られたら、「綾辻さん、僕に気があるんじゃ……」とか思っちゃうのが普通の感覚。鈍感・脳天気でないのは良いのだが、智也はあまりに不安が強すぎ。優柔不断な主人公のウジウジした内面描写を読まされて辛い、という人もいるだろう。

また、途中でそれとなく示唆されるのだが、果歩からも智也は見えない、というのがこの話のキモだったはずだ。その辺を考えると、終盤はもう少し果歩の気持ちがクローズアップされてもよかった。たとえば主人公に近づくモブ少女に嫉妬してみせるとか、そういう展開で彼女の「不安」も描いていれば、より奥行きが増したと思う。

そういえば果歩は、言うまでもなく某変態紳士ゲームの「絢辻さん」を彷彿と……どころかほとんど丸パクリみたいなキャラ設定。イベント的にもロッカー蹴飛ばしたりなんだかんだで、正直どうなのとは思う。ただ、「絢辻さん」が「見える」二面性を強調するのに対して、果歩は「見えない」方向に引っ張っていったので、たくさんの類似点があるにせよ、最終的なイメージは全然違うものになった。もっとも、「絢辻さん」のイメージを重ねて期待する人には、少し拍子抜けかもしれないので、良いことなのか悪いことなのかはわからないけれど。

プレイ感としては前述の通り、延々主人公の不安な内面が綴られるだけで物語が進むので、正直中だるみする。もう少し短くして焦点を絞った話にするか、悩みを掘り下げて話を拡げるか……。サブキャラも活かしきれたとは言い難く、ロープライスかミドルプライスで出来た内容を、水で薄めた感は否めなかった。あと、せっかく智也は野菜作ってるっていう設定なんだから、野菜プレイとかしても良かったと思うのだが……ダメですかい?

CG60枚(ほとんどがHのCG)、シーン数は32(果歩17、えみり12、ふたり3)。CGや音楽、システムといったいわゆるゲームとしての体裁の部分に関しては、プレイ後に声優さんのコメンタリーが入っているなど、部分部分に工夫は見られるものの、全体としてはいま一歩物足りない感じ。ただ、これがフルプライス一作目ということもあるので、今後の変化を期待したい。

最後に、蛇足かもしれないがこの謎めいたタイトルについて。そこまでの自信は無いのだが、なんとなくこうかな? というイメージが2つくらいできたので、少し書いておきたい。

まずは、1つ目。「エッチから恋を引いて」友達が残るとしたら、友達に恋を足せばエッチができる、ということだ。タイトルが言っているのは、そうならない、つまり「友達に恋を足してもエッチはできない」ということ、と考えてみる。エッチと恋と友達の間には、単純な足し算ではあらわせない、目に見えない要素があるということだろう。それが何なのかはわからないけれど、作中に出てきた「心の問題を解決する数式」なんて無い、というのが答えなのかもしれない。

2つ目は、「友達にさえなれない」の「さえ」に注目するパターン。ここでの「さえ」は最低限くらいの意味だろうから、エッチから恋を引いたら、友達という最低限の関係すら残らない、ということになる。つまり、恋というのはそれだけ大きなウェイトを占めている要素なんですよ、という感じ。

個人的には1つ目かなと思っているが、提案だけに留めておく。意味わかるぞ、という方がおられたら、教示頂ければ幸いである。