電車の次はバス! さてはこのまま交通機関を総なめする構え。といってもタクシーは別のメーカーが既にシリーズやっちゃったから、次は飛行機でスッチーを凌辱……とはならず、意表をついて乗り物との関連が薄い伝奇の方向に舵を切ってきた。もっとも本作に、伝奇ものとしての面白さを期待していた人がどれだけいるのか知らないが。
痴漢電車の鐘の音、諸行無常の響きあり……。
今でこそ翳りが見え始めたとはいえ、ごく最近までアトリエかぐやといえば抜きゲーブランドの代名詞。中でも傑作として名高いのが『最終痴漢電車』。シリーズ最後の「3」は批評空間で中央値・平均値とも80点近くをマークし、2012年10月現在、堂々のブランドの最高得点を飾っている。
そんなかぐや新作の舞台はバス。電車で成功したから今度はバスで二匹目のドジョウを狙おうという安直な発想か? と思ったら、予想より真面目にサスペンスしていた。過去作のイメージが重ねられることは無さそうだ。
舞台は佐瀨山町なるニュータウン。「隠世倶楽部」の部員として調査する主人公・柿内智哉は、都市伝説の一つ「佐瀨山キューピット」を調査中にレポートを残して失踪した部長・遠山海を探すため、幼馴染みの相良千紗とともにキューピットの正体といわれるバスに乗り込んだ。そこで伝説の正体が催淫バスであったことを知った智哉は、このバスをある目的に利用することを決意する。
基本は智哉視点で進行。催眠に無意識を侵食される演出として時々ヒロインたちの一人称語りが入る。全19シーン、CGは差分無し31枚と、4000円のミドルプライス作品にしては控え目。ただ文章のボリュームはあってプレイ時間はそれなりだからチープな感じはしない。選択肢は飾り同然で、展開は変わってもシーンの差は無い。EDを分岐させる2択が最後に出る以外、ほぼ一本道と考えて良い。展開は大きく分けて4つ。(1)部長失踪の原因を探る、(2)廃部の危機、(3)九法院家への復讐、(4)佐瀨山キューピットの真相。それぞれが起承転結に対応している。唐突感はあるものの、一つの事件が終わったと思ったら次の謎やトラブルが出てきて最後にオチと、割と綺麗にまとまっていた。
不安視されていたCGは全盛期のかぐやレベルには達していないものの、見られないほど悪くはない。ただ塗りはのっぺり平板で、表情や構図に不安定・不自然な点も目立ち、良いとも言えない。可もなく不可もなし、という言葉がしっくりくる。個人的には表情のキモである眉とフェラなどでエロさを引き出すポイントとなる唇が共に直線的で、厚みが感じられないことに不満が残った。
全体的の印象としては、手抜きでは無いがコンセプトが迷走しているなぁという感じ。見せたいのはエロなのかシナリオなのかプロットなのか。勝負所が判りにくい。
エロメインだとすれば、シーンが少なく尺が短い。加えて中盤、Hに至るまでの道のりが長い。メイン前でダレ易く、エロを活かすにはちと微妙だ。また肝心のHも、どの層を狙っているのか不明瞭。輪姦、羞恥、服従、催眠……凌辱で押すかと思ったら、純愛っぽい流れにものせてくる。
むろん、多数のシチュエーションを揃えているのは評価できる。サブタイトル通りの性癖暴露というテーマもわかる。だが、一番盛り上げるつもりだったのは誰のどのシーンなのか。バラエティ豊かなのは美点としても、今回は少々手を広げすぎた。「これで抜いて!」と言いたい相手が見えないのだ。
ハッキリ言おう。こういう満遍なくいろんなHを楽しめるようにするやりかたは、フルプライスのそれだ。いろんなタイプのヒロインがいていろんなHができる。それはある程度キャラ数やボリュームの裏付けがあってこそ活きる。量的な制約の厳しい中でそれをやろうとしても、帯に短したすきに長し。見本が並んだ陳列棚を指をくわえて眺める様なもやもやした気持ちになる。
ではシナリオやプロットで勝負できるくらい完成度が高いかというと、そっちも苦しい。ネックはさまざまあるが、一番気になったのはキャラクターの行動や感情、論理が飛びすぎていること。
たとえば先輩のレポートを読んだはずの智哉と千紗が、何時間もバスを待つ必要はあったのか。最初から終バス目指して行けば要らない苦労だったと思うのだがどうだろう。また、バスの記憶が残る相手と残らない相手の違いは何か。その他メインから脇役にいたるまで、言動が理解できなかったり矛盾している場合が多い。何か釈然としないし、その目的のためならもっと別の手段があるのに……ともどかしくなる。
私のようにひねくれた人間はすぐ、「こうやりゃ一瞬で終わるのに、こいつバカなのか?」とか、「なんでこうならないの……」とツッコミを入れたくなってしまう。作品内のロジックに穴が多いと、行動や発言が全部、スタッフの頭から出てきたご都合主義に見えてしまうのだ。この展開で納得させたいなら、もう何段階か詳しい説明が欲しいし、それを支える設定を追加する必要があった。
実際私の印象がそれほど間違っていないことは、伏線などを考えていたのがバカバカしくなるような本作のオチを読めば納得していただけることと思う。ところどころ光る部分はあるにせよ、物語構成で読ませるには心許ない。
エロと伝奇をミックスさせて単調な抜きゲーからの脱却を図ったと言えば聞こえは良いが、多くの人は「逃げたな」と感じるのではなかろうか。全盛期のかぐやなら、下手な小細工などしなくてもHシーンだけでユーザーはついてきた。それが今は、シナリオも面白い、というような付加価値が無ければユーザーを満足させる自信が無いのではないか――。もちろんどういう意図でこの作品がつくられたかは想像の範囲をでない。ただ現実には、エロ・シナリオとも中途半端で止まってしまっている。
システム的な弱点も目立つ。特に気になったのはフルスクリーン時以外画面解像度が変更できないこと。中価格でもこれは、正直少々寂しい。タイトル画面も、風景オンリーのレトロな作りでキャラ絵が一切無く、やる気が微妙に削がれる。かといって伝奇に相応しい重厚な雰囲気を出しているかといえば、「バス畜」というタイトルロゴの余りのデザインセンス(だいたい、「バス畜」という名前もどうかと思うが)に失笑するのが関の山。作品に相応しいパッケージングも定まっていないと言われても仕方あるまい。
やや辛口になったが、個別のシーン自体はそれほど悪くなく抜けるシーンもあった。だがゲームにとっては、全体としてどういうまとまりを持たせるかというのがやはり重要だ。それがなければ、ただのHシーンコレクションになってしまう。
振り返ると、本作の迷走ぶりはタイトルで既に象徴されるていたようにも思われる。何でバスなの? と訊くと、多分誰もが首を傾げるだろう。ぶっちゃけ電車との違いがわからない。もっといえば、多数の人間が一定期間集まる場所ならデパートでも何でも良かったのではないか。そのように全体をまとめるビジョンの欠如が本作の課題であり、同時に試練を迎えているかぐやブランドに、今後求められるものであるかもしれない。