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OYOYOさんの巨乳ファンタジー2の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
巨乳ファンタジー2
ブランド
Waffle
得点
79
参照数
3138

一言コメント

6月17日は「ちちの日」ということで、巨乳ファンタジーの話を……ああっ、スミマセン! 石を投げないで。・゚・(ノД`)・゚・。

長文感想

誰もが思いついても言わないような駄洒落から入ってしまってすみませんでしたー(土下座)!

さてこの手の作品は、概括的に語ると身も蓋も無いところがある。「テーマは?」と聞かれれば「巨乳」だし、「筋書きは?」と聞かれれば「サクセスストーリー」で事足りる。「水戸黄門」とか「暴れん坊将軍」みたいなもので、「要するにこんな話」という形で切ってしまうとどこも一緒の金太郎飴状態。

飽きたという声も聞かれるが、プレイする側としては基本それが楽しくて(金太郎飴の味が好きとか、どこを切っても同じなのが面白いとか)やっているわけだから、そこにつっこむのは無粋というか野暮。「ま た こ れ か」と言われたって、にっこり笑って「左様でございます」と返して終わりという話。期待しているユーザーにとっては粗製濫造でもマンネリでもなくて、むしろご都合主義的な英雄譚をブレずに繰り返してくれることを喜ぶところなのだ。

とはいえ、では『巨乳』シリーズのエッセンスは何かというのは問題としてある。つまり、このシリーズに共通する面白さの源は、何か。

黄門様なら印籠を見せて相手がひれ伏すシーンにそれが詰まっているし、遠山の金さんならお白州で「遠山桜」を見せる場面。コナン君なら、華麗な推理を披露した後「江戸川コナン……探偵さ!」が楽しみでみんな見ているわけ。コナン君の場合は蘭ねーちゃんのパンチラかもしれないけれど、それはさておき。

『巨乳』シリーズの見所といえばやはり巨乳……というとちょっと違う気がする。おムネを揉むシーンは確かにユーザーのお目当てなのだけど、それだと男キャラの立場が無い。このシリーズは毎回、女の子だけではなく男もたくさん登場して、彼らとの関係がメインで描かれることも少なくない。そう考えると、毎回各話のオチになっている「主人公が認められる」シーンこそがこの作品の見所と言える。女の子なら結果としてHシーンになるし、男なら謝罪やら宴会やらになる。今回も、その例に漏れない。

これは別の角度から見ると、主人公の目には見えづらい「天才」性をきちんと描いているということでもある。

本作の主人公・ルインは、王立修道院に何かの間違いで入っては来たけれど、絵に描いたような「おちこぼれ」。一番強調される具体的なことは、「詩が作れない」。普通、「詩」というと感性の産物だと思われがちだけど、本作ではホメロスなんかを引き合いに出して、教養の一貫として「詩」が扱われている。「詩」が作れる=「詩」の知識が豊富=お勉強得意。つまりルイン君は、お勉強ができない。

ところがどっこい、いざ実務をやらせてみると、やることなすこと全部完璧。ボインバラの内政でも、エルフ族との戦いでも、とにかく大活躍。もちろん数々の「鋭い読み」を見せて、決しておバカではないこともアピールするけれど、ルインの凄さの本質というのはそういう「論理的」なところには無い。ゼビアが惚れ込んじゃったり、くしゃみ一発で状況を打開したり、一人でゴーレムをなんとかしちゃったり、とにかく結果がついてくるところにある。今風の言葉でいえばルイン君は、「何か持ってるヤツ」なのだ。

「ご都合主義」と言えばそれまでだけど、それは作品外の評価。作品の中では、ある種の必然として扱われている。なぜルインだけがこんなに恵まれた結果を享受できるのか。それは、シャハルが屡々繰り返すように、ルインが「ものごとの本質に触れる力」を持っているからだ。ガラハット王をはじめルインをとりまく人々の多くは、表面的なことにとらわれてルインの本質を見抜けない。たとえば王は、ある「真実」を見誤った為に呪いを受けてしまっている。この辺が、ルインと対照的に描かれている。そうして、彼らがこだわるような「お勉強」は、ものの本質とか真実とは関係ない。人間の価値は、お勉強なんかには無い。

良いサクセスストーリーというのは、ただ主人公が成功するだけではなく、そこに一貫した理由が描かれているものだけれど、本作は(シリーズ通して)そのあたりをきちんとおさえている。それ故に安心できる面白さがあるのだろう。

では、「本質に触れる力」とは結局何なのか。それは、おっぱいへの愛である。……いやいや、冗談ではないですよ! 真面目な話です! 少なくとも作中語られる限り、おっぱいこそが世界の真理であり、おっぱいにこだわりと執着と愛を見せるということこそが、ルイン君の卓越性である!(強弁)

まあ本当のところどうなのかは措くとして、『巨乳』シリーズの主人公は皆おっぱい至上主義で、行動原理の基本はおっぱい。おっぱいを追い求めていたら、何かうまいこといっちゃった(てへっ)というのがパターンだから、その意味で作中における真理が端的に表現されているのは乳であるというのは間違いない。

ただ、以上のように見ていくと、本作の物足りなさも同時に浮かんでくる。大きく分けて二つあるので、それぞれ見ていこう。

まず、ルイン君は割と俗っぽいというところ。これまでのシリーズの主人公は、出世やら世間体やら本当にどこ吹く風で、ひたすらおっぱいを追い求めていたけれど、ルイン君は割とその辺に興味がある。というか、作中でブレている。国王候補になれるなれないで一喜一憂したり、ボインバラに逆戻りになったときに落ち込んだり。おっぱい一直線だった過去の主人公たちと比べると、真理なり真実なりに対して一途な感じがしない。そのせいで、作品が語ってくる真理の価値が、少し揺らいでしまっている印象を受けた。

もう一つは、敵がショボいところ。今回敵に回るハイネスとゼミナリオ、その背後にいる司教と宰相らは、基本的にものが見えていない。辛うじて宰相は頑張っている感じだけど、やることなすこと全部ロクでもないことなので、見ている方としては「そりゃアカンわ……」となる。これでは、彼らと対立する主人公の凄さが余り引き立たない。ルイン君が活躍したというより、敵が自滅しているようにしか見えないのだ。このせいで、真実を見られないことのダメさは伝わってくるけれど、ルインが見ている真実の凄さとか魅力とかの絶対値が見えにくくなってしまった。

辛うじてエルフ国王イシュヴァンが、プライドや信念を持った策士だったのが救いだろうか。イシュヴァン王も「お勉強」が得意なタイプには違いないのだが、それを突き詰めていった高みに到達している感がある。こちらのルートではこういう大物と丁々発止やりあって、最後はお得意のパターンで仕留めることで、ルインの良さも際立っていた。

『巨乳ファンタジー』であれば、そもそもグラディスやアイシスといったヒロインが主人公の敵だったので自滅パターンは少なかったし、ルビーン宰相や三将軍、モテールですら、彼らなりの矜持があった。そういう相手との戦いは、スポーツで言えば好ゲーム。片方が自滅で倒れる試合より、そちらのほうが見ていて楽しいのは言うまでもない。もちろん、ボボン王子のようなダメすぎるキャラの自滅というのも、それはそれでネタ的な見応えはあるが、本道はやっぱり緊張感のあるつばぜり合いだろう。その意味で言えば本作は、上にも下にも突き抜けた敵対キャラがおらず、中途半端な相手の自滅ばかりが出てくるせいで、たるんでしまった感が拭えない。

というわけで、過去作と比べるとパワーダウンした感もするけれど、その辺は随分高い要求水準の話。最初に述べたとおり、基本的なところはきちんと仕上がっているのでシリーズファンには安心だし、本作から『巨乳』シリーズを試そうかなという人にも問題なくお薦めできる。特にシャハルルートの終わり方は、本作が『巨乳1』と直接繋がった前の時代の話であることを匂わせているので、先に「2」からというのも悪くはないのだろう。

もっとも、幾つか基本的な注意はある。シリーズをある程度通していないと解りづらい部分があったり、店舗特典(ソフマップ)のためか、ルートのバランスが崩れていたこと。特にローレリアに期待していた人は肩すかしかもしれない。「くしゃみ」が結局何だったのかとか、主人公の種族の話とか、多くの謎も未解決のまま残された感がある。今後のシリーズなりFDなりではっきりするのだと期待したい。

なお鏡氏の作品ということこと考慮して、本作に社会的なテーマを重ねて読むことも一応は可能のように思われる。ガラハットは真実を見る目をもたず、表面的・形式的なことにばかり目を向けて、ある種の人々に言われない弾圧を繰り返して反省しない為政者であり、イシュヴァンはマキャベリズムの権化みたいなものである。そして、そういう「お勉強」というか理性に偏った為政者ではうまくいかず、差別意識も残り続ける。一方エロ心満載のルインのような者こそが人々を幸せにする王になるというのは、現状の政治に対する強烈な皮肉であり、同時にあるべき統治のあり方を匂わせる一種の王道論的なところは読み取ることができる。「ルイン」(破滅)という名前も、

私はそのあたりに余り魅力を感じなかったので、今回は深入りを避けた。ただ、敢えて最後に述べたのは、上で書いた私の不満の一つ(敵がショボい)という話は、こういった社会的なテーマを押し出すためにあえて(つまり今の政治がいかにヘボいかというようなことを戯画的に表現するために)そうしたのかもしれないな、と思ったので、蛇足ではあるが付け加えておく。

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◆エロについて。
CG差分無し118枚/シーン数46シーン。内訳は以下。
ゼビア:24枚/11シーン (ダークエルフ傭兵)
エリュシア:17枚/6シーン (エルフ王女)
ローレリア:13枚/8シーン (人魚)
シャハル:19枚/7シーン (サキュバス領主)
ナディーヌ:24枚/8シーン (人間王妃)
その他(複数絡み等):21枚/6シーン

ストーリーへの感想とは逆に、Hシーンについては随分パワーアップした感あり。特に王妃とのHは背徳的で良かった。複数キャラの絡みも濃厚で、満足度高め。ただ、前作のように強気なキャラを無理矢理おてぃんてぃんで説得してメロメロに……みたいな展開は少なく、それだけは残念。基本的に女性陣はほぼ全員ルインの味方で、変化を楽しめたのはエリュシアくらい。ゼビアが一番変化するのだが、まあしかし、その後のラブラブ展開の印象が強すぎて変化の過程を楽しむタイプではなかった。

ちなみにキャラの中で優遇されていたのは、「正妻」扱いのゼビア。ところが正史っぽいのはシャハルルートにも思われて、その辺の関係はちょっと良くわからない。しかし改めて今見ると、人間が一人しかいないでござる。確かに今回ちょっと、魔族寄りの視点が多かったので、今後シリーズが続くとしたら「魔族-人間」間の対立メインになっていくのだろうか。