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OYOYOさんのVenusBlood -FRONTIER-の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
VenusBlood -FRONTIER-
ブランド
DualTail(DualMage)
得点
85
参照数
2513

一言コメント

「触手だけどゲームだって面白いよ!」と他人に薦めてきたのが、「ゲーム性で話題になったけどいつもは話ももうちょっと面白いんだよ」と言いたくなった本作。まあどっちみち触手ですけどね……。この想い、触手(キミ)に届け!

長文感想

一部の触手マニア御用達、知る人ぞ知る名作だった『VenusBlood』シリーズ最新作は、前作「ABYSS」の高評価を受けてか衆目を集める中での発売という異常事態。延期前は『DRACU-RIOT!』、延期が決まった後も『創刻のアテリアル』と並んで「VB」の名前を購入リストに挙げる人が居るのを見ると、異世界にでも迷い込んだのかという錯覚すら覚える。これまでは、「VB買う」というと「ふーん(こいつまた触手か)」と返され、「VB面白かった!」といっても「ふーん(どうせまた触手だろ)」という反応しか貰えなかったというのに……。

とまれ、当初から高い期待を集めた本作は、ひとまずそれに応えるに充分な完成度のシステムを作り上げてきた。ひとことでシステムについて説明するのは難しいのだが、要はユニットを自分で生成し、パーティーを編成して地域を制圧するタイプの戦略SLG、というのが近いだろうか。エウシュリー作品にみられるようなコレクション要素(レアアイテム収集)は少ないが、かわりに幅広い相性の組み合わせや戦術スキルの選択、それに応じた内政施設の選択といったゲーム内の多様性がウリ。相性やコンボ効果を視野に含めたPT編成のプロセスは、さしずめカードゲームのデッキ構築にも似た楽しさがある。

こういうSLGの場合、たとえば「最強ユニットは何か」というのが常に多くの人の関心事となるが、本作にはいくつもの形の「最強」がありえる(たとえば特定の日だけ異常に強い師団を作ってみるとか)。誰がやってもだいたい一部の強キャラ使い回しに頼ってれば良かった前作から一転、作品を味わうユーザーの基本発想や好みに応じてバリエーションを提供できるようになった(多少は単純な強弱があるが)。この懐の深さこそ、本作の特筆すべき魅力である。

ただしシステムが複雑なぶんハードルが高く、加えて戦闘難度の高さがそれに拍車をかける。具体的には、各ユニットに「種族」や「属性」が細かく設定されており、戦闘の曜日や地形効果を常に視野にいれなければならない。ユニットの単純な能力値だけに依存せず、TPOに応じた編成を考える作業というのは、好きな人にはたまらないが、苦手な人には冗談じゃないのが本音だろう。

もっともそういう人には、ボタン一発で戦闘を終わらせることができる「Easyモード」も用意されている。周回引き継ぎがあるので、最初は「Easy」でちょくちょくLvを上げながら難しい戦いはスキップし、2周目以降引き継ぎボーナスを利用するのもありかもしれない。また、戦闘スキップだけでなくシーンスキップも完備(戦闘だけのモードもある)される一方、回想にはHシーンだけでなく全イベントが登録される。ゲームパートだけ楽しむもよし、戦闘をかっとばしてお話とエロを楽しむも良し。かゆいところに手が届くというか、「こんなに頑張って作ったんだからゲームはやってくれ!」などと押しつけがましいことは言わず、ユーザーのやりたいようにやらせてくれるところが、このブランドの長所と言える。

不満を言えば、SLGの時間が長くなってHシーンに気軽に行けなくなったことと、ランダム要素がほとんど無いことくらい。前者は「ABYSS」であきらめの境地にいたったが、せめてターンごとに自由に調教シーンを見られるようにするくらいの工夫は欲しかった。後者に関しては、運の要素が少ないということ。モバゲーのガチャや、エウ作品のステータス吟味などに典型的にみられるように、一部やりこみ系ユーザーには「ランダムで良い結果が出る」ということに至上の喜びを感じる人がいる。あまりランダムばかりでバランスが崩壊するのは考え物だが、「ABYSS」ではユニットの称号というランダム要素があり、高ステータスのユニットやレア能力のユニットができたときの喜びを味わうことができた。本作はそういう要素がほとんどなくなり、ランダムの結果吟味という「無駄な努力」に時間を割かれる心配が無くなった一方、凄い良い結果が出たときの達成感を味わう機会も失われたのは、いささか残念だったかもしれない。

なお、Ver1.11パッチによって編成画面の動作が劇的に軽くなった。これからプレイされるかたは、1.11以降のパッチを充ててからはじめるのをつよくおすすめしておく。

ゲームパートについてはこんなところで、次はストーリーの話に移ろう。「VB」シリーズのストーリーは決してオマケではなく、ゲームパートを進める大きな原動力であり、作品の魅力の両輪である。ただ、本作の物語は、「VB」シリーズを追いかけてきた私にとって、やや物足りない内容だった。

理由は明白で、厨2病が行きすぎているから……ではない。今回の主人公、ロキくんは「実はこんなこともあろうかと……」だの、「お前達が持ち堪えられる時間くらい、最初から想定済みだ」だのと「後出しじゃんけん」が得意なうえ、エターナルフォースなんちゃらも真っ青のズルいスキル持ちだが、この手の厨2的言い回しやご都合主義設定はある意味いつものことなのでそれほど気にならない。

今回物足りなさを感じたのは、女性キャラの本質的な強さが失われたからである。「VB」シリーズはこれまで、マンネリと言われようがワンパターンと言われようが、とにかく「強く気高いヒロイン」の信念と、それを蹂躙してでも何かを成し遂げようという主人公の信念とのぶつかり合いを描いてきた。実際、最初の2作には「女神」は登場せず、「Venus」というのは「女神のように気高い」くらいのニュアンスだったことからも、そのことはうかがえよう。ストーリーの盛り上がりは、お互いに信念をぶつけ合い、揺るがし合う葛藤の部分にあったし、エロ的な観点から見ても(こっちが重要なのですが!)、理解されていない相手を力づくで無理矢理従わせる、しかも圧倒的強者を辱めるというところに凌辱の凄みというか興奮のポイントがあったわけでございます。

ところが本作、女神たちがとにかく簡単に快楽堕ちする。寝返る。特に、最も主人公との因縁が深いティルカが、一番あっさり味方につくのがいただけない。主人公にとってのキーパーソンが最初に登場するのはこのシリーズの伝統芸みたいなものだが、それは最初のヒロインは一番早く主人公のモノにされるにもかかわらず、最後まで主人公に抵抗する、というパターンとセットだった。別に様式美を踏襲しろとかすいう話ではなくて、その抵抗の強さこそが主人公にとって彼女を「特別」な存在たらしめていたし、またユーザーにとっても「こいつ何とか堕としたい」と思わせる要因となっていた。だからこそ、それが失われたのが痛いと思うのだ。

そうでなくても、やっぱり「気高く強い」キャラを押し出すなら、彼女たちには本気で抵抗してほしい。「悪堕ち」や「反転」というこのシリーズのウリが示すのは、快楽を拒み、抵抗していたヒロインが抵抗むなしく敗れ去るそのギャップのエロさに繋がっているはず。それを際立たせるには、最初から簡単に主人公に理解を示しちゃうようでは全然ダメで、もっと本質的な抵抗を見せる必要がある。本作の場合、Hシーンでは辛うじて抵抗を維持するそぶりを見せていたが、実質もう味方についているのでかえって抵抗がそらぞらしいものに思われた。

上記との関連で、一部Hシーンのテキストも微妙。読んで頂ければ判ると思うが、「子宮の入り口っ、お○んぽ当たってるーっ!」のように《状況説明》をして喘ぐティルカのようなキャラはいいとして、「はい終わったぁぁっ♪おしまい、全部おしまいなのじゃあぁ♪妾の経験も、記憶も、信念も、感情もぉ……ロキ様のチ○ポ一つで全部終わりにされてしまったのじゃあぁぁ……♪」のように《心情説明》をして喘ぐオーディンのようなキャラが、ちょっとどうよ、という感じ。

最低の屑こと姫騎士アンジェリカ嬢でも口に出すのが憚られるのではないかという卑語のオンパレードは、みさくら芸的な意味では面白いし、それなりに需要もあるのだということはわかる。わかるのだが、本作の雰囲気にあっているかというと正直微妙に思うのだ。くり返しているように、ヒロインたちが心では抵抗していながらも身体が快楽に染められてしまうというその部分に、本作のキモというか最大のエロさがある。いわばそれは、心と身体の乖離であって、口ではイヤイヤ言ってるけどそれがウソだとバレバレなところに、ヒロインの可愛さとか卑猥さとか、そういうのが凝縮されるわけだ。別の言い方をすれば、「私酔ってます」という酔っぱらいより、「大丈夫! 全然酔ってないから!」と言いながらぐでんぐでんになっている人間のほうが、酔いが深いように見えるのと同じで、「まだ戦える」と気丈に思っているのは本人だけで、傍目にはもう全然大丈夫じゃないというほうが、女神たちの強さと無力さも際立つというもの。

上で引用したのはオーディンの悪堕ちHからだが、似たようなシチュエーションとして『VenusBlood EMPIRE』の魔獣姫ネアのHシーンがあるので、お持ちの方はそちらと比べてみてほしい。直接的に卑猥なことばはほとんど喋らないが、「ごろじでやるぅぅ」みたいな舌足らずな言葉でイキながら抵抗するネア嬢のHシーンのほうが、数段エロく感じられた。そもそも「触手」という観念的ペニスでの行為を楽しむことができるこのシリーズの愛好者にとっては、卑語という直接的な刺激より、直接描かれない内心に対して想像力をかき立てるシチュエーション構築のほうがありがたいと思うのだが、いかがだろうか。

話をストーリーのことに戻す。「VB」シリーズのストーリーは基本的に、偽悪的に振る舞う主人公と、自分の正義を信じて疑わないせいで結果的に偽善者になっているヒロイン(本作なら女神たち)とのつばぜり合いが軸だ。「ロウ」と「カオス」、あるいは「統治」と「覇道」というルート名が示すように、最後は「善」とか「悪」という単純な二項対立は無効化される。「善」と「悪」の対立で始まったはずの物語が、善悪の彼岸へと進んでいくところにクライマックスがある。本作も、その路線をとっていた。

そしてこれまでのシリーズ同様、本作でも最後は客観的な善悪ではなく、キャラクターにとっての主観的な幸福というのが物語の結末として描かれる。たとえば「幸福と言うのが誰かが決めるものではなく、己で決めるものだとすれば、彼女は間違いなくこの世で一番幸福な牝豚であった」というあるヒロインのEDの一節を読めば、いま述べたようなことがご理解いただけると思う。このようなクライマックスを盛り上げるのは、それまでの「善悪」という土台の底が抜けた時にあらわれる落差だ。

ということは、なるべく本気で主人公とヒロインには戦って貰わないと困る。両者が本気でぶつかり合わなければ、その二つがどちらも消えてしまったときの驚きやインパクトに欠けるのは自明の理。のはずなのだが、それがまあ、ティルカに始まりサブキャラ含め、他のメンバーもスコーンと簡単に触手の虜。いくら主人公の触手チ○ポの具合が良いとは言え、これではいかにも緊張感が無い。結果的にADVパートはオママゴトのようなノリに見えてしまった。

結果、主人公からは道具のはずの相手に感情移入しつつも苦汁を飲んで調教する哀愁が失われ、またヒロインからは、主人公を嫌悪しつつそんな苦悩を読み取って抱いてしまう複雑な感情というのが薄くなった。これまでのシリーズのヒロインには皆、主人公を殺したいほど憎み、同時に殺したいほど愛してしまうという緊張感があった。ヤンデレのような話ではなくて、愛情と憎しみが混ざり合って、どちらともつかなくなるような地点に、「VB」という作品の着地点があったのだと思う。本作からはそういった魅力的な逸脱、異常な感じがなりを潜め、ごく普通にブヒブヒ喘がせるだけの凌辱に終始した感が否めない。もちろん全く無いかといわれるとそんなことはなくて、きちんと「VB」しているな、というところはあるのだが、過去作ほどの迫力は失われてしまった。

振り返れば『VenusBlood』は当初、調教SLGだった。戦略SLGになったのは「EMPIRE」からで、「ABYSS」で一気にブレイクしたのは皆さんご存知の通りである。しかし戦略SLGになる以前の「VB」や、『奴隷将校クラリス』など同ブランドの調教ゲーは、スタッフが「詰め将棋」を自称していたことからもうかがえるように、厳密なシステム設計によってエロだけでなく攻略過程をシステム的に楽しめる珍しい調教ゲーだったし、姉妹ブランドの傑作『機械仕掛けのイヴ』も同様。『天ツ風』も、単純ながら工夫の余地があるカードバトルで話題を呼んでいた。

前作に安住することなくシステムを大幅に刷新し、「EMPIRE」からわずか3作でこれだけのものを作ったというのは実際もの凄い。だが、ここのスタッフならこれくらいやってのけるポテンシャルは秘めていたのだろうという妙な納得感もある。独自性とセンスのあるゲームを作る力があることは疑い無いし、そこが評価されて知名度が上がったということは、ファンとして喜ばしい。「FRONTIER」というタイトルに、これから未踏の地を切り開いていこうという意気込みが垣間見えて、先々も楽しみだ。

できあがった本作のシステムはかつてないくらい完成度が高く、ゲームとしての魅力も高い。また、ストーリーやHシーンのテキストにしても、複雑さを排除して、よりストレートに、つまりは一般受けしやすいものにシフトさせたという意味では、成功している。触手凌辱というニッチな市場を狙い撃ちしている以外、立派な「優等生」になってきたとも言えよう。しかし何というか、「優等生」というのはどこにでもいるし、別にこのブランドで無くても構わないのにな、という気がするのも事実。

上で見てきたように、本作はこれまでの「VB」シリーズの魅力的だった「逸脱」を少しずつ失いつつあるように思われた。それがただの偶然なのか、一般ウケを狙って「優等生」的枠の中におさめようとした結果なのかは定かでないが、後者だとすればシリーズの1ファンとしては一抹の寂しさを感じずにはいられない。

むろん、このシリーズを見限るとかそういうつもりは全然ない。ないのだが、「ローカルアイドルだった九尾ちゃんがメジャーデビューしちゃって寂しい。僕らだけの九尾ちゃんじゃなくなっちゃった(泣)」というのとはちょっと違う、微妙なフクザツさが胸をよぎる。Tail系列ブランドは、隙はないけど記憶に残りにくい「優等生」的作品よりも、10年、20年経っても覚えていられるようなやんちゃな作品を作って欲しい。そんな気もする。

シリーズに対する個人的感慨が感想の大部分を占めたが、ゲームは総じて良い出来だし、Hもシナリオも充分及第点。特に前作繰り返しが多いと指摘したHシーンについては、使い回しが激減し、質・ボリュームともにかなりの改善が見られた。戦闘シーンも各キャラの神装・魔装がきちんと描きこまれていて盛り上がる。散々けなしておいてこの点数とはどういうことかとお叱りをうけそうだが、シリーズの中に位置づけて比較したのは手放しで「シリーズ最高傑作!」と喜ぶことができない、ずっとシリーズを楽しんできた1ユーザーとして感じる寂しさの表明であって、ゲームとしてダメという意味合いではない。実際問題非常に良くできているのは確かなので、普通にお薦めの作品である。単体として見た場合の評価と、シリーズタイトルとして見た場合の評価のバランスをとって、「ABYSS」より1点下、というところに落ち着けた。

本作から「VB」に興味を持たれたという方は、是非過去作にもトライしてみてほしい。ゲームとしての完成度は本作に及ぶべくもないが、ストーリー的には見るべき所が多い。個人的には「CHIMERA」と「EMPIRE」あたりがお薦め。まったく肌に合わなかったらゴメンナサイするしかございませんが、もしかするとめくるめく触手世界への切符が手に入るかもしれません。ビョルビョル。