ErogameScape -エロゲー批評空間-

OYOYOさんのエロゲーしようよっ!の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
エロゲーしようよっ!
ブランド
HEAT-SOFT
得点
78
参照数
4216

一言コメント

思わず振り向きたくなるタイトルに面白そうな内容、そして期待以上の斬新なアイディアと切り口。ハイテンポな掛け合いも合わさって、なかなか満足できた逸品。ところで突然ですが、ここで本作の内容から問題です。『Hになればなるほど硬くなるものは?』

長文感想

答えは、「鉛筆」です。えっちぃこと考えた人はいませんよね。さてそれでは、内容紹介から。

主人公、高遠大貴は一人暮らしの大学生。平凡な生活を送っていた大貴だったが、隣に住む幼馴染み三姉妹の「秘密」を知ってしまったことでその生活は一変する。毎週金曜日になると音信不通になる彼女たち、実は姉妹揃って重度のエロゲーマーだったのだ。純愛萌えゲーマー・由々花、ハード抜きゲーマー・まわる、ヤンデレの申し子・めぐり。「口止め」と称して大貴の家に押しかけてきた三人。ただどうやら、それぞれ思惑があるようで……。そんなバタバタのうちに、「それ何てエロゲ」的同棲ラブコメ生活が始まるのだった。

本作の構造的な特徴は、登場人物たちの「意識のメタ性」にある。といっても、大貴たちが自分たちをゲームのキャラであると自覚しているわけではない。大貴たちは自分の行動がエロゲー的だと自覚している、ということだ。

ヒロインたちは「素の自分」と「演技」を使い分けているが、「素」はエロゲキャラであり、「演技」は自分が望むエロゲキャラ。要するに彼女たちの思考は、エロゲー回路の中で完結している。ユーザーと最も近い立場にあるはずの大貴にしても同様だ。大貴自身も作中人物である以上、基本はエロゲー的造形。しかも個別ルートに入ると、「あいつをエロゲ方式で『攻略』してやる!」とヒロイン思考に近づこうとする。結果、エロゲーの内と外という対立軸は、殆ど持ち込まれなかった。

自覚レベルで自分が何かの象徴であることを意識しながら(自分がどういう役割をもち、どう描かれているかを作品内で把握している)、「素」の部分では自覚とは異なる性格を持つキャラ。特殊な類型だが、どこかで聞いたことがあるな、としばらく考えて気づいた。いわゆる《擬人化キャラ》に近いのだ。

エロゲー「ジャンル」の擬人化。由々花は萌えゲーの、まわるは凌辱ゲーの、めぐりはヤンデレゲーの。そう考えてやると、割とスッキリする気がする(たとえば三姉妹がエロゲーにハマった理由が全く提示されず不満だったのだが、彼女たちがエロゲーそのものだったということなら、そりゃ理由なぞあろうはずもないのだ)。パッケージイラストで彼女たちが、それぞれ自分のキャラを代表するエロゲーのディスクを持っているのも示唆的だ。そして本作はさしずめ、『もしもエロゲージャンルの擬人化キャラがHEATSOFTの純愛ゲーに出演したら』という実験作なのである。これはなかなか面白い。

たとえば由々花はルート終盤、積極的になれない理由を次のように言う。「私は、幼なじみキャラとしてのテンプレを、ことごとく外してるのよ! 悩みはじめてから、ゲーム、たくさんしたけど……私じゃどうあがいてもエンディングなんて見えない! だから……い、いくら好きになったって、ルートがあるはずないじゃない……」。

なんだかマニュアル人間の妄想みたいなスゴイ話だが、由々花の悩みはまさに、人間というよりはエロゲキャラとしてのそれだ。そんな彼女に大貴は訊ねる。「自分がエロゲ好きの変態だから、ふられる前に変態の巣にすごすご帰った、ってことでいいか?」。

これを受けて、由々花は叫ぶ。「傷口に塩塗らないでよ、馬鹿ぁ! どうせ主人公ポジションにモブキャラ理解しろなんて無理なのよ! 十派一からげ(※「十把一絡げ」の誤字)にまとめられるABCの気持ちがわかる!?」。一見、主人公の解釈を認めたようで、そうではない。だって、彼女は一貫して、自分にヒロイン属性が無いということを気にしているのだから。問題は、変態か否かではない。変態がヒロイン(ただしくは由々花が愛してやまない、純愛萌え系エロゲーのヒロイン)になれないことが問題なのである。

だから、大貴はこう告白するのだ。「俺はお前が好きだ。モブキャラエロゲ好き変態女A」、と。この台詞は言うなれば、他のゲームではモブキャラAかもしれないが、この(HEAT-SOFTの)ゲームではお前こそがヒロインなのだ、という宣言になっている。これ以上ない、感動的な、最高の口説き文句ではないか!! ……多分。

一方、Hはしたが、大貴を好きだという気持ちに自信が持てずに悩む由々花に、妹達は言う。「わたし、犬でいいって思ったの。メインヒロインにはやっぱり敵わないから」(めぐり)。「由々姉さまの大好きな萌えゲーで、好きな男性と以外に、エッチするヒロインがいましたか?」(まわる)。二人はそれぞれ由々花にハッパをかけているのだが、ここでは単に、エロゲーの用語で会話をしているというだけはなく、用いられているのがエロゲー内部のロジックであることに注目してほしい。

由々花ルートを集中して見たが、まわるルートの「男性はみんな、一皮剥けば、女性を思うがまま犯したいケダモノなのでしょう? ゲームではそうですよ?」(まわる)や、めぐりルートの「ルート争いに敗れたヒロインは、きちんと引いたほうがいいわよ」(ゆゆか)も、基本は同じ。彼女たちは徹頭徹尾、《エロゲー内存在》だ。本作の世界は、エロゲーキャラがユーザーの存在そっちのけで自己反省会を展開する、そんな奇妙かつ斬新な形で完結している。ここには、多くの人が期待するであろう「リアル」と「エロゲー」の二項対立は存在しない。大貴はリアルの視点の持ち主ではなく、エロゲーが良くわかっていないエロゲーキャラに過ぎない。リアルなんて、どこにも無かったのだ。

ただそうなるとリアル側にいるユーザーと作品の接点は、どれだけ作中のネタに共感できるか、つまり「あるある」感が高められるか、に収斂する。個人的には、これが今ひとつ。といっても、「ねーよ」と思うわけではない。逆に、余りにも通り一遍というか、普通のことしか言われていないのだ。たとえば、ヤンデレめぐりの行動原理は、「どんな形でも恋しい人と繋がっていたいと考えて行動する」従属願望と説明されていたが、まあそうですね、としか言いようがない。否定はしないが、膝を叩いてナルホド、という諒解感も無い。そんな当たり障りのない理解では、「あるある」感は高まらない。突飛でも良いから「言えてる」感が欲しかった。少なくとも、「うんうん、このジャンルのエロゲー好きならこうだな!」とニヤリとするくらいの深みが無いと仕方ない。そして作品との接続不全は、この種の作品にとって、ある意味致命的欠陥である。

だが、テキストがこれを救った。まず、台詞がいちいちウィットに富んでいて楽しい。いわゆる、切れ味の良いギャグが至るところに、しかも無理なく自然に散りばめられている。加えて、テンポが非常に良い。この理由は明らかで、ほぼ全ての掛け合いが、明確な漫才構成になっているのだ。大貴がいるときは、大貴がツッコミ役。由々花はすべり芸担当。まわるが(誤った意味での)確信犯ボケ、めぐりは天然ボケ。三姉妹の時は、まわるがボケつつツッコミ役に回る、という具合。主人公の大貴が色んな意味で突っ込むのは当然として、大貴不在でもテンポキーパーとしてまわるが導入できたことは大きい。

あと、不満を言えば音楽だろうか。ちょっと気合いが抜けすぎである。必要なところにだけお金を掛けたにしても、総合的な完成度を見ると、やや見劣る感じは否めなかった。ボリュームはそこそこ。共通がやや長く、由々花が他二人にくらべて優遇されている。Hシーンは独特の絵柄で好みが別れるかもしれないが、個人的にはアリ。十分お役に立ってくれるレベルだった。全26シーンも普通。ただ、抜きゲーではないと判断したので、普通の中・低価格ゲーよりは評価のバイアスを軽くし、演出面の評価を重くした。

本作が狙って作ったものなのか偶然の産物か、その辺は定かでない。が、たとえ結果的にこうなっただけだとしても、初発の設定とキャラ立てが功を奏したのは間違いない。中・低価格作品といえば半ば義務のようにHシーンの質を高めることだけに注力する作品が多い中、こうしてHと直接関係ない部分にもアイディアを盛り込んで差別化を図る姿勢には、個人的に敬意を払いたい。

基本点85点(中価格)、内容+5、テキスト+5、作品との接続-10、音楽-5、細部演出-2。

細部演出は、テキストと読みのズレ(恋しいを「いとしい」等)や誤字、立ち絵の表情の少なさ。キャラ呼称が細かく変わるなど、雰囲気を出す工夫が多く施されていたのは好印象だが、そういった細かい工夫を生かし切れたかというと、やや微妙。CVは、由々花の弱気バージョンをはじめ日常はとても雰囲気があって良い。ただ、濡れ場がピンと来なかったので相殺。

無い物ねだりなので点数には含まないが、開始してすぐ分かるとは言え、エロゲー好き三姉妹の設定をOHP等でバラしてしまったのは少し勿体なかった気もした。ヒロイン達の態度が、種の分かっている手品を見ているような感じになってしまったのだ。肝心な部分は匂わせる程度の紹介にしておけば、タイトルのキャッチーさも含め、序盤の引きつけ要素としてだいぶ活躍できたかもしれない。いささか残念である。