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OYOYOさんのDRACU-RIOT!の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
DRACU-RIOT!
ブランド
ゆずソフト
得点
81
参照数
4403

一言コメント

諸葛亮をゲットしたくて荊州行ったら、登用できたのは伊籍だった、みたいな感じはありますが……。伊籍もかなり良い軍師だし、充分じゃないかなぁと思うわけです。(「三国志12」のステマではありません)

長文感想

三月の目玉として注目を浴びた本作。大規模な早期予約キャンペーン、発売前からキャラソンの販売と盛り上がり、とうとうあまりの勢いにバッティングを嫌ったブランドが発売日をずらす宣言をするなど、話題には事欠かない。コマーシャルという採点項目があれば、満点を付けたくなる。

しかし、発売後に聞かれる評価は総じて突き抜けた感じがない。このサイトを参考にすれば、データ数130の現在、(採点無しを除き)60点未満がいない一方、90点以上も1割(12人)。発売前の騒ぎに比べれば、大当たりするでも思いきりはずれるでもなく、こぢんまりまとまってしまった感がする。発売前にハードルを上げすぎたのか。あるいは、前作(『のーぶる☆わーくす』)が良すぎて本作が霞んだのか。はたまたよく似た名前の他社作と比較されたせいか。ある人は期待に応え損なったと言い、別の人は先入観に眼が曇っているのだと言う。

往年の『美味しんぼ』ファンなら、「二代目の味」(8巻収録・第6話)を思い出すだろう。「名人として崇拝されていた人の後に、同じ程度の天ぷらを出したんでは、低く評価される」。素晴らしい評価を受けていたものを超えるには、それと同程度ではいけない。どこか一点上回らなければ、過去の呪縛から解き放たれることは無いのだ、と。たしかに、多少はそういうところがあるのかも知れない。山岡士郎なら、「俺は、そんなにみんなが言うほどのことはないと思う。ドラクリオットは見事な出来だった。これだけの作品を作れるブランドは滅多にない」と褒め称え、ユーザーの先入観を暴くところだ。

しかしまあ、私は東西新聞社一のグータラ社員ではないし、ユーザーも大原社主ほどお人好しではあるまい。先入観にとらわれず、自分の目で見、耳で聞いたものを自分の頭で判断している人のほうが圧倒的に多いはず。「思ったより伸びなかった」という結果的な落差は事実だとしても、最初からそこまで眼が曇っていたとも思われない。やはり本作には、何か多くの人を満足させないところがある、と考えるほうが自然である。では一体、問題はどこか。

脚本は、特に問題がないどころか、なかなか良くできている。特にテーマがはっきり見えるのが良い。そのテーマとは、私なりに解釈すれば、「異端」ということである。

美羽、梓、莉音、エリナというメインヒロインたちは「異端」に対してそれぞれに別の距離感を持っている。異端として自立を目指す者、異端との共生を目指す者、異端に無自覚な者、そして異端であることを隠す者――。それは、人間から吸血鬼になった(プラス、ある特殊性を持つ)「異端」そのものである主人公・佑斗に対するスタンスの違いとして、わかりやすいコントラストを描く。外的な「異端」性を乗り越えて、存在全部を肯定する形で結ばれる恋愛、という明確なモチーフに沿って筋を通したストーリーは、相互補完的に絡み合い、アクア・エデンという物語世界を鮮かに描き出す。なにげに意味深だったタイトルの後半部分も綺麗に回収されて、ややヒネリが無いと思わないでもないが、すっきりまとまった構成でエンターテインメントとして充分な力がある。

世界設定も練り込まれている。たとえば《公式書類の署名を吸血鬼単体で提出してはいけない。必ず人間の署名も必要》というエピソードは、直接的な説明よりはるかに雄弁に、吸血鬼に対する視線や市政に燻る差別を語り、アクア・エデンで行われている「自治」の限界と実態を浮き彫りにする。ショッピングモールの品揃えや人工血液、娯楽施設のありようなども同様で、そこから都市の生活が想像できる。シナリオに必要な設備や制度を、単なる思いつきで並べたような作品が多い中、直接表面化しないような「見えない部分」の設定にも気を遣っていることがうかがわれる、骨太の作りだ。

また、キャラクターも素晴らしい。容姿もさることながら、キャラ付けが明快で特徴がはっきり掴めるのが良い。加えて、CVがばっちりハマっている。特に、顔を真っ赤にして目を回しながら、「せせせせせせ――セックチュ、を!?」などと舌足らずにエロワードを口にする様子は大変萌える。余り隠れていない「隠しキャラ」(胸が隠れているという意味なら、魔法のように隠れていたが)も大変可愛らしく、ワイシャツベッドシーンの破壊力は神がかり的。どたばたラブ・コメディのキャラクターとしてはこれ以上ない出来映えである。

下ネタ満載のテキストは、発想がオッサンすぎると思わないでもないのだが、まあ下品になりきらないギリギリのところで踏みとどまっているし、何よりテンポが良い。一息の台詞の中でもころころ表情がかわるのと相俟って、嫌味のない軽妙な雰囲気に仕上がっている。音楽を含めた演出全般も、丁寧で雰囲気を盛り上げる良質なもの。そして何よりエロが良い。Hシーンが抜けるか抜けないかは措くとしても、下着の付け替えシーンでスカートは付けたままとか、Tシャツ一枚にぱんつとか、何かもう色々わかってるなあ! かわいいなあ! という感じで内心ガッツポーズを連発。……とまあそんなわけで、作品を構成する各パーツは、きわめて良くできていて、穴らしい穴が見あたらない。

しかし、要素として見た場合には粒が揃っているにもかかわらず、全体としては統一感に欠ける。つまり、組み合わせに失敗した。恐らくはこれが、本作の「突き抜けない」原因である。

たとえば、脚本とキャラクターの齟齬。本作のキャラクターの魅せ方は、単純明快。とにかく何度も同じようなネタを繰り返してはキャラを馴染ませ、イメージを固める手法。最初に与えたイメージを大きく変化させないことで安心感を与え、今ある魅力を膨らませていく。これに対して物語は、進むにつれてテーマを深める形。異端とは何か、共存するとはどういうことか、という具合に。

脚本を活かすにはキャラクターの思想や立場を変化させ、その差異や落差によって物語に説得力を持たせるべきだろう。だが、キャラクターのウリは、変わらない安定感。それはそれで一つの魅せ方ではあるが、ストーリーの変化に対して成長していないようにも見え、単調で物足りない。同様にキャラクターからすると、ストーリーの進展は強引なものに見えてしまう。

同様のことは、描写にもあらわれている。美羽をはじめとする本作のヒロインは(佑斗もだが)、とにかくペラペラと自分たちの感情を説明する。その饒舌っぷりは、萌香の店では酒のかわりに自白剤でも出しているのかと疑いたくなるほど。好き・戸惑い・嫉妬……奥行きやら含みをバッサリ捨てて、言葉によって感情を可視化するのはひとつの方針であるとは思うが、前述の通り「見えない部分」に奥行きを持たせた世界観と比べると余りにアンバランス。ED近くでシリアスになる際などには特に、キャラが世界の中で浮き上がってしまう感じがあった。結局、パワフルで魅力的なのだけど、「この娘じゃないとだめ!」という魅力を発揮しきるキャラがいなかったのは、そのあたりに原因があるように思われる。

また、要素を盛り込みすぎたという側面もある。たとえば、戦闘における特殊能力のようなアクション要素。本作の戦闘描写の意義は、主人公の強さを描くことにあるわけではない。佑斗たちの活動はあくまで、海上都市の警備であり、自分たちの居場所を守るための自衛活動だ。求められるのは派手さよりむしろ、戦う理念や決意といった精神性だろう。能力戦闘という見栄えに引きずられ、その部分の意義が疎かになってしまった。逆にアクションに力を入れるなら、戦闘場面にこそ一枚絵やムービーをつぎ込むべき。おっぱい祭りをしている場合ではない。

全体としてのこうしたちぐはぐ感は、喩えるなら、フランス料理のシェフに中華料理の材料を渡して和食を作れと言っているようなもの。個々のパーツは一流だから、できあがったものは悪くないのだが、きちんとまとめたものと比べると見劣りするのは避けられない。しっとり読ませるストーリーをしたかったのか、社会問題に切り込むことを目指したのか。派手なアクションを入れたかったのか、ちょっとHなラブコメディが出来れば良かったのか――。構成からは、この作品が「一番喜ばせたい相手の顔」が見えてこない。「みんなの喜ぶ顔」がみたかったというのは、優等生の模範解答かもしれないが、ユーザーへ向けたラブレターとしては八方美人過ぎて失格である。

とはいえエロ・萌え・ギャグの三拍子は揃っているし、迷走気味とはいえ、奥行きのある物語や設定の深みも伴っている。まずは今後を期待させる出来映えと言って良いだろう。

プラスアルファで注目したいのは、冒頭にも述べた、溢れんばかりの商売っ気。発売前の大々的なCM先行、店舗特典の大量投入は、作品本体の良さで無いところで勝負しているようにも見え、人によってはあざといと批判的な向きもあるかもしれない。なるほど作品の質に直接関係ないのは事実。だが、個人的にはこの点をブランドの姿勢として高く評価する。

カウントダウンムービーを大量に制作するのはそれなりに手間だろうし、店舗特典も無料ではない。しかも各店舗ごとにかなり充実した内容を分散させているので、出費だってバカにならないだろう。特典の種類を変えて複数個買わせようとしているというよりは、どこで買っても満足できる特典を用意した、と捉えることもできる。

発売後も人気投票だけでなく、「イラストコンテスト」などを開催し、積極的にユーザーが関わることに手間暇を惜しむ様子が無い。ユーザーからすればイラストを描くことで思い入れも出来るわけだ。たとえセールス目的だとしても、作品に愛着を持って貰おうという姿勢は一貫している。商売っ気というと下品に聞こえるが、ここまでくるとサービス精神と言い換えて良い。

たしかに、こうしたお祭り的な演出による楽しみは、発売日を本作と共に迎えた人にしか通じない、普遍性の低い楽しみ方ではある。5年後どころか5ヶ月後でも、作品単体をプレイした人には、まるでピンと来ないだろう。だが、演出込みで作品のコンテクストを楽しませようとすること自体は別に、悪いことでは無い。サービスの一環だし、それによって作品自体を好きになる人がいるのなら尚更だ。

実際、発売日のソフマップには美羽と梓のTシャツを着込んで列に並んでいる人をはじめ、グッズに身を固めたおにーさん達をちらほら見かけた。あれがサクラでないなら、それだけ「演出」に成功していたのだということになる。もちろん、これで作品が手抜きだったり目も当てられない内容だったら本末転倒だが、本作を終えて手抜きと感じる人はほとんどいないだろう。

マーケティング的な手法は繰り返し述べているように、作品本体の良さとは関係が無い。だから手放しで褒めるつもりはない。だが、作品を楽しんで貰えるように心を砕く姿勢は立派なもの。ややもすると嫌味な押し売りや詐欺商法と揶揄されることにもなりかねないので注意が必要だが、本作に関しては綺麗にハマっていた。

それにしても毎度思うことがある。ゆずスタッフの皆さんは、童貞に恨みでもあるのだろうか。「童貞」連呼は今回にはじまったことではないが、今回は一層磨きがかかっていた。ロリコンネタも満載で、普通に生きていれば一生かかっても聞くことはないだろうというくらいの回数、「童貞」「ロリコン」という単語を耳にした気がする。本作で固有名詞を除いて最も使われたワードは童貞、次点がロリコン、三位くらいに吸血鬼だったのではないだろうか。ロリコンの童貞が本作のターゲットで、熱烈なラブコールを送っていたのだとしても、少々やりすぎ。エロゲーやるつもりが童貞の海で溺れるというのは、なかなか斬新な体験だった。

基本点90点、演出+5、エロ+6、雰囲気+5、散漫-10、詰め込み-5、バランス-5、齟齬-5。