ははは、お尻の話はもういいじゃないか。もっと政治の話とかしようよ。
本作は、穏健派のパンツブレヒトとアナルミリアン勢力を駆逐し、権力を握ったオシリス大帝率いる神聖TOMA帝国が、乳・尻・フトモモの三国鼎立状態に終止符を打つべく仕掛けた聖戦(ジハード)の軌跡を描いた大スペクタクルである。何という大きな構想、構図であろう。胸が轟くのを覚える。前も後ろも胸も素股も、腋に足の裏まで混ざった混沌暗澹たる世のエロゲーは、尻絶対主義の純一さに比べて、何と濁った世界であることか!!
……のような内容を想像していたのだが、別にそこまでとんがった内容でもなく、フツーに乳もアナルもパンツも出てきていたので何だか拍子抜けといえば拍子抜け(※「パンツでもアナルでもないッ!お尻にこだわったフェチ」と言われていたのです)。ひとまず、きちんと作品の内容を概説しておこう。
遠山完治は人並み外れた視力と観察力を持っていた。他人の態度や表情から嘘を見抜いてしまう彼は、いつもどこか孤独。ところが、そんな彼に表情を読みとらせない氷の女が現れる。彼女の名は、氷雨川雫。クラスメイト・綾芽桜とのトラブルが原因とで雫の本性に触れた完治は、同時に自分が無類の尻フェチであることに気づかされる。雫・桜に早乙女健也(本当は伽夜という女の子)を加えたグループで、完治の美尻三昧生活が始まるのだった。
正直、ユーザーがお尻を楽しむ要素は少なかったように思う。お尻初心者の私でも、バッタのケツを見ただけで興奮できるようになるくらいのお尻伝道師を期待したのだが、どちらかといえばお尻大好きな完治の姿を愛でる要素のほうが強かった。とはいえこのコミカルパートの破壊力がなかなか。テンポの良いギャグの連鎖によって、楽しく話を進められる。
とにかく完治の尻への愛がビンビン伝わってくる。試しに彼の熱いパトスを拾ってみると、「尻は俺の命……俺の人生そのものと表現しても過言ではないだろう」とか、「そうだとも!! 尻があるから俺がいるんだ!!」とか、まあこんな感じ。良くわからないけれど何か正しいような気になる、不思議な勢いに充ちていた。
雫に告白された時も、「どんなに考えても、わからない。俺は氷雨川が好きなのか? 尻が好きなのか?」と悩む。真剣に悩む。その挙げ句に至る結論が、「もしお尻に告白されていたら、即座にオッケーしていただろうに……。ああ、どうして氷雨川はお尻じゃないのだろう」というありさま。潔いのか悪いのか判断はつきかねるが、限りなく人間失格に近いことは間違いない。
雫は、普段は自称ビッチのドSで完治を罵倒するが、Hの時はMになる。時折見せる甘えた表情が魅力的。桜はセックスマシーン(笑)。伽夜は恋する乙女。愛(哀)すべき変態の完治くんと、そんな三者三様のヒロインたちの、明るく楽しいエッチを堪能するのが本作の醍醐味。ぶっちゃけ、ストーリーに期待は禁物だ。
完治の「能力」も、そこから来るトラウマも、殆ど本作の中では重要な位置を占めない。完治ら四人がグループをつくるきっかけになったのは、雫と桜への「いじめ」なのだが、それもほぼ完全放置。このブランドの恒例ではあるが、すがすがしい伏線の投げっぷりだ。尻は尻でも、シリアスな事件など何一つ起こらない。そもそも大半がHシーンのストーリーで、重苦しい話をされても手にも股間にも余る。これで正解と言えよう。
さて肝心のHシーンだが、抜群にエロい。シーンのクオリテが高く、表情や構図のエロさは折り紙付き。加えて、ヒロインが派手に感じまくる。あと、エロシーンは突然三人称描写になり、完治とヒロイン両方の心理が描かれる。好みにも依るが、ヒロイン側の心理も判った方が私は良いタイプなので、ありがたい仕掛けだった。
ともあれ穴という穴から液体を垂らすような過剰さは、凌辱ゲームでもかくや、という感じ(というか、「イッてるのぉ……さっきから、ずっろぉ……ら、らから、無理……もう……おがじぐなっれ……こわれぢゃうぅぅ」とか、もう完全にそっち系)。和姦系でここまでやってくれると何か申し訳なくなる。
フェラでまでヒロインが涙を流して喘ぐのも、やりすぎ感があるとはいえ、様式美の範囲だ。剥き出しのお尻描写が多くバック率も高いなど、尻が圧倒的に厚遇されているが、その辺はタイトル通り。文句を言う筋合いではない。
暦の上では春とはいえ、寒さの未だ厳しき折。くれぐれも私のように、プレイ時間中ズボンをおろしっぱなしにして、下半身を冷やすようなことの無いよう、これから購入を考える皆さまにおかれては、くれぐれもご注意あれ。
ただ、Hシーンに不満が無いわけではない。単純にシーンの質を量と結びつけることはできないが、抜きゲーで全19場面というのはいかにも少ない。また、雫9、桜6(うち1は雫との3P)、伽夜4というシーンバランスも微妙。ハーレムも無し。尻……もといキャラの好みが合わなかった場合、ガッカリするかもしれない。シーンの数がそのままボリュームにも直結しており、雫以外のルートは随分短いのも難点。
シーン数が少ないと言うことは、シチュエーションも必然的に少なくなる。本作は、物語に必然性をもったHシーンが入るタイプの作品ではない。Hシーンを一本に束ねてストーリーにしている。つまり、どのようなシーンを入れるにしても、特に制約は無く、自由自在なのだ。それなら、なるべく様々なシチュエーションやコスチュームを投入するのがファンサービスだろう。せめて各キャラ私服くらいは入れてもよさそうなのだが、それすらも(雫を除き)無い。どうしても作り手の側が提示したいこだわりがあって、仕方なく削ったというのなら判らないでもないが、「尻」以外にそんなこだわりがあるようには見えなかった。
つまり単純にフォロー属性が狭く、物足りなさを感じる可能性が高い。それでも個々のシーンのクオリティゆえに全体では辛うじてバランスを保っているが、エロを売りにした作品としては残念に思われた。
主要キャラ以外のCVやBGVが無かったり、表情や音楽、Hシーンのグラフィック変化がやや雑だったりと、演出面は微妙。またTOMA氏のCGも、雫以外のキャラは乱れが散見される。それでも、溢れんばかりのお尻への愛で一本筋を通した、漢らしい作品。冷静に考えると色々粗も目立つが、押し切ってしまえるだけの勢いがあるのも確か。この作品の話をするだけで、お尻が好きな人とお尻愛……もといお知り合いになれるのだし、フィーリングが合うならば買って損なし、といったところである。
なお、ルート分岐は合計三つ。二箇所の選択肢の組合せによって決定される。最初は一部開放されていないルートがある。正解の組合せ以外は全部BADだが、やりなおしてもそれほど時間はかからないので、セーブさえ忘れなければ問題なく攻略できるだろう。
基本点85点、お尻愛+3、ギャグ+5、システム-2、演出-5、ニーズ-3、CG-3、ボリューム-7、エロ±0。TOMA氏のファンやお尻愛好者は、お好きに補正をどうぞ。