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OYOYOさんの美少女万華鏡 -呪われし伝説の少女-の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
美少女万華鏡 -呪われし伝説の少女-
ブランド
ωstar
得点
88
参照数
1862

一言コメント

大外から驚異の末脚で突っ込んできた伏兵。個人的には、2011年の低価格帯作品でもトップクラスに入ると思います。

長文感想

駆け出しのホラー作家・深見夏彦は、怪談の噂がたえない、信州は山間の温泉旅館の一室に宿を取る。日本人形が敷き詰められたその部屋で、夏彦は不思議な少女・蓮華と出会う。彼女に勧められるままにのぞき込んだ「万華鏡」は、夏彦に不思議な世界をかいま見せるのだった。「万華鏡」の先に描かれる不思議な世界を眺めるオムニバス作品。第一弾の本作は、女子校に勤めるロリコン教師・斧神滋比古と、そこに通う学生・篝ノ霧枝の恋物語が描かれる。

八宝備仁氏が原画を担当ということで、グラフィック面に関しては全く心配していなかった。むしろHPや雑誌発表で見られるCGの、あまりのクオリティの高さに、グラフィックの出来映えが良いときほど肝心の作品が残念になる「八宝備ジンクス」の発動を恐れたくらいである。

ところがどっこい。意外なことに、と言っては失礼なのだろうが、本作はトータルで見てすこぶるデキが良い。まず、ストーリーは短いながらもしっかりした純愛の物語。洋館で一人暮らす霧枝の孤独を滋比古が愛情で埋めていくという、奇をてらわない展開が良かった。

滋比古は金持ちのボンボン。アルマーニを着こなし、エルメスの鞄を持ち、ジャガーを乗りこなし、大学時代はヨット部所属。霧枝に言わせれば「鼻持ちならない嫌な男」である。ただし、筋金入りのロリコン。ぶっちゃけ引くレベルでキモい。

しかし、そんなキモい彼が霧枝に向ける愛情は、純粋で一途だ。やっていることは霧枝の試験答案を持ち帰って匂いをかいだりするという、変態的所業以外の何ものでもないのだが、本人は大まじめなので微笑ましく見守ることができる。

一方、霧枝はそんな滋比古に「ゴキブリを見るような」視線を向ける、氷の女。けれど彼女の心は、まっすぐな滋比古の恋心(と肉欲)に触れて少しずつ溶けていく。特に、デレ始めた頃からはかわいさが2.5倍(当社比)くらいに跳ね上がり、声からも信頼感がにじみ出ていてGOOD。この辺りは声優さんの演技力の賜物だろう。

設定の説明不足や、描写の掘り下げはそれほど深いとは言えない。そもそも大半がH場面で占められているため、キャラの内面をそこまで丁寧には描けない。それでも本作は、滋比古と霧枝のアンバランスさを最大限に活かして綺麗なラブロマンスに仕上げることに成功した。

二人は、とにかくバランスが悪い。片や教師、片や学生。片や人間、片や吸血鬼。滋比古は一方的に霧枝への想いを募らせるけれど、霧枝のほうは滋比古を道具としてしか見ていない。天秤が傾きまくってひっくり返りそうな状態からのスタートである。

ところが霧枝は、滋比古を思い通りに扱えない。だから、あの手この手で滋比古を支配しようとする。滋比古のほうは霧枝に絶対服従のようでいて、愛情を受け取りたいと思い、立場を活かして霧枝に反撃する。そうやって繊細なバランスの綱引きを繰り返し、二人の距離が縮まっていく様子は、見ていて楽しくなるし、共感できるものだった。

しかも、ラストシーンではなぜ滋比古がブランドものに身を包むのか、なぜ少女しか愛せないのかが語られる。それは、彼が霧枝にこだわる直接的な理由の説明にはならないが、彼がさまざまな行為で霧枝に求めていたものが何だったかをはっきりと伝えてくれる。結果、なぜ滋比古が霧枝という少女にあれほど強く惹かれたのか、ユーザーは納得できるだろう。作品が一本の糸で繋がり、ストンと腑に落ちたところで物語は締めくくられる。短いからこそできた芸当なのかもしれないが、これはなかなか見事な落とし方だ。

ただ、テキストに関してはいささか微妙。特に無理をして言い回しに凝った時に、違和感が噴出する。蓮華と夏彦のやりとりや蓮華の語りは、幻想的でどこか退廃的な雰囲気を出そうと言い回しにこだわった感じがあるのだが、いまいち逆効果だったように思う。むしろ肩肘張らない滋比古たちの日常会話の切れ味が優れていた。

音楽はEDテーマも入っていて(音楽モードで再生できないが)、頑張っている点は評価したい。EDムービーは、アニメを意識したと思われる(「美少女万華鏡製作委員会」というクレジットが出るなど)演出が盛り込んであり、映像的に楽しめる。はっきりしたことは言えないが、恐らく『地獄少女』を意識していたのではないだろうか。

そして、何と言っても圧巻はHシーン。トータルシーン数15で差分無しCGが23枚。EDを除いて全てエロ。各シーンの丈も長く、ボリュームは言うこと無し。シチュエーションも多彩で和姦からちょっと虐める系まで幅広くフォロー。コスチュームも制服・ゴスロリ・ビキニ・スク水・シスター服・ネコミミとよりどりみどり。しかも八宝絵。そのうえ一部シーンはアニメーションもある。恐れ入谷の鬼子母神とはこのことだ。

八宝氏のCGは、基本的に体つきと瞳の表情が魅力だと思っていたのだが、本作は口もとがやけにエロティックだった。機会があれば是非注目してみてほしい。口もとの表情から、尋常ならぬエロさが伝わってくるはずだ。……多分。

アルバムモードの使いにくさ、既読スキップが無いことなど、システム面に多少の不満は残るが、所詮は些事。補ってあまりある本編の内容で、充分に満足できた。ただし、あくまで攻略キャラは霧枝のみ。蓮華を攻略したかったとか、ロリ巨乳じゃないと駄目とか、ゾンビと寝たかったという人の受け皿にはなれないのでご注意されたい。

基本点80点(低価格)、CG+5、エロ+5、物語+3、価格+5、テキスト-5、システム-5。今後も同じくらいのクオリティで連作が発表されるなら、間違いなく買い。そのうち重苦しい悲恋などもあるのだろうか。バリエーションも含め、とても期待が高まるシリーズである。