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OYOYOさんの無限煉姦 ~恥辱にまみれし不死姫の輪舞~の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
無限煉姦 ~恥辱にまみれし不死姫の輪舞~
ブランド
Liquid
得点
92
参照数
4475

一言コメント

人は何のために生き、何のために死ぬのか。大事なことに気づかせてくれる感動作品。クリスマス前の景気づけに。

長文感想

主人公は、絶対的な身分制度が敷かれた世界で生きる少女。彼女は自分の名前を含めた一切の記憶を失った状態で、ただ〈奴隷〉として生活していた。ある時、世界の王と遭遇した少女は、不老不死の肉体と、「何者にも束縛されない自由」を与えられた。だがそれは、全ての存在から、身体・精神的な迫害をうけることと同義だった。少女は王の世界を逃れ、安らぎを求めて何世紀もの時を流浪する。

謎だらけの世界。主人公の名前すら〈奴隷〉と表記される徹底ぶりで、普通なら意味不明でついていけなくなるところだが、少女が置かれた境遇を圧倒的な具体性をもって描くことで、ユーザーを引きつける。苛烈で過酷な状況におかれた少女がいるという、その事実だけで十分、物語に引き込まれるわけだ。加えて、恐ろしくテンポが良い。必要な情報は与えつつも余計なことは書かれないため、緊張感が持続する。一章は、あっという間に終わるだろう。その頃には、さまざまな謎が絡み合う世界が輪郭をもって出現し、続きが気になって仕方なくなってしまう。

シナリオを手がけたのは和泉万夜氏。『EXTRAVAGANZA』や『euphoria』のように、ダーク系ドラマでは安定感のある作品を出しているライターだ。

メインストーリーは一章から五章まで。怒濤の如く物語は展開し、誰が味方か分からないサスペンス要素も相俟って、基本的にダレることはない。四章には更なる山場もあり、いっそう盛り上がる。各章はそれぞれオムニバスと言われても遜色が無いほど、個別にまとまった完成度を誇り、しかも全体として有機的に関連している。構成からだけでも、相当な配慮と工夫がうかがえ、一見の価値がある。

本作の特筆すべき魅力は、卓抜なストーリーテリング。抑制された筆致で紡がれる物語は、ありがちなヒューマンドラマに堕することなく、重厚なテーマ性を持っている。もちろん、単純に筋書きも面白い。自由を得た少女が長い旅の果てに見出すものは何なのか。その行く末を見届けたいというだけで、作品を完走するモチベーションとしては十分だ。

そこに、一つの問いが提出される。少女は、なぜ生きなければならないのだろうか。

この世の地獄とも言うべき凌辱を味わいつつ、彼女は生の欲望を棄てきれない。王の世界では、どんな不幸な人間も、逆にどんな幸福な人間も、生きる欲望を失わない。それは、王の世界においては、死という無化こそが何よりも恐ろしい苦痛だからである。

住人にとって、王は絶対的な価値であり、王に認められることこそが彼らの生の意味の全てだ。ところが少女は、王に拒絶され、世界の価値体系から追放される。彼女が手に入れた「自由」とは、王という拠り所の喪失であり、生きる意味の喪失だった。

その後少女は、ただ死から逃れるために逃亡を始める。名前を得た少女は「ただ生きるのではなく、生き抜くこと」を誓う。出会いと別れを繰り返す中で彼女が学んだのは、誰かにとってかけがえのない存在となることが、生に豊な彩りを与えるということだった。誰にとっても〈奴隷〉という記号でしかなかった少女は、ただのヒトではなく、人の間に生きる者としての人間となった。

けれど更に時が流れ、少女は愛する人と共に逝けないことを意識し始める。それは、不死ゆえの悩みとして描かれるが、究極的に内包されているのは、人間が抱えるどうしようもない孤独だ。どれほど想っても、人は完全に相手のために生きることはできない。それならば、誰かにとって本当の意味でかけがえのない存在となることなど不可能なのではないか。避けえぬ別れが、無邪気に「かけがえのない存在」を夢見ていた少女に、再び生きる意味を問いかける。

勘の良い人ならば何となく世界構造的な仕掛けは先読みできるだろうが、物語のテーマが深まっていくために、オチを予測できても結末への興味は尽きない。『無限煉姦』というタイトルにも、実は含意があるように思えてくる。

やがて終盤、少女は気づく。人が生きると言うことは、自分が自分の世界の王となることなのだと。それは形あるものではない。どう生き、どう死ぬかを自分自身で決めること。それこそが、「生き抜く」ということの意味であった。だから彼女は、最後の決断へといたる。後に残るとも知れないエッセイを書き綴る様子は、本作屈指の名エピソードだと思う。

第五章ではHシーンが存在しない。その理由はラストで明らかになる。そこではじめて、ある人物にとって少女が代替可能な存在から、かけがえのない存在へと変化したからだ。それまでの少女は、どれほど大切に扱われていても「おおぜいの中の一人」でしかなかった。少女の決意を認めたことで、彼女たちは世界の歯車から人間へと戻ることが出来たのである。

王の存在や少女の運命を覆うある事実は、必然と呼んでも偶然と呼んでも構わないが、人間にとって根本的にどうにもならない事態の象徴だ。人間の前には常に、自分ではどうにもならないことがあり、そして人間は究極的には孤独である。それに気づいてなお、人はどうやって生きることに希望を持つことができるのか。最後は、少女を文字通り描ききって幕を閉じる。それこそが、本作からのメッセージだ。

くどくどと紹介文を書いてきたが、最後は是非、実際にプレイして味わって頂きたい。その実感に勝る結論は無いだろう。十一月を終えて、今年度で屈指のお薦め作品である。

基本点90点、構成+3、テーマ性+2、グラフィック+2、エロ-2、細部の手ぬるさ-3。エロは購買層の期待とちょっと違う感を考慮。細部は、エルクに言うこととリトルに言うことがダブルスタンダードになっていたり、主人公の生き甲斐が少しブレるあたり。