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OYOYOさんのStrawberry Nautsの長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
Strawberry Nauts
ブランド
HOOKSOFT(HOOK)
得点
79
参照数
1163

一言コメント

いつも通りといえばいつも通り。予習を欠かさない優等生型エロゲーマー向きかな?

長文感想

主人公・羽戸晴太郎は、人工島にある五光学園に通う学園生。手違いで女子寮(の隣の教員施設)で生活することになった晴太郎は、寮のメンバーと交流を深めながら学園生活を満喫する。やがて一年が過ぎ、新入生を迎える季節。鹿南女子寮での新しい生活が始まろうとしていた。

お気に入りの女の子と、いちゃいちゃちゅっちゅしたい――そんな人には堪らない本作だが、普通の恋愛ADVのように見えて、実は癖の強い、評価が別れやすい作品だ。

原因は、ストーリーの推進力にある。ざっくりと言ってしまうと、本作には、ストーリーの推進力がないのだ。いや、完全にないというと語弊があるが、その大部分をユーザー依存にしている。ここで言う「推進力」とは、ゲームの目的と言い換えても良い。たとえば女の子にモテたいとか、寮を守りたいとか、魔王を倒すとか、ふつうゲームには何らかの目的がある。アクションゲームの主人公・赤い服を着た髭面配管工でさえ、ピーチ姫を助けに行くためにクッパと戦う。

しかし、晴太郎は恋愛無関心の鈍感男。女性陣も晴太郎を慕ってはいるが積極的にいまの関係を変化させようとはしていない。つまりキャラクターたちには、物語を進める動機が見あたらない。では、何か重大な事件が起こるかというと、それもない。プロローグはキャラ登場と紹介に費やされ、序盤は何の変哲もない日常が続く。つまりこの作品にとって、女の子を攻略したいとユーザーが思うことが唯一のモチベーションなのである。

したがって、普通のゲームのようにプレイしながら「どの娘を選ぼうかな」などと悠長なことを言っていたら、たちまちHOOKの必殺・催眠光線の餌食となってしまう。OHPでのキャラ紹介や声優さん等々、外的な情報を予習して予め「恋人」を決めておくか、何かの理由でこのゲームを最後までやり抜く覚悟をもって挑む必要があるのだ。もちろん、本作を購入する時点で事前調査の内容を折込み済みだろうから、多くの人にとっては余計なお世話だろうが、評判だけで衝動買いすると痛い目を見る。

とはいえこれは、ヒロインとの濃密な恋愛関係を描こうというメーカー側の意図に沿った立派な戦略とも言える。つまり本作の価値は、作品全体でなく、ヒロイン一人のルートで決まると言っても過言ではない。気に入ったヒロインが一人いれば、その娘との生活をとことん味わい尽くす。それができれば、本作を買った意味はある。逆に、作品全体としての完成度や満足度を求めてしまうと、物足りなさを覚えるかもしれない。

してみると、今回導入された〈PIT〉はなかなか興味深い。モブキャラたちが怨嗟の声を掲示板に書き込んでいる時、晴太郎は懇意のヒロインとメールをやりとりし、寮でいちゃついているのだ。届かないはずの遠吠えが可視化されることで、かえってヒロインとの空間の密閉度が高まり、ユーザーの自尊心を巧みに刺激してくれる。私たちユーザーは、遥かな高みから奈落(PIT)を見下ろし、ひしめく亡者どもに向かって高笑いのひとつでもくれてやれば良い。ふはは。

ただ、PITのシステム設計は頂けない。どうせBBSという扱いなのだから、数日分をまとめていつでも閲覧できるようにして欲しかった。本編とPITを交互に見る必要が頻繁に生じ、テンポがスポイルされてしまう。内容を集中して読みたい場合、キャラの表情を見たい場合などには、明らかにマイナスだ。

また、これはもっと根本的な話になるが、そもそも「共通パート」は必要ないのではないか、という気がする。キャラ紹介という役割を担っているのかもしれないが、大して深くキャラが描かれる訳でもなく、キャラの個別ルートと密接な関わりを持っているでもない。折角のヒロインの濃度を、水で薄めたような展開が続く。これは、HOOKのうりである個別の密度を損なっていると思う。

そもそも普通のゲームだと、共通パートがストーリーの導入を担い、それが個別に展開していくのだが、前述の通り本作には展開すべきストーリーが無い。キャラクターそのものがゲームの目的でありストーリーだ。それなら、思い切って最初から一人のキャラクターにつき独立したシナリオを並べた方が良いのではないだろうか。共通パートで描かれるキャラの絡みを維持しつつ、最初からつきあう相手が決まっているシナリオというのは可能なはずだ。手間暇や予算のことを考えていないが、「コダワリ」を自称するなら、もっと思い切ってメスを入れても良いように思う。

キャラクターのクオリティや、主題歌を含めた演出能力は抜群に高い。あとは、それをフルに活かす設計図の完成がまたれるところである。

基本点90点、演出・システム+2、イチャラブ+2、声優+2(あぐみおん補正)、PIT-2、序盤たるみ-10、展開-5。上の如く、気に入ったキャラが事前にいない場合は余りお薦めしない。