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OYOYOさんのテンタクルロード -我が手に堕ちよ勇壮なる乙女-の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
テンタクルロード -我が手に堕ちよ勇壮なる乙女-
ブランド
Yatagarasu(八咫鴉)
得点
80
参照数
2033

一言コメント

燃えと笑いが触手一杯に詰まった良作。椅子と触手を組み合わせたマッサージ機・「触ッキングチェアー」は是非とも商品化して頂きたい。

長文感想

グリューンガルド王国は肥沃な土地を持つ豊かで平和な人間の国。しかし、周辺諸国からは魔王の国と恐れられていた。ある時、勇者の血を引く少女・アリアに率いられた隣国・リンドベルド王国が、魔王打倒の大儀を掲げ、侵略を開始。必死の抵抗も空しく、グリューンガルドは滅亡の危機に瀕していた。主人公である国王デューンは、召喚生物(触手)の力で局面の挽回に乗り出す。

触手というニッチな題材に、いかにも微妙そうな3Dグラフィックのスクリーンショット。『Obscene Guild』の時にユーザー葉書を送ったら景品を頂いたので義理立てして、半ば爆死覚悟で購入したが、期待は良い意味で裏切られた。

本作は三つのゲーム要素から構成されている。ストーリー進行と分岐にかかわるADVパート、アクションによる戦闘パート、合成素材集めや魔法開発・国力増加などを行うSLGパートである。個別に見れば各パートの完成度はそれほど高く無く、せいぜいADVがB級、戦闘とSLGはC級といったところなのだが、それらがうまく絡み合って、思わぬ完成度に到達している。

まず戦闘だが、頭は殆ど使わないし、高度な技術も不要。人はこれを作業と呼ぶ。普通はとても楽しめるゲームではない。しかし、敷居の低さ、簡単だが楽ではないこと、ちょっとした工夫が求められること。この三点が、作業ゲー的面白さを付与することに成功した。ルールや操作を覚える苦労がなく、すんなりゲームができる一方、触手のHPや敵スキルに注意を払わないと敗北するため、緊張感はある。また、わざと敵を自爆させたり、捕縛のために配置を入れ替えるなど、手を加える余地を残すことで適度に内容が引締まった。あと、透視能力で下着キャラが動き回る絵は、意外とエロくて興奮した。

SLGパートでは、徐々に状態をステップアップすることで戦闘に新要素が加わる。私見では、毎回一つの行動しかとれないという制限が有効に働いていた。あれこれ強化したいのに少しずつしか進まないもどかしさが、成果が積み上がって戦闘に活かされた時のカタルシスを増幅させるわけだ。かつてフリーソフトなどがそうだったように、システム的な複雑さは無くとも、プレイ条件を絞ることでゲームは面白くできるという好例だろう。

しかし本作で特筆すべきは何と言っても、ADVパートの楽しさだ。とにかくぶっとんだキャラクターに味がある。たとえばデューイは魔導書に《グリモワール・オブ・グリューンガルド》のような名前を付けて喜ぶ重度厨二患者。クリスは痛々しい独り言を呟き、アリアはノータリン。レイラは触手マニアの変態淑女と残念さん勢揃いである。

けれど、彼らはただのバカではない。彼らは「ベタ」(天然)にバカなように見えて、常に自分が相手からの視線も意識している。もちろん、本心から触手を愛して名前をつけたりしているのだが、それがおかしなことかもしれないという意識はもっている。つまり、どこか意図的な「ネタ」として振る舞っている部分がある。そのことはダミアンがキャラを演じていることからも明らかだろう。だからこそ、とんちんかんなことをやっているはずなのに、至極真っ当な結論が出るわけだ。

このことは、実は作品進行に少なからず意味を持っている。プレイヤーは、「なぜ、デューイは道化のように振る舞うのか?」が気になるだろう。配下の大げさな忠誠も、レイラの冷淡な態度も同じで、本作のキャラクターは《表に出る態度》の裏に《隠された本心》が見え隠れしている。肝心なのは、それがストーリーの根幹と大きく関わっていることだ。キャラクターの抱える謎は、物語の進行とともに少しずつ解き明かされていく。そこに、「戦闘」パートがはさまり、もどかしさが増幅されるとともに、リフレッシュできる。小出しの謎と適度なブレイクで、作品を読み進める駆動力とテンポが強化されるのである。

やがて明らかになるデューイの「真実」は王にふさわしい誇り高いもので、ユーザーの胸を打つ。同時に、彼を「魔王」へと仕立てあげた敵や、全ての黒幕への怒りは、大いに物語を盛り上げる。このメーカーの弱点だった内面性、ストーリーが見事に補強された。贅沢を言うなら、少々展開や黒幕が単純過ぎたかもしれない。初めから殆ど全ての構図が見えている状態なので、もうひとひねりくらいなら加えても、良い味が出たように思う。

また、一歩間違うと「痛い」だけで不快になりかねないデューイたちのノリに関しても、上手く中和されている。作中にはコモロイのような、立場がぶれないツッコミ役がいるのだが、そのツッコミはデューイたちが「ネタ」を演じていることを理解したうえでなされる、愛のあるツッコミだ。つまり、作品内で厨二成分を好意的な笑いにする回路ができあがっている。そのため、痛々しさは誰かをバカにするような刺々しい笑いにならずに済むのだ。少なくとも私は、気持ちよく笑って作品を続けることができた。

欠点を挙げるなら、戦闘に若干時間がかかりすぎることと、テキストが安定しないこと。そして、恐ろしいまでのインターフェースの悪さだろう。特に最後は致命的で、SLGパートでは行動のたび、何度も同じ移動場所をクリックするはめになる。「戻る」ボタンを押す度にトップが表示されるWEBサイトに迷い込んだ気分だった。作業ゲーであることと、無駄な作業が多いこととは別なので、次作があれば改善を求めたい。

「OOS」だの「PTS」だのとネタかマジか分からない、しかも微妙なシステムの開発を積み重ねてきて、それが花開いたのかどうかは正直判断しかねるが、個人的にはこの手の野心的怪作は好ましい。代わり映えのしない作品を漫然と消費するのでなく、ゲームを遊んだ気にさせてくれる。ベタとネタの見分けが付くこと、作業感に堪えられること、そしてもちろん、触手が大丈夫なこと。この三つの条件をクリアできるのなら、間違いなくお薦めの一本だ。

基本点90点、笑い+5、進行+5、まとまり+5、操作性-10、洗練-10、時間-5、ギリギリ80点。自分の採点履歴を見ると、80点を超えたのが触手ゲーばかりになるのだが、これは本当に偶然である。