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OYOYOさんの姉はカノジョで専属メイドの長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
姉はカノジョで専属メイド
ブランド
アトリエかぐや
得点
65
参照数
2202

一言コメント

ハメを外してハメまくる、そんなほのぼのした話。

長文感想

『姉はカノジョで専属メイド』は、アトリエかぐやが放つミドルプライスゲーム。タイトルとブランドイメージから連想されるのは、姉もの・コスプレ・奉仕系・いちゃラブ要素を搭載した抜きゲー。結論から言えばいささか詰め込みすぎのコンセプトで、焦点がぼやけてしまった。

主人公・鬼塚博人は平凡な学園生。幼馴染みの社長令嬢・天原早百合とつかずはなれずの微妙な関係を続けていたが、ある日天原家が会社経営に失敗。金策に専念するため、早百合の両親は鬼塚家に彼女を預けることにする。一つ屋根の下で暮らすことになり、博人と早百合、二人の距離は一気に縮まり、煮え切らなかった関係にも変化が訪れるのだった。

早百合はドジで天然で要領も悪いが、主人公への保護欲は誰よりも強く、包容力も高め。ドジ姉の典型である。コスチュームに関しては、制服・バスタオル・パジャマ・メイド服・私服(+黒スト)・ウェディングドレスとかなり多彩。立ち絵も5種類、1度きりのシーンにでもきちんと用意されていた。エッチシーンは全て和姦。ご奉仕と搾乳シチュが多い。

本作は抜きに特化したようでいて、実はストーリーにも力を入れている。たとえばエッチシーンで何度もエロ絵から視点が外れ、二人の会話が挟まれたり、ピロートークに長めの時間が割かれているのが何よりの証拠だ。

親の困窮をそっちのけで主人公といちゃつく早百合だが、これは当然、「会社が倒産しても自分の恋に生きる不謹慎な女」の描写ではない。「宿題忘れちゃった」と同じくらいの軽いノリで語られる倒産の事実と、その場面のコミカルなBGMは、倒産が本作の中では何ら深刻な事件ではないことを示している。逆に、重々しく描かれるのは早百合が主人公に隠し事をしているのではないかという不安や、終盤に図書館で起こるあるイベントでの二人のやりとり。要は、早百合と博人の心のやりとりだけに集中して遊んでくださいね、という丁寧なメッセージである。

上手いな、と思ったのは、各イベントの肉づけ方。たとえば初Hの後、ベッドの中で早百合が「とうとう……しちゃったね」と呟く。こういうひと言があると、二人がいかにもどかしい関係を続けてきたか、そしてエッチをしたことが大きな意味を持つかが想像できる。他にも、早百合の髪の香りを気にする演出もにくい。恋人になる前とその後で変化した、二人の距離感を効果的に印象づけてくる。全体として、平凡な日常→転機→恋人関係成立→仲の深まり→愛の成就 といういちゃラブものの王道要素をコンパクトにまとめている点は好印象。

しかし、エロで抜きたければもう少し安い作品があるし、ハートフルラブコメを楽しみたければフルプライスで多彩なキャラを狙える作品があるというのが正直なところ。まさに、帯に短したすきに長し。低価格ゲームを買うユーザーに対する明快な訴求力をもたせて欲しかった。

レビューを書いていて思い出したのは、『美味しんぼ』の「恋とお汁粉」のエピソードである。

ストーリーはこうだ。ある和菓子職人が、自分の作った汁粉を「売り物ではない」と批判されて悩んでいた。山岡士郎は味を見て次のように言う。「本格的な甘党を、この汁粉一杯で満足させる力はない」。甘味処に、普通のお菓子では得られないような満足感を求めてやってくる客をうならせるには、上品さよりも力強さが必要だ、と。

まさにこの話(『美味しんぼ』)のように、本作は丁寧で質も高いが、これ一本でユーザーを満足させる力強さが無い。エロも物語も心理描写もそれなりだが、どれもやりきったと言うには物足りない。フルプライスゲームの個別ルートの一部としてなら合格点かもしれないが、一本の独立した作品として考えると満足度に欠ける。

たとえば二人の心理描写をメインに据えるなら、上記図書館のシーンは二人の仲を進展させる重要なイベント。もう少し解決までタメがあったほうが盛り上がったことは間違いない。予定調和の終わりへ向かって進むだけ、というたるんだ空気が漂っているので、どこかで緊張感を持たせ、それが維持できていれば良かった。

選択肢分岐は無し。CGは差分無し24枚、シーン数9。1シーンの丈が比較的長いのでこんなものかという気もするが、いささか短い。不満がでてもおかしくないレベルである。

基準点80点(低価格)、コンセプト不足-15点、ボリューム-5点、全体のクオリティ+5点で65点。そういえば途中、買い物のときに一度だけ立ち絵ありのキャラが登場するのだが、彼女は何者だったのだろう。