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OYOYOさんのシュクレ ~sweet and charming time for you.~の長文感想

ユーザー
OYOYO
ゲーム
シュクレ ~sweet and charming time for you.~
ブランド
戯画
得点
77
参照数
3616

一言コメント

「お前も結婚してくれって言われたことないのか?」「ありますよ、一人だけ」「マジで!? 誰にだよ!」「……うちのお婆ちゃん」……(´;ω;`)

長文感想

主人公・城島景一は失業中の料理人。ある日、景一は自分が心で師匠と仰いでいた「大将」のいる喫茶店「リバーライト」に足を運ぶ。そこで知った事実は、大将の死と、それによって営業を続けることができなくなったリバーライトの閉店だった。大将の娘であり、リバーライトの現店長、亜麻川千鶴の危機を救った景一は、流されるままにリバーライトの再興を担うことを決意する。景一がヒロインと共に悩みや困難に立ち向かい、交流を深めていく物語。

グラフィックは綺麗で、女の子達は(多少不自然なポーズをとるが)可愛い娘揃い。テキストは読みやすく、音楽も良い。特筆すべきは、戯画ゲー標準搭載の、非常に細かな設定ができるコンフィグ。Qセーブ・ロードやQジャンプ時の確認のON/OFFまでカスタマイズできるのはありがたい。クイック機能を使うときは手間を省きたいのだから、いちいち「OK」を押すのも面倒、という人もこれで安心だ。また、通常シーンのリプレイもあって好感触。お気に入りシーンの再読だけでなく、レビューを書く際には大変重宝する。

個々のエピソードは心温まるものだし、随所に散りばめられた知性と痴性溢れるギャグ(一言感想は作中の抜粋)で、テキストも楽しく読める。付き合い始めた二人の関係が揺らぐなどの山場もあり、基本を忠実に守った安定感は、さすがの一言。

しかし、逆に言えばそこまで。ヒロインたちのキャラやストーリー構成が悪いわけではない。にもかかわらず、肝心の山場でも盛り上がりに欠ける。理由は、物語にきちんとした「中心」が存在しないところにある。

物語にとって「何に焦点をあてて進むか」は重要だ。それは普通は人物(主に主人公か特定のヒロイン)なのだが、(ループのような)事象だったり、(生徒会や寮のような)場所ということもある。本作は一見リバーライトが焦点のようにも見えるが、リバーライトの存続が直接の問題となるのはせいぜい共通部分まで。個別も通して物語の中心にいるのは主人公・景一である。しかし、本作は景一を掘り下げて描ききれなかった。

『パルフェ』や『ショコラ』と比較すれば瞭然だろう。『パルフェ』や『ショコラ』では、各ルートでヒロインとの交流を通し、主人公像が形成されていく。深まっていく主人公への理解は、香奈子・里伽子というラスボスとの戦いによって頂点を迎え、昇華される。クリア後に再度各ヒロインの個別ルートをこなせば、主人公の言動に新たな意味が見いだされ、「おお、なるほど」と思える深みがある。ヒロインは主人公の鏡であり、攻略することでプレイヤーは物語の中心を掘り下げ、最後に何かを掘り当てたカタルシスを得るのだ。

けれど残念なことに、本作の景一は(愛のことばを借りれば)ヒロインにとって「都合の良い男」でしかない。父親との確執など、自身も抱えている事情があるのにそれを押し殺し、ヒロインにあわせて接する。それは優しさや誠実さと言うこともできるが、要するに主人公の「自分」が無い。そんなわけで主人公のイメージはルートごとにバラバラ。結果的に、五つの「ちょっとイイ話」が並んだだけになってしまった。これではオムニバスと大差なく、一つのまとまった作品として見たとき、どうしてもパンチに欠けてしまう。

個々のパーツは優秀なのにどうも輪郭がぼやけている。「どんなゲームだった?」と聞かれると答えに困る。それが本作の全てであるように思う。何に注目すればいいか、ゲーム側が積極的に提示してくれないから、漠然とプレイすることになるのだ。本作に物足りなさを感じたとしたら、恐らく原因はこの辺りにある。

結局、キャラが気に入った人は楽しめるが、それ以外の人を引き込む力に乏しい凡作になってしまった。唯一、女の子に対してまっすぐ向き合う主人公という像がブレなかったことは救いだろうか。

基本点90点スタート。上記批判内容で-15点、サブキャラ放置罪で-2点、咲夜子さんとみはるのウェイトレスHが無かったので-2点。システム周りで+5点、ギャグ加点+1で77点。