派手さは無いが実がある、お買い得な作品。
『よくばりサボテン』や『ばにしゅ!』など、アリスのエロパロ路線の一角を占めるであろう作品。ベーシックな読み物系のADVなのだが、単純に見える中に、さまざまな工夫が施されている。
▼ゲームシステムについて
とりわけ目を惹くのは、シナリオの分岐ルートがあらかじめ可視化された、すごろく状のマップシステム。マップ上のマス目ごとにイベントというかシーンが割り振られており、どう進めばバッドEDで、どう進めばヒロインの個別ルートに行くかなどがはっきり分かる。また、一度止まったマス目にはいつでも自由に戻ることができる。
このマップシステムを活かすためだろう。本作には、オートセーブ以外のセーブが存在しない(任意セーブが事実上できない)。任意セーブができないというのは、ADVゲームとして比較的特殊なことだと思うのだが、多少の不便さを感じることはあれ、余り不満や違和感を感じなかった。むしろ、いちいち重要と思われるシーンの前でセーブ画面を開いたり、気に入ったシーンの前でセーブするためにイベントを巻き戻したりする必要がなくなり、快適に感じたくらいだ。
それほど自然に、これまでユーザーがやっていた「セーブ」という作業を消し去れたのは、セーブに求められる機能を先回りでフォローしているからである。たとえば、全てのイベントはMAPから頭出しできるし、選択肢までが長いイベントについては、「選択肢以外をスキップ」を導入することで、実質的に選択肢直前セーブの機能を代用している。ユーザーがどういう目的でセーブをするかを熟知していなければできないワザで、これは凄いことだと思う。
また、ルート分岐が見えているために、選択肢の組合せに悩んで余計な手間をかけなくて済むようになったことも、良いところだろう。ストレスが軽減されるし、なにより時間が短縮される。「きりのいいところ」がハッキリわかるため中断もしやすい。総じて、プレイアビリティがかなり高い。
これに対して、ADVに求められるゲーム性(選択肢の検討、総当たりなど)を失うという批判があるかもしれないが、別の形でゲーム性を確保していると、私は見る。
本作は単に一本道のすごろくではなく、ストーリーを一定のところまで進めたり、特定のバッドENDを見ることで手に入る情報やアイテムをもとに、分岐地点に戻ると新しいルートがひらける、といった仕掛けがある。個人的にはこれがそこそこ愉しめたのだが、RPGの「お使いイベント」のようなノリの往復作業を退屈と感じる人は多いかもしれない。だが、どのように評価するかはともかく、既存の選択肢システムを単純化してお終いではなく、別の要素を創意工夫して提出している点は評価しても良いのではないだろうか。
なお、一応戦闘システムもあるのだが、これについてはプレイのテンポが悪くなるだけで、褒めどころが見当たらなかった。無理やりほめるなら、臨場感が出ているとか……。
▼キャラクターに関して
キャラクターは、メインヒロインのクゥ、トオル、ソース、セキエイに、サブヒロインがちらほらという感じ。どれもキャラが立っている。最初はクゥ一択かなと思っていたのだが、イベントを重ねるにつれ、一生懸命な中に影を抱えたソースや、一途に主人公を思い続けるおっぱい……じゃなくて幼馴染みのトオルが可愛らしく見えてきた。ヤンデレ不思議系ドSのセキエイ様はちょっとハードル高すぎてついて行けなかったところはあるものの、嫌いなキャラというわけではないので無問題。
考え無しに周囲に迷惑をかけて尻ぬぐいをさせたり、やたら悪意をばらまくキャラがいないため、個人的に好感度が下がることが無かったのはありがたかった。
原則ハーレム志向。というかまともな男がエストくらい。ただし、サブヒロインには一部輪姦や精神的なNTRシーンはあり、気にする人は注意が必要。この辺りは、特定の層に媚びるというより幅広いニーズに対応するため「中庸」を取った感じがする。
主人公のエストはバカでスケベだけどイイ奴で、能力値も高い。ネガネガしいことを言わないムードメーカーとして機能しつつ、きちんとヒーローとして成長していく様子も描かれている。デキの良い三枚目キャラというのは基本的に受けがいいし、かっこいいところも見せてくれるのだから、ユーザーの「分身」としては申し分ないだろう。ユーザーを敵に回さない作りである。
ヒロイン四人の物語を全てEDまで見ることで世界の全貌が明らかになり、追加シナリオに入ってあるヒロインを攻略可能になるのだが、これはあくまでオマケ。余り期待しないほうが良い。一番の見せ場は、やはりクゥのシナリオのラスト。それまでとうってかわったシリアスな展開にはらはらさせられ、最後は少しほろっと来てしまった。
▼ストーリーに関して
内容面では、ギャグベースのコミカルな話にちょっとしたスパイスで「深い話」を混ぜるパターン。一番間口がひろい無難な作りだが、ありきたりな話には終わらず、ブランドのカラーをきちんと出しつつ、一般性の高い面白さを出すことに成功している。
本作のストーリーを引っ張る力は三つ。まず、クゥから課された「ドラゴンの試練」をエストがどのようにクリアーするかという問題。次に、エストとクゥがどうやって王位に返り咲くかという、対アルマ問題。最後に、今回の事件の影に見え隠れする、クゥたち霊王類とは何のために存在しているのかという世界そのものをめぐる問題。これらがどう解決するかという興味が物語の動因である。
それぞれが小目標、中目標、大目標という位置づけになるのだが、こういった複数の要素を混線させることなくまとめ、重層構造が作られているのが巧い。ひとつの事件がいくつもの意味を持ち、それが次のイベントにスムーズにつながっていくため、プレイ中飽きること無く物語を読み進めることができた。かつ、後になって振り返ると「ああ、そういう意味だったのか……」と、張り巡らされた伏線に気づく。盛りだくさんの要素を、ちっとも複雑に感じさせずに盛り込んで綺麗にまとめあげた手腕は、見事のひとことに尽きる。
また、ギャグベースの物語にシリアスな要素をミックスしているのが、思った以上に良い。効能は、なんといっても「細かい設定を気にせずに済む」ということ。本作はとにかく、背景設定にさまざまな要素を盛り込んでいる。「旧分明」や「神」の話などは複雑な奥行きを感じさせるし、実際目立った破綻が無かったということは、語られていない部分できちんと設定があるのだろう。
しかし、それらをいちいち説明していたのでは物語のテンポが落ちるし、なにより読む側にとって、覚えたり理解しなければならないことが増えてしまい、大変な負担になる。気楽に楽しむ作品として、それではふさわしくない。
そこで、多少強引な流れであっても「ギャグ」として力業で流す。こうすることで「まあ、そんなもんか」と気楽に読み進めることができ、心地良いテンポが生まれている。誰もが誰も複雑な世界設定や考察に興味があるわけではないし、むしろカジュアルに楽しみたい層のほうが多いだろうからこの選択はおそらく正解だし、想像力を広げたい人にも、手掛かりとなるパーツが丁寧にばらまかれている。いたれりつくせりの内容だ。
ただ、口で言うのは簡単でも、実際やるとなるとこれは非常に難しい。「どこを説明すれば最低限物語を把握できるか」を熟知していなければできないからだ。そのさじ加減を失敗して、説明不足を勢いでごまかす形になったものや、不要なことを何度も繰り返す作品は、いくつも思い浮かぶのではないだろうか。
いわゆる「過剰な語り」を控える傾向はキャラクターにも言える。ひとつひとつの行動やセリフをことさらに説明せず、ユーザーの読解力に任せる形がとられているのだ。つまり、キャラを操る「見えない糸」はほとんど見えない。そのため、物語のためにキャラが動かされている感じがほとんど無く、キャラクターが動いた跡を振り返ると物語になっている、といった趣がある。
こういう、その世界の中で息づいている登場「人物」たちを描いた作品――すなわち、ストーリーがなくてもその世界で彼らが生活している様子を思い浮かべられるような作品――というのは、やはり物語のひとつの理想形といえるのではないだろうか。
▼その他
全体を構成する基本的な要素(コンフィグ、CGやCV等)は必要にして十分。隙のない構えで老舗の貫禄を見せてくれる。特にグラフィック面ではメイン原画、八重樫南氏の絵柄の可愛らしさも手伝って、ポップながらもエロさのあふれる出来栄え。個人的な希望を言えば、サブタイトルからしてもうちょっとOPIを強調してほしかったのだが、それは戦乱でにゅうにゅうしてくれということか。
こうなったらいっそ、ハルカさんたちと半蔵学院の面々で戦うゲームを出してくれないかなぁ。
▼まとめ
文句なく良質なエンターテインメント作品。ただ欲を言えば、「これ」というポイントが欲しかった。全方向まんべんなくハイレベルなのだが、突出した要素も無い。
一言感想で「お買い得」と書いたが、コストパフォーマンスを問題にするということは、逆に言えば、いくらかけてでも是非やったほうが良い、とまでは言えない作品ということでもある。もちろんこれまでに述べてきた長所が色褪せるわけではないし、対費用効率は重要な要素なので軽く見るつもりは無いけれど、アリスというメーカーには、贅沢な希望と理解しつつ、それを突き抜けた絶対的な満足度を期待したい気持ちもある。