エロいし、楽しいし、言うこと無し。2011年度屈指のできを誇るADV。まだ配布されているアペンドパッチも素晴らしい。
主人公は、白鷺学園に進学した学園生。両親を失ったが叔父にひきとられ、気ままな引きこもり生活を送っていた。しかし春休み、その様子を見かねた叔父から「彼女をつくるか働くかしろ!」という恐るべき課題を突きつけられる。「ぼく」は女の子とまともに口を利いたことも、まして恋をしたこともない。そんな「ぼく」に、恋なんてできるのだろうか――。
「ぼく」と表記したのは、本作が主人公の名前を入力するタイプだから。ヒロインが名前を呼んでくれる「ラブリーコール」システムが本作のウリだ。某恋愛ADVや野球ゲームを思い出し、ハナで笑う人がいるかもしれない。しかし、侮るなかれ。実際に呼んでもらえば分かるが、恐ろしい破壊力である。自分の名前や昔のあだ名を、二次元の女の子が、可愛い声で呼んでくれる。私はまきいづみさんのファンなので、特にヤバかったのであります。
ベッドの上で尺取虫のように身体をくねらせて転げ回っても消えないむず痒さ。いい年こいたオッサンが転げ回る様子は傍から見たらただのブラクラだろうが、正気に戻ったら負け。楽しみたい人はここでテンションをあげて、一気に取りかかることをお薦めする。
ただし、残念ながら呼んでもらえる名前は登録済みのものに限る。登録の無い人は涙を呑んで諦めるしかない。私は幸いセーフ。これまで平凡な自分の名前を余り好ましく思っていなかったが、生まれて初めて名前を付けてくれた親に感謝した。ありがとう親父!
とこのように、人生に対する感謝の念も沸いてくる素晴らしいゲームである。
何やら名前に随分字数を使ってしまったが、気を取り直して行こう。内容はADV+育成SLG。懐かしのときメモ方式に近く、放課後の行動で主人公のステータスや所持アイテムが変化。それらに応じて発生イベントやHシーンが変化する。ただし、育成にかまけて女の子と逢わないと、独り身強制労働ED。
このゲームパートの難度が良く、少なくとも初回は色々スケジュールを考えながら行動をプラニングする面白さがあって飽きない。会話での「いま~にハマっている」のような台詞に応じて、アイテムを買いに行ったりするのも意外と楽しい。二周目以降は徐々に持ち越しが可能となり、さすがに最後は作業感が拭えない。が、それでも延々共通を周回するよりははるかにマシだろう。
キャラはどの娘も途中から主人公にベタ惚れ。なので不快感を感じることは少ないと思われる。唯々月たすく氏の絵柄もあって、かなり広い幅のユーザーを受け入れられるだろう。どうしてもこの属性、というのを求める人には辛いかもしれないが、OHPや紹介記事で気に入った娘がいれば、とりあえず特攻しても火傷しないレベルに仕上がっている。
ただ、本作ははっきり言って展開は退屈。ストーリーを楽しむタイプの作品ではない。「彼女」になった娘とのらぶらぶ会話とHを楽しむ作品だ。どの娘もハイレベルだが、個人的には後輩・犬吠埼綾ちゃんをプッシュしておきたい。これがまた、可愛いのだ。
はじめこそ敵意剥き出し。けれど仲良くなってからの主人公との波長の合いっぷりが半端ではない。食堂での会話は「魔斬り、巨人斬り、必中3回攻撃のダンクニルスピア+10を折った」話。遊園地に行けば「ほんの数分の楽しさのために何時間も待つとか、生命力(ライフポイント)の無駄」と言い切られ、しまいには外出もせずお互いの部屋に入り浸る。見よ、この余りにやる気のない毎日を。これぞ交際の理想型。
だいたい、恋愛ゲームで彼女と付き合い出すと、途端にはりきって、やれ遊園地だ買い物だとデートにでかける主人公が多い。しかし、頼まれたってしたくないヤツもこの世にはいる。普通のデートを楽しみたい人は他のヒロインと楽しめる(綾ちゃんも水族館とか行きます)から安心して頂きたいが、現実からの撤退戦の果てに辿り着く付き合いというのがあっても良いではないか。もとより主人公は、「ベッドに横たわって身じろぎ一つしない。以上、それだけ」という「死体ごっこ」なる遊びで時間を潰す、恐るべき強者なのだ。綾ちゃんとつきあうのが一番、無理している感がなく楽しめるのは自明の理である。
また、特筆すべき内容に、「アペンドライフ」の存在がある。公式HPで不定期に配信されているパッチで、各キャラの後日談としてシーズンにあわせたミニストーリーが追加されるのだ。もちろん、Hシーンつき、しかもフルボイス。2011年12月20日現在、7月~11月と5つのパッチが出ている。水着・浴衣・ハロゥイン衣装など描きおろしのグラフィックも充実しており、ボリュームはともかく実質ファンディスクの無料配布と言っても過言ではない。発売後何ヶ月もの間、修正パッチを配布し続けたメーカーというのはいくつか記憶にあるが、エロシーンありの追加ストーリー配信は、なかなかできない大盤振る舞いだ。
先に述べた通り、本作は「彼女」とのらぶらぶ生活を楽しむ作品。その意味から言えば、季節にあわせて恋人との生活を描くイベントを配信するというのは、内容とマッチした、作品の世界を拡げて長く楽しませるサービスだと言える。
これは作り手が作品のセールスポイントをきちんと意識して作っている証であるが、それだけではない。恐らく、スタッフがこの作品を好きで、楽しんでいるのだろうなということが伝わってくる。もちろん想像の域を出ないが、パッチ制作には手間も暇もかかる。まして、無料ではあるまい。嫌いならばこれほど長く作品を続けることはできないだろう。
私もものを作ることに携わった者として、「売る」ためには自分を抑えなくてはならないことも、きれい事だけではやっていけないことも、理解しているつもりだ。たとえばこうした文章にしても、伝えやすくするために、誰かの反感をかわないために、本当に言いたいことを包み隠して表現しなければならないことのほうが多い。しかしそれでも、理想としては、自分がやりたいことを楽しくやって、それで他の人も楽しんでくれたら、と思うわけである。そういうスタンスで作品を作ってくれるならば、私はメーカーの回し者と言われようともファンを続けたい。
本作をやって一番強く感じたのは、ユーザーへの配慮というのはやはり、作品の質が第一だということだ。最高のユーザーサービスというのは、豪華な特典でもアニメ化でもなく、少しでも深く長く楽しめる作品を届けてくれる、これに尽きるのではないだろうか。それは当たり前かもしれないが、だからこそ難しいことでもある。本作はその意味で、誠意溢れる良作だと思う。
基本点90点、ラブリーコール+2(名前なかったら2点引いてください)、演出+3、CG+3、アペンド+5、エロ+3、平坦-10、作業-2、キャラ偏り-5。