『マジ恋』の世界を更に拡張させようと試みた作品のように思われた。
本作は続編・またはファンディスクに相当する内容で、とりわけ紹介が必要とは思われないため、省略する。また、詳細な内容やキャラ個別の所感については、私の印象と同じようなことを述べており、しかも私などよりよほど愛と情熱に溢れた感想が数多くあるので、出張る必要も無いだろう。ここでは一言感想の通り、『マジ恋』の世界観という点に絞って、少し異なる観点からのレビューを試みたい。
小説には長編と短編、それぞれに合った書き方というのがあると、ものの本で読んだことがある。それによれば、長編はキャラクターを動かし世界を拡げていくほうが読者の興味が持続するし、短編ならば綿密に練り込んだ設定や言動によって閉じた世界を綺麗に完結させるほうが、読者に引き締まった印象を与え満足度が高いのだという。全てに妥当するわけではないにしろ、なるほどと思わされた。ゲームならばさしずめ、前者は世界を拡張するのに向いていて、後者は世界を掘り下げるのに向いている、といったところだろうか。
前作『マジ恋』は、いわば典型的な短編小説。練り込まれた構成とよく計算された会話のやりとりによって、完成された世界を提示していた。狭いからこそ濃密で完成度の高い集団でありえた、風間ファミリーのように。
上述したような世界はたとえば、作品の進行形式に典型的にあらわれている。『マジ恋』では、短い会話の連続で物語が進む。キャラの態度や発言はお互いに深く関連づけられており、その掛け合いの妙こそが、『マジ恋』の持ち味だったと言って良い。
裏を返せばそれは、あるキャラの発言ひとつを抜き出してみても、キャラが定まった全体像を結ばないということでもある。ウィットにとんだセリフをぽん、と抜き出したところで、面白さの半分も恐らくは伝わらない。流れの中におかれてこそはじめて、セリフが意味をもつ。キャラたちも同様である。彼らはそれぞれ非常に魅力的なのだが、お互いの関係の中におかれて初めて真の輝きを放つ。川神市という世界と、そこにある人間関係やネタの連鎖の中で役割を与えられたのが『マジ恋』のキャラであり、そこからキャラクター性だけを独立させることに、あまり意味はないのだ。
言うなれば『マジ恋』という作品においては、キャラが先にあって関係を作っているのではなく、関係が先にあって、そこからキャラが生みだされている。固まった世界の全体像が先にある。『マジ恋』という作品は閉鎖的に完成している。だから、その世界を掘り下げるのには向いていても、新しい要素を加えて拡げるのには向いていないのではないか。そんな印象を持っていた。『マジ恋』をそのまま発展させるなら、キャラ同士の繋がりをより密接に描いていくのだろう、と。しかし、「S」の発表によってその予想は裏切られることになる。
思うに『マジ恋S』という作品は、『マジ恋』の完成された世界をあえて、拡張しようという試みだったのではないだろうか。「だろうか」といささか自信なげなのは、私がアニメを視聴していないためで、それにもかかわらず大上段から言及するのはいささか不調法かとも考えたが、とりあえずお許し頂きたい。
さて、世界を拡張しようというのはどういうことか、少し具体的な説明が必要だろう。たとえば、大量投入された新キャラたちである。
彼らは一面では、あまり説明されていなかった九鬼財閥や川神の内情を補完的に説明する役割を担っているが、あきらかに異質な存在でもある。事実、燕や西日本勢・梁山泊をはじめとする顔ぶれは、強く「外側」を意識させる。
また、こちらのほうがむしろ重要だと思われるが、旧来のキャラと同じか、それを上回るほどの新キャラが投入されたことによって、大和たちの完成された人間関係に回収されるだけではない、新しい関係が次々と構築されていった。これが2、3人の新キャラだったなら、「お客さん」で済んでいたかもしれない。だが膨大なキャラの登場によって、これまでの関係がリセットとまではいかないまでも綻びを見せ、再構築を迫られた。その象徴の一つが、燕と百代の戦いの結末だ。
ただ、問題はそれがうまくいったかどうかにある。
正直なところ私は、試みは失敗に終わっているように見えた。原因は明らかで、『マジ恋』と同じ手法で世界を拡げようとしたからだ。一旦崩したキャラ同士の関係を、新キャラを交えて単純に倍の規模に膨らませようとしたのだが、その場合、難点が二つあった。
まず、キャラが増えすぎた。『マジ恋』ではかなりの数のキャラが所狭しと暴れ回っていたが、それで破綻せず完成度を誇れたのは、奇跡的なバランスだったと言っても良い。それが人数を倍に増やせば、そこから新たに出現する関係の糸の数は、倍では済まない。全てをフォローするのは不可能だし、そうなると関係に濃淡ができ、密度も下がる。
加えて、新キャラと旧キャラのスタート地点の違いも深刻だった。なにせ、旧キャラはかつて築いた濃密な「歴史」を背負っているのだ。対する新キャラは、今回がスタート。はじめから一緒に絡ませると、どうしてもその差が露骨に出てしまった。一言ぽろっと喋っても、準(ロリ)のセリフが背景を背負って腑に落ちるのに対し、義経らは「こいつはどんなキャラなんだろう」という、定着しないイメージを探る見方になってしまう。
そんなキャラ同士が絡み合うと、アンバランスさが浮き彫りになるのは自明の理。周回を重ねるごとにキャラのイメージがかたまり、次第に違和感は払拭されていったものの、その頃にはゲームが終わってしまう。ワンプレイで終わらず、何度も繰り返せば良いのかもしれないが、そこまでの元気はさすがに無い。
燕や紋白のように、丁寧に中味を描けていれば良かったが、他の面々に関してはほとんど「紹介」どまりで終わってしまった。世界はあるのに、キャラがぼやけたちぐはぐ感。比較的出番が多い脇役・長宗我部などを見れば解りやすいだろうか。キャラかぶり気味のガクトと対照させたとき、外見や童貞・非童貞など設定面での違いは言われているものの、本質的な違いを一言で言えるほど掘り下げられていない。つまり、ガクトと長宗我部との間を結ぶ線の輪郭が、はっきりしないまま、世界だけが広がってしまったため、何となくぼんやりした長宗我部像にしかならないのだ。
『マジ恋』時点であった楽しさ、駆け引きの妙などがなくなったとは思わない。ただ、新しく世界に入ってきたキャラたちとの間にある落差が、全体としてのパワーや統一感を失わせ、結果として良さをスポイルしてしまった感は否めなかった。新キャラの出番が多くなるほど、その印象は強くならざるを得ないだろう。
迷走した・見誤ったといえばそれまでだが、本作を駄作とする、あるいは単なる失敗作とすることに、私は賛成しない。
『マジ恋』のような作品が更に大きなスケールで描かれれば、きっと楽しい作品になる。またもし、違った形で世界が拡張されれば、これまで『マジ恋』を支えてきたものとは違う面白さが見つかるのではないかという期待も感じられた。何より、単純にこれまでの立場に安住するでなく、あえて果敢に大幅な変革に挑んだところが私的には評価が高い。
やや強引で比喩的な言い方になるが、上で述べた本作の世界観は、作中描かれる大和たちの関係とリンクしている。完成された、けれど閉鎖的な仲間意識で結ばれていた大和たち廃ビル組の関係は、美しく強固ではあるが、それは狭く内向きで、およそ発展しないものだった。そのことが前作、『マジ恋』では秘かな基調低音として流れていたように思う。今回モロが、「まあ昔の僕なら松永先輩の事死ねって思ったろうけど」と言っていたように、大和たちはかつてのコミュニティを、別の形に変化させていた。金曜集会も、昔ほど重たい意味を持たない。ただ仲間が集まるイベントとして、デートや学校行事と大差なく扱われる。そのことと、完成された『マジ恋』がその世界観を拡げようとした「挑戦」とを重ねて考えることは、無理な話ではないだろう。
以上を『マジ恋』の限界と見るか、可能性と見るか。人により判断が分かれるところである。ただ私としては、これを機に『マジ恋』の世界は更に拡がっていくのではないか、あるいはユーザー達自身の手で拡げやすくなったのではないか。そのような期待とも予感ともつかぬ感情を抱かせる内容であったと思う。
各所に差し挟まれた質の高いアニメーションをはじめ妥協の無い演出、声優陣の豪華な顔ぶれ(スタッフロールの出演メンバー数は何かのギャグかと思いました。映画もビックリ)、音楽やグラフィックの充実ぶりなどは頭ひとつ抜けている。掛け合いサービスや題字読み等細かい芸もサービス精神に溢れているし、業界内でも屈指のカスタマイズ度を誇る「戯画システム」(EDクレジット表記)の導入によって、システム面の快適さも著しく増していた。練り込まれた設定や丁寧な伏線(清楚ちゃんなど)も、ユーザーの興味を満足させるに足る内容だったと思う。
突出した魅力が欠けていると感じても、盛り上がりも笑いも熱さも、適度に提供してくれる。そしてエロはかなり力が入っている。結末はある程度早めに見切れるが、それも安心感があると考えれば、この手の作品にとっては一概にマイナスとも言えない。難しいことを考えずにすんなり楽しめて心地よく終われる、そんな作品だった。
基本点90点、音声・音楽を含む演出+10、システム+3、エロ+5、上述の統一感-10、バランス-5、キャラの描写不足-10、価格-5。FDか続編かを巡り、かまびすしい議論もあるようだが、私は問題を、作品の位置づけよりも価格に見合うだけの内容かどうかということに単純化して評価した。損をしたとは思わないが、期待度の高さを考えればやや割高だったかもしれない。
最後にひとこと。心さんすげーかわいいっす!!!! にょわにょわ!!!!!!!(心の叫び)
「いーやっほうロリ最高!」のポージングも素敵だったし、満足でした。しかし、ホントに胸ぺったんこですね。まあ、そこが良いんですが。