深みは無いもののスッキリまとまった気持ちの良い作品。多くの人にお勧めできる。
主人公・水野貴弘は、才能があり、誠実。完璧超人だが、一昔前のヒーローとの違いは、挫折を知っているから優しさもあるところだろうか。『ワルキューレ・ロマンツェ』は、そんな好感をもてる男が活躍するのを気持ちよく楽しむエンタメ作品だ。
貴弘は、馬上槍試合(ジョスト)の将来を嘱望されたジュニア騎士だったが、怪我で引退。騎士を支える補佐(ベグライター)としての道を歩むべく、ウインフォード学園の騎士科へと進む。学園で年に一度開かれる大会を目前に、貴弘は何人かの騎士から自分のベグライターになってほしいと勧誘を受ける。怪我をした過去の記憶を引きずりつつも、前に進もうと決めた貴弘は、パートナーとともに大会の優勝を目指すことになる。
タイトルやグラフィックからは騎士物語のような印象を受けるが、実際に行われるのは「ジョスト」というスポーツ。「騎士」は選手、「ベグライター」はコーチ、「騎士道」はスポーツマンシップ、と置き換えると良いだろう。要は、怪我で引退した選手が、将来有望な選手と出会ってコーチを引き受け、競技への情熱を取り戻していく物語である。
主人公が直接戦うのでなく、パートナーが戦うという構造になっているぶん、作中では貴弘とヒロインたちとの意思疎通や信頼関係こそが重要なテーマとなる。つまり、試合での活躍と恋愛関係とが連動し、展開がスッキリまとまるだけでなく、盛り上がる場面では相乗効果がでる。全体的に軽いノリというか、深刻な話はないので、恋愛要素に大きな盛り上がりには欠けるのだが、スポーツならではの熱い展開がそこをうまく補う形となっていた。
物語の軸は恋愛ともう一つ、信条面におかれている。たとえば師匠であるユリアーヌスは、勝利以外興味無いという徹底した結果主義。これに対して貴弘は、過程や内容にこそ意味があるという立場をとる。ここに、「最強」が良いか「最高」を目指すかという対立が発生する。他にも、ひとりが良いか、仲間がいる方が良いか。家の名誉をとるか、個人の満足をとるか、というように、各ルートで明快なイデオロギーの二項対立が描かれる。
そして貴弘は、おそらく誰もが納得するような、ヒーローらしい態度を貫いて「敵」と戦っていく。不屈の闘志と信念をもって逆境と戦う姿はまさに理想の「騎士」であり、多くのプレイヤーは爽快感と熱い興奮を覚えるだろう。この辺りの対立軸の置き方は巧みで嫌味が無く、感心させられる。
また、ジョスト大会という明確な目標が掲げられている恩恵で、物語のテンポが良いこともポイントが高い。まず、常に話が進展しているのでダレない。加えて、イベント同士の繋がりが明快で、イベントを描写する必要性が理解しやすいため、プレイヤーは安心して作品にうちこめる。
たとえば映画やアニメであれば、「何分でおわる」「何話で終わる」というのが見えているから、いま現在のイベントが全体の中でどのくらいの位置にあるか予想できる。何の為にいまのできごとを見ているかが分かるから、この先の展開を想像して期待したり、進展していることを意識して楽しんだりできるのだ。意味もない日常風景をダラダラと垂れ流されて、物語が進んでいるのか停まっているのかも分からない作品ほど苦痛なものはない。その点、本作は引き締まった出来になっている。
ただ、無駄を省きすぎたせいか、突っ込んだ描写には欠け、いささか物足りない場面もあった。たとえば、大会の決勝に残るメンバーがほとんど女性であること、男性を対戦相手にした場合のシミュレーションなどがないこと、主人公たちに指導者の影響がほとんど見られないこと……などである。
これらはなにも、作品中に直接描写する必要はない。だが、間接的にでも描かれていたほうが奥行きが出て良かった。現実ではあたりまえのことが、キチンと描写されないと、プレイヤーは不安を覚えるものである。シナリオライターの都合で構成されただけではない、整合性や統一感のある世界を感じることができればなお良かっただろう。
描写不足が最も顕著だったのが、キャラクターである。各キャラは非常にはっきりした個性を持っており、しかも丁寧に描かれているのだが、そうなると逆に「どうしてそういう性格になったのか」という背景が気になるものだ。カイルが育成を重視する理由、茜がジョストに打ち込む理由、ユリアーヌスが結果に拘る理由。そう言った、目に見える部分を支えるバックグラウンドはことごとく省かれてしまっていた。登場人物たちが皆、魅力的でありながら、どこか浮いている印象を私は受けたのだが、原因はおそらくこのあたりにあると思う。
そこから派生的な注文で、主人公の「敵」をもう少し掘り下げて欲しかったということがある。たとえば、結果主義の良さを具体的に書いたり、彼らが結果にこだわる理由を書いたり。これは意外に大事なことで、「敵」がショボければそれに本気で立ち向かっている主人公たちも相対的にショボく見えてしまう。主人公立ちの行動の説得力は、「敵」側の大きさによって左右される部分もある。
あともう一つだけ注文をつければ、綾子さん、ベルティーユ様、茜さんと、魅力的なサブキャラが揃っていたのに、軒並みスルーせざるを得ない悲しみの遣りどころとして、FDを作って頂きたいところ。
以上、少々物足りないところもあったが、前作と比較するとキャラ・シナリオともパワーアップし、総じて良くできた作品。また、絵は相変わらず非常に綺麗かつエロい。尿成分と尻成分がいささか多めだが、その辺を気にしないのであればエロ観点でも一級品で、高い満足を得られるだろう。純愛系でありながらエロにも力を入れるRicottaの、面目を躍如した作品である。