女性ファンが多いアリスソフトでも、とくに女性人気が高いであろう本作。さもありなん。これは女性にしか描けないし、真に共感できるのは女性だけだと思う。
「永遠をともに生きる」
たいていの物語はそこで締めくくられ、後日談や番外編があったとしても、比翼連理の2人は不変の愛を読者に見せつける。
しかし、そんなわけがないのだと本作は言う。心ある生きものならば、時の流れに抗うことはできないのだと。
初音と白銀も、きっと最初は仲睦まじかった。永遠を誓うほど。
次第に飽き、互いに関心を示さなくなり、どこで誰と戯れようとどうでもいい。
それなのに白銀がほかの女を孕ませ子孫を残す、それだけは許せなかった。
ここ! この部分がまさに女。
そもそも闘争本能の薄い女性が、長い長い間殺し合いを演じる理由としてこれ以上はないってくらい。
『片腕で拒み、片腕で抱きしめる』
この描写が初音と白銀の、複雑に見えて実に単純な関係を完璧に語っていると思う。
初音がかなこを、かつての自分と重ねて見ていたのは明白。
最後の最後でかなこを守りきった初音。
それによって、遠い昔に傷つけられた幼い自分をも救い、癒し、ようやく白銀の呪縛から解き放たれたのでしょう。
まーそんなこんなで初音は救われたけど、道々で巻き込まれた学生たちはとんだ貰い事故ですよ…。
ただ、本作が『ものすごく女性的な作品』(女性向けというわけではない)と考えれば、
彼らへの理性的なフォローがなかったのも頷けるような気がする。
女なんて理不尽なもんですよ。自分さえよけりゃいいのかと悪態つきたくなっちゃう。
でも決してそうじゃないんだよね。愛すると決めたらどこまでも一途で、時に自分すら犠牲にする。
初音もまた、自分の幸せや平穏を犠牲にしたようなもんです。
人でなし野郎などさっさと見切ればいいのに、愛して、憎んで、疲れ果てて、それでも白銀だけが生きる理由だなんて。
その深い情の前には、男の賢しらな理屈なんて何の意味もないように思える。
だから、これはただ初音というひとりの女に翻弄されるゲーム。
彼女の生き様を見守り、見送る物語。
サウンドノベルとしても素晴らしい出来。
『going on』への入りはエロゲ史上に残る名場面だろうし、
シーンが切り替わっても流れ続ける『Red tint』は耽美的で、獲物を捕らえるため張り巡らされていく蜘蛛の巣の情景が浮かぶ。
シナリオだけに頼らないゲーム作り、さすがは老舗アリスソフト。お見事。