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November13さんのきまぐれテンプテーション2 ゆうやみ廻奇譚の長文感想

ユーザー
November13
ゲーム
きまぐれテンプテーション2 ゆうやみ廻奇譚
ブランド
シルキーズプラスWASABI
得点
73
参照数
851

一言コメント

『ワタシメリーさんですけれどもっ!今からあなたのことぶっ殺しに――』

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

カモォオオオオオオン、メリーさぁあああああん!!
全裸で待っているぜぇえええ!!!
あぁああああああん!!おおおおぉおおおん!!
ハァハァ (*´Д`)
…心のカムイさんが漏れ出してしまったぜ……。

感想の前に注意があります。
まず、本作から始めるのはお勧めしないです。
話の繋がりがわかりづらいので、前作『きまぐれテンプテーション』は読了しましょう。
(この感想は「★前作の核心的ネタバレを含む★」ので、未プレイの方はバックしましょう)

◆前半:一般感想
 後半:長文好きな人用雑感&考察&妄想など


◇良かったところ
・文章が読みやすい
 癖が少なく、コミカルな部分もテンポ良くて〇
・作風
 読ませるホラー好き
 ジャンプスケアないので安心できる
・頑張っている歩サラさん
 ツッコミが良い。かなり気合入っている
・美麗なCG
 衣装チェンジ笑った
・最後まで読める物語
 終わり方は綺麗


◇気になったところ
・戦闘描写のエフェクトがダサすぎる
 刀う~んって感じ
・演出力の低下
 前作が良すぎただけかも
 ホラー作品としての品質は下がった
・フリーHモードの作業感
 いや、好感度フラグかと思って頑張ったんだけど真相はわからぬ。
 物語のテンポが損なわれるので、正直どうかなって感じ
・前作、および過去作の人物&設定に引っ張られすぎ
 要素ぐらいに留めて欲しかった
・アンネ以外とパコパコできない
 いや、しょうがないんだけどさ……
・true分岐がちょっとわかりずらかった
 何が足りないのかわからなくて最初からやった

Score criteria
Character charm     : 4/5
Acting voice actor     : 5/5
Music sound related    : 7/10
Graphic related      : 10/10
The fun of the story    : 14/20
Stage composition and text : 14/20
Game nature       :  5/15
Erotic scene practicality  : 4/5
System comfort      : 3/5
+α(Satisfaction)    : 7/10
Total : 73/100

総評:頑張っていたとは思うが、前作よりは余韻含めパワーダウンしている印象を受けた。
   (劣化という印象ではなく構築が難しかったんじゃないかなって感じ。詳しくは後述)
   最後まできれいに読める作品は希少なので、前作が好きな人は買い。
   ホラーADVが好きなので、表では「エクスペリエンス」
   裏では「シルキーズプラスWASABI」には今後とも頑張ってほしい。
   これからも買い続けます。
   最後に……
   みりあ役の手塚りょうこさんの声がめっちゃ好き。
   めっちゃ好き。



以下、人を選ぶ感想など



















































制作陣の「続編をつくる難しさ(※1)」や苦悩が所々感じられました(笑)
前作は、アンネという魅力的なヒロインのパワーで牽引するキャラゲー……に見せかけた
所謂シナリオゲー(=純粋な物語の面白さで読者を結末まで牽引する力のある作品)
寄りの構成でした。
本作は読者の思考する要素が削減され、アンネありき(刀や特殊能力を含む)の
キャラゲー路線になりましたね。
そこが結構残念。
個人的には登場人物達を一新して、前作キャラはスポット的な参戦に留めた方が
おさまりが良かったのかなと感じました。

(※1)解説
1.続投主人公(+ヒロイン)なのでの動かし方が限定される
  →前作の登場人物の関係性から、回想シーンはアンネリーゼ固定となる
   前作での「初対面からの関係性の変化」という強力なシナリオバフが失われ、
   悪く言えば新鮮さが失われてエロシーンがややマンネリ化している。
   ……私は声だけのメリーさんに絵付きでエッチないたずらがしたかったです。(うるせぇ)
  →行動や思考の方向性が基本的には前作準拠に縛られる
   良くも悪くも、主人公である巽 悠久くんにとってはアンネリーゼが全てです。
   それは前作の結末や本作の描写からも明らかです。
   その時点で、事件の全容を知りたい我々読者の欲求と彼の目的には乖離があります。
   ぶっちゃけ彼は事件を解決しなくても良いのです。
   アンネリーゼと平穏な日常を過ごせればそれでよい。
   事件の解決は目的ではなく、彼にとってはその後の生活の為の手段にすぎないということです。
   手段を目的にすり替えるにはそれなりの動機が必要なのです。

2.動機付けの難しさ
  作品の一作目は、主人公とその周りの人物を筋道にした王道の構成を取れるのに対して、
  初期構想にない続編を作る場合、どうしても動機付けが弱くなります。
  有名どころだと『JUDGE EYES』の八神くんなんかが例に挙がります。
  続編の某被害者への執着があまりにも強すぎて、人物像に違和感が出てしまう。
  (=前作の状況の方が余裕がないにも関わらず、続編の方が八神くんの思考や視野が狭い)
  私は新谷先生が好きだったんで、たまには先輩を思い出してあげてほしいです(笑)
  話が逸れたので戻します。
  本作の場合、 主人公である悠久くんと美代ちゃん&千代ちゃんとの直接的な関係性が薄いので、
  どうしても物語を追う熱量に馬力が足りません。
  時間を割くべきはアンネリーゼとの回想シーンではなく(少なすぎてもダメだけどw)、
  キーパーソンである美代ちゃんとの交流だったと思います。
  自分をある程度犠牲にしてでも、救いたいor真相にたどり着きたいという熱量。
  (『死噛 〜シビトマギレ〜』の主人公のバランス感覚なんかは絶妙でした)
  でも前提条件としてアンネリーゼが全ての悠久くんの性格、もっと言えば
  オンリーワンヒロイン作品の続編とは相性が最悪なんですよね。
  他の女の子と容易にセックスできないから(笑)、情愛に訴えかけて誘導することもできない。
  うーん、縛り条件難しい。


◆読者(私)の期待と本作のコンセプトのズレ
  そもそも1作目自体のジャンルは「陰陽師が可愛い悪魔に誘惑されるADV」であり、
  公式では一度もホラー要素を公言していませんでした。
  実際には、直前まで情報を秘匿することによって面白さを内包し、
  ホラー系作品の一つの魅力を示したのが前作『きまぐれテンプテーション』でした。
  本作はどうか。
  「美少女悪魔と事件調査ADV」
  うん。
  ぶっちゃけホラー要素薄くても公式的には問題(嘘)はないな。
  でも前作いい感じにその要素でファンを獲得したのだから、
  ジャンルを盾に演出をサボらないで欲しかった。
  前作の、状況と共に変化するマンションの状態(黒かびやお目目等の視覚効果)や
  不意打ちでのインターフォン音など、一つ一つの凄く丁寧な仕事ぶりに
  本当に凄いなこの作品!と大きく感心したんだから。
  制作側から見れば、一つの物語として纏まっていれば大きな問題ではないのだろうけど、
  読者側(主に私)からは、このあたりの演出力が縮小されているのにも関わらず、
  立ち絵のEmoteばっかり強調されていたことは少々残念に感じられました。
  
◆その他、気になった点
 ・主人公側に怪異不可侵のセーフハウスがあることによる安心感(緊張感の無さ)
  →怪異側がめっちゃ弱く見える&巽アンネに余裕がありすぎて事件全体のスケール感が萎む
  (『NG』のかくやはいうに及ばず、うらしま女よりも弱そう)
   前作の、時間経過に対する状況変化の演出が抜群だったから余計に気になる
 ・『なないろリンカネーション』の正史と確実に繋がらない=補完の無いIF設定を
  本作の中核に安易に繋げてしまったところ
  (〇〇〇〇〇〇の天秤があるわけじゃねーんだぞ!?)
  →『なないろリンカネーション』が好きな人ほど戸惑う+思うところがある
 ・理ではなく力で解決してしまうところ
  人の念ってそんな単純なものではないでしょ
  前作の良さがかなり削られてしまった印象を受けました

◆最後に
 発売から7年以上たった今でも、「シルキーズプラスWASABI」が手掛けた
 『あけいろ怪奇譚』は表裏含めて最高のADVの一つだと思っています。
 その兄弟分である『きまテン』シリーズが、より良く発展していくことに期待しています。