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Noiseさんの鎖 -クサリ-の長文感想

ユーザー
Noise
ゲーム
鎖 -クサリ-
ブランド
Leaf
得点
83
参照数
1846

一言コメント

公海上の人間ドラマ

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品で一番大事なのは登場人物の心理や性格です。
屈辱シーンやサスペンス的な舞台などは二の次です。
これを捉えていないと、キャラの行動や言動に怒りを覚え理解が出来ません。
これから、登場人物の心理や性格について自分の思ったことを書いていきたいと思います。


基本情報としてはヒロインたちは主人公に好意を持っています。
しかし、主人公の思ったとおりには動いてくれません。ヒロインの心にしたがって動きます。
人の暗い部分、弱い部分というものがよくでています。
屈辱シーンもあります。寝取られもあります。
エンディングもハッピーエンドとはいえない怖さがあります。
こういうのが嫌いな人は回避してください。




(以下、ネタバレ)
主人公:香月恭介
基本は、へタレです。しかし、危機的状況にあって「こいつらを守るんだ!」という気持ちが芽生え立ち上がります。
時々、危機感がありません。それは、自分の恐怖心というものを隠すため、自分を保つため、ヒロインたちを思うが故に緊張感の無い発言をしているのでしょう。
へタレとはいっても高スペックで、知識が豊富であったり、頭が良く回ります。(こいつは何歳なんだ?)
ダメって人が多いですが、恐怖心に負けず、ヒロインたちに振り回されながらも、岸田と対抗し続けた強い奴で自分は好きな主人公ですね。
ただ、√によっては怖い人と化しますが・・・

友人:早間友則
危機的な状況にあって、主人公とは逆に「俺だけ助かればいいんだ」のような自己中心的な考えを持っています。
時には岸田に、時には主人公たちに取り繕います。
その中で自分の欲望というものに忠実でヒロインたちを犯したり、調子のいいことを言ったり、主人公に噛み付いたりします。
非常に最悪で最低な奴ですが、ある意味、人間らしいといえます。

悪役:岸田洋一
このゲームの大半はこの人で出来ています。キャラが素晴らしいです。悪役の悪役です。
ある事件をきっかけに壊れてしまったのか?自我が出てきたのかはわかりませんが、ある意味不遇の人です。
自分の命は大切にしていますが人を甚振るのが好きなため主人公たちを即座に殺そうとはしません(殺さなかったのは孤独というものを嫌ったため?)
心理攻撃が非常に巧みで人の弱みに付け込むのがうまいです。
自分がプレイした中で精神攻撃に限れば右に出る人はいません。

ヒロイン:折原明乃
よくいえば天然、悪く言えばKY。緊張感の無い発言や行動はこれが影響しています。
また、一人では何も決められない、優柔不断な所があります。
しかし、主人公を思う気持ちは強く、心の黒さもあります。
明乃√の最後で親友の恵に放つ一言はそういう彼女を象徴しています。
11eyesのゆかに似ている所があります。

ヒロイン:片桐恵
一言で表すと策士ですね。
岸田に脅されて自分が生き残るために様々な策をめぐらせます。
一番、この舞台というものに翻弄されるとてもかわいそうなヒロインです。
とても強い心を持っているのではないかと思います。
√も複数あって、どれも良かったです。自分は一番このキャラが好きですね。

ヒロイン:香月ちはや
物語を見るに彼女は実妹なのでしょう。そして、兄である恭介が大好きです。
他のヒロインとは比べ物にならないくらい主人公のために行動します。
社会では実妹とはそういう関係になってはいけないということになっています。
それで一歩引くのですが、ちはや√ではこの陸の常識が通用しない危機的な状況を裏手にとります。最後のエンディングは非常に怖かった。

ヒロイン:綾之部可憐
基本設定はタカビーなお嬢様です。
危機的な場面でKYで状況をうまく把握できていないのはそういう温室育ちの所があるのでしょう。
しかし、心に背負った闇は深く、家というものに縛られています。
妹の珠美を大事にしています。

ヒロイン:綾之部珠美
思いやりがあり周りの人を大事にしています。
場所をわきまえない発言や行動をするのは、何とか明るくしようとする彼女なりの努力です。
頭も良いので主人公の役に立ちます。(的外れなときもあるが)
しかし、姉のことになると見境がない行動をとってしまいます。
彼女はこのヒロインの中で一番心が綺麗で優しい人なのでしょう。


実際、自分も1√終わった時点では危機感のない所やキャラのウザさが際立ちあまり評価が出来ませんでしたが、それ以降の√ではキャラの心情が分かってきて、非常に深い人間ドラマに見えました。
ヒロインや友人が謎を深くしていて、サスペンスとしてもそこそこ楽しめました。
また、こういう舞台を使い、人の弱さ、汚さを表現したのは良かったと思いました。
しかし、屈辱があまり好きではなく、色々な場面で強くおしすぎな感があったため70点台後半としました。
この作品の主役は主人公だけではなく、ヒロインや友人。そして、岸田さんだったんだなぁとおもいました。
そういう意味では屈辱目当てやサスペンス目当てではなく人間ドラマとして買ってほしいなぁと思います。

最後に、このキャラたちを使って普通のエロゲを作ったのであれば、こういう弱さや汚さは出なかったのだと思います。なので、この作品は成功だったのではないでしょうか。ただ、登場人物が不遇すぎるためそういう普通の作品も見たかったと思います。