ErogameScape -エロゲー批評空間-

Niflさんのタペストリー -you will meet yourself-の長文感想

ユーザー
Nifl
ゲーム
タペストリー -you will meet yourself-
ブランド
light
得点
70
参照数
1161

一言コメント

原画とこなたよりかなたまでに似た設定に惹かれたが、死生観というものを扱う割には序盤のノリが軽すぎる。とても余命半年と宣告された人間には見えない。まだ終わっていないので得点は暫定。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

以下序盤の感想はかなりネガティブに書いたが、ドタバタを中心としたキャラゲーとして見るとそれぞれのキャラがそれなりに立っているし、(好みは分かれるだろうが)魅力的なヒロインがいる。序盤から重い物語を期待していた自分としては残念だったが、後半の鬱展開は期待したい。
キャラ絵・イベント絵・背景・声優は高レベルで、画面の拡大縮小も行われるためマブラヴオルタネイティブほどではないが動きのある作品。ただ漫画の吹き出しのようなテキスト表示システムは慣れるまで本当に読みにくい。従来の表示形式を選択できないためどうにも某Office2007のように使いにくかった。

以下「こなたよりかなたまで」「そして明日の世界より――」のネタバレがわずかに混じります。プレイに支障はないと思いますが、ご注意ください。こなかなはプレイしたのがだいぶ前でかなり美化されてるかもしれません。間違いがあったらごめんなさい。

およそ半年後に死ぬという事実を突き付けられた人間の反応として、序盤の主人公吾妻はじめの行動に共感できる人間は少ないのではないだろうか。本作では自らが不治の病に侵されていることを知る前の彼が描かれていないため直接比較はできないが、少なくとも予後の彼は一般的な無気力状態や混乱状態、あるいは棄て鉢になっていない。運命を嘆き体を恨むこともしない。たとえ病の症状が表れていなくても、宣告を受けた時点で普通なら悩み苦しむものだろう。たとえば遥彼方は自らの死を達観し受け入れた雰囲気を纏っていたが、そうなる前の彼は自らの体を恨んでいた。葦野昴は小惑星の衝突という信じられない事態に対して始めは信じようとしなかった。けれどそれが事実だと知り、今度は無気力状態に陥った。本作ではこの描写が弱い。あるいは無い。
葦野昴が破滅を信じなかったように、吾妻はじめも自分の病をあまり信じている様子はなかった。けれど二人は自らの死を自覚してからが違う。吾妻はじめは自覚症状が出始めてからも大きな葛藤を抱えることなく学生生活を送ってしまう。死生観をメインにおいたストーリーではこれは大きな欠点だと自分は思う。

突然死の病を宣告されるといったストーリーで、最初に日常風景を見せる手法はこなたよりかなたまでと共通している。しかしその後の突き落としが弱いため、主人公が本当に死の病に蝕まれているという実感が得られない。これは主人公が病に侵されていることを理性でなんとなく分かっていても、それを感情で否定している状態とプレイヤーをシンクロさせるが、反面日常のなにげないシーンを尊いものとして見せる効果が弱くなる。序盤に闘病シーンを挟んだこなたよりかなたまでは、以後の日常シーンもサクサク読み進められたが、本作は逆に序盤の日常シーンが苦痛に感じられた。死生観というテーマを扱うにしてはギャグシーンが多すぎるのではないだろうか。

主人公の精神年齢が低いことや、物忘れが激しいこと、何につけてもやる気がないことなどはマイナス要因だと感じる。吾妻はじめは病を深刻に受け止めることなく「誤診じゃないか?」「嘘だろ?」と悩まない。中盤あたりで稀に見せる寂しげな雰囲気はよかったが、本当に稀にしか見られなかったのが残念。寝る前にベッドの中で悶々と悩むなどの葛藤に期待していたので物足りなかった。また両親の様子から主人公の病の深刻さを全く感じられないことがダメ。徐盤のアクセントとして用いるのならヒロインより両親を使うべきだったのではないかと思う。

とにかく主人公の行動に納得できないため、序盤が苦痛になる。特に手芸部の企画を提出するイベントでの物忘れはひどい。企画を考える段階でのやる気のなさも嫌になる。中盤以降病の症状が出始め、主人公が自分の死を見つめるようになってからは真面目なシーンは格段に良くなる。しかし手芸部関係のシーンでは相変わらずの日常が続き、イライラするシーンもちらほら見られた。死生観を扱うもので、常識的にありえない行動を自らの死期を知る主人公にとらせるのは間違いではないだろうかと思う。