ことばでは つたえきれない めいさくだ
■緒言
世間から完全に隔離された女学院。そこに主人公滝沢司が新任教師として赴任するところから始まる。一癖も二癖もあるお嬢様達との生活の中で、司は何を思うのか。
特徴としては個別が共通に比べ遥かに長くなっています。
また、本校側(みやび、殿子、梓乃)のキャラと分校側(栖香、美綺、邑那)のキャラのシナリオを書くライターが異なり、その差異が非常に大きいです。それは主人公は性格だったり、Hシーン(本校は各キャラ一回、梓乃のみ二回、分校側が圧倒的に多い)だったり、物語のスケールだったりします。
■主人公
あまりにもキャラが違うので本校と分校で分けて書きます。
共通していること
本校、分校の主人公にも共通している点はいくつかあります。それは「人を見捨てない」「家族の大切さ」「裏切らない」といったピースです。どのルートにおいても主人公の根幹はこの三点でできており、あとはそれにライターごとに肉付けがされていると言えます。
本校主人公
ライターが健速さんなのですが、やはりこの人の書く主人公は素敵です。自らの意志で行動し、それにより結果を出す人間で、誰かを助けるためにできることなら何でもやるタイプです。
分校主人公
普通の人。特に特徴もなく、やっていることも空回りしている。特に邑那ルートの彼はあまりにも空しい役回りだった。でもこのルートの最後の言葉が分校ルート共通して主人公が普通で、空回りするよう描かれていた理由がわかる。それは邑那ルートで。
■風祭 みやび
みやびの秘書の立場に強引に収まりみやびと学園の生徒や従業員との間の軋轢を解消しようと奔走します。一番の見せ場はみやびが、主人公が秘書の立ち場になった理由を知った時、良かったです。それ以降のみやびのデレは強烈だった。
■鷹月 殿子
自分を理解してくれた主人公に興味を持ち、飛行機制作を通して距離を詰めていく。いわゆるクーデレという感じなのか。クールというよりはポヤポヤして何を考えているか分からないと言った方がいいかも。
■八乙女 梓乃
対人恐怖症。最初から途中まで主人公を只管憎んでいた。でもある事件がきっかけでその憎んでいた強烈な意識が好きという方向にシフトしてそれからは自分から主人公に接触してくるようになる。このルートとみやびルートが最も主人公の歪みを表に出したルートだった。
「生きろ梓乃ッ!!おまえが掴んでいるのは僕の手なんかじゃないっ!!お前の人生なんだぞっ!!」
「貴方が掴んでいるのはわたくしの手なんかじゃない!貴方の、貴方の人生なんですよ?!」
この台詞は別々のシーンで言われたものですが、この場面は涙が出そうになりました。
みやびも好きだったけど個人的には梓乃が一番成長したし魅力的になったかな。キャラもルートもこのゲームで一番好き。あ、殿子ももちろん好きですよ。
■仁礼 栖香
シリアナード・レイさんです。
物語について特に言うことはありません。だって美綺ルートで中盤には解決される程度の問題だったし。
でも栖香は可愛いです。これは確か。
■相沢 美綺
栖香曰く「自分のアンチテーゼ」であるみさきちです。やかましいキャラかと思いきや、空気を読んだり他人の心の機微に敏感です。
シナリオは・・・先に言ったように栖香の問題が途中で解決されます。ですが何と言うかシナリオ全体に面白みがない感じがしました。冒険とかいろいろあったんだけどなぁ。
■榛葉 邑那
え、キャラについて言うこと?無いです。
このルートは終盤主人公のこの言葉に集約されると思います。
ああ、そうさ。僕は場違いさ。おそらく僕がいなければ、このまま舞台の幕は下り、それなりに全てがうまくいくのだろう。
もしかしたら、僕なんかいなくてもいいのかもしれない。
僕がいなくたって、邑那と燕玲は全く同じ計略を立てて、同じように成功してたかも知れない。
だけど、僕はここにいる。
これが分校ルートで主人公が普通の空回り教師になってしまった理由かと。これは分校ルートは主人公がいなくてもだいたいがうまくいくと言っており、それは分校3人のルートでの主人公の立ち位置からしても納得できます。だけどこの邑那ルートの最後、邑那が言えなかった言葉を主人公が言うことで源八郎と邑那が本当の意味で救われたと思います。それは、だいたいがうまくいったではなく、本当の意味でうまくいった証明あり、これが分校サイドにおける主人公の存在意義ではないかと考えます。
■主人公の欠陥についての考察
主人公の欠陥とは、愛して、そして裏切られることを恐れるあまり、本気で愛することができない、ということ。
これは本校ルートで大きく取り上げられており、分校ルートでは殆ど取り上げられない。
まず本校と分校のシナリオでは始めに言ったようにスケールが違います。本校が凰華女学院を一つの世界として必要な人物などを除き極力外部からの干渉を無くしています。これにより本校は主人公がヒロインの心の問題に対して向き合うというストーリーになります。対して分校は財閥の争いから分かるように、外部からの影響が強く、ヒロインの心の問題はその向こうにある外部からの影響との戦いへ続く上でのプロセスとしてあるに過ぎないと考えています。だから本校ではヒロインの心の問題を解決した時、そこに深く入り込みすぎた故に相手からの愛するという好意を感じとってしまい、みやびとは秘書、殿子とは父親、梓乃とは対人恐怖症に協力する教師という立場に無理やりいようとすることで、心の欠陥が浮き彫りになると思われます。
かわって分校では、ヒロインの心の問題が外部からの影響との戦いへと続く上でのプロセスと書きました。だから必要以上に入り込みすぎないし、その後に外部からの問題を解決しなければならないので主人公、ヒロインの意志がそちらに向いたために問題とされなかった、と考えています。しかし美綺は物語の終盤で自分から主人公の歪みに気付いて治してしまいました。面白いのが栖香との対比で、彼女は美綺と姉妹ではありますが、その有り方は正反対でした。美綺がやかましいだけのキャラかと思いきや、周囲の空気や人間の機微に鋭いのに対して、栖香は真面目な優等生に見えますが、その実周りをよく見ていないこと。そして美綺が主人公の心の欠陥を最後に分かったのに対して、栖香は最後まで気付きませんでした。彼女はおそらくこれからもそれに気付くことはないかもしれません。それは彼女がシナリオ中13話で主人公へ向けた言葉は、愛しているというよりは隷属しているといっても差し支えない言葉だったからです。おそらくあの時に主人公は無意識に思ったのでしょう。彼女には自分だけしかいないのかもしれない、なら僕は彼女を見捨てない、僕は彼女を「受け入れる」と。それは愛ではないと思います。愛ではないからこそ主人公も受け入れることができたと考えています。結局あのエンド以降でも彼女は気付かないかもしれませんし、まぁ気付くかもしれません。でも結局気付かなければそれはそれで幸せではあると思いますので、主人公の言葉でいえば「それなりにうまくいった」んじゃないでしょうか。
とまぁ多分に自己流の勝手な解釈が入ってますので、それは違うだろコラッなんて人は必ず出てくると思います。
■結論
数あるゲームのなかでもトップクラスのモノだと思います。ほとんどのキャラが魅力的で、長い個別ルートで十分に楽しめますのでとりあえずやってみる、という感じでもやってみればもっと先が読みたくなると思います。個人的には本校ルートを推します。それは本校ルートの方が余計なものの介入がなく、基本主人公とヒロインを中心に話が進むので理解しやすいこと。ヒロイン側の視点を挟むことでヒロインの気持ちがわかり、より魅力的に感じること。主人公とヒロインの関係が徐々に変化していくのを見るのが楽しいこと。その性格から、主に主人公が物語を引っ張っていくこと。以上が挙げられます。もちろん分校の話も面白かったですし魅力的なキャラもいました(栖香とか栖香とか栖香)。分校側は3人それぞれの問題が結局のところ一つに集約されていますので、色々な視点で物語を見ると言う意味でかなり深い内容でしたが、エロが多発したせいかシナリオ全体に面白みが欠けたように思いました。
どちらにも長所があり短所がありますが、良く言えば大抵どちらかは好みの話になるだろうと思います。本校側は主にヒロインの心の問題を扱うため、必然的にヒロインの魅力なんかもこちらに伝わってきやすい。だが学園という閉鎖空間を舞台に進むのでシナリオ的には小じんまりした印象が強い、それを良しと取るかどうかですが。分校側は財閥の争いという大きな障害(?)に立ち向かうのでスケールが大きい。だが逆にヒロインの心の問題は無い、又は大きく扱われず、あくまで財閥の争いに立ち向かう際に付随するモノというレベルのため、当然ヒロイン自身の心に踏み込んだ会話は無くなりその魅力が伝わりづらくなったように感じた。