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Niccolumさんのキッキングホース★ラプソディの長文感想

ユーザー
Niccolum
ゲーム
キッキングホース★ラプソディ
ブランド
ALcotハニカム
得点
90
参照数
1534

一言コメント

主人公と他の女性キャラとの距離感が自然でキャラを取り巻く雰囲気が非常に心地良い。そしてとにかくいちゃラブが・・・間違えた、いちゅラブが素晴らしいのだ!!

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■緒言
キッキングホース・ラプソディなるバイト先で恋人達の応援をしている主人公、志乃、のばらが、バイトを通してお互いの、また対抗する軍団(聖)との仲を深めたりする話。ルート的には一本ののばらシナリオがあって、選択肢で途中から分岐して他ヒロインルートに入るシステム。なので志乃のときは邪魔者はいません。聖のときは志乃が主人公のことを好きな状態ですので若干関わってきますがほとんど気になりません。最後ののばらルートでは志乃、聖が主人公に好意をもっており、積極的に邪魔、というか絡んできます。

空気が読める主人公で、男1人で女が4人ということでただのドタバタラブコメかと思いきや、付き合いがとてもリアルというか自然で、男女の距離感が読んでいて非常に心地良い。最近のゲームにありがちな理不尽な暴力を振るう女や中身の伴わないドタバタ劇場など存在しない。こんな雰囲気を書けるライターさんがもっと増えてくれればなぁと切に願います。

恋愛を応援するバイトとか、逆に恋愛を邪魔する軍団とか、そんな若干馬鹿らしい集団に拒否感でなければ楽しめるはず。

時間は、志乃は最初からクリアまで。その他は途中の分岐選択肢におけるセーブポイントからクリアまでの時間となっています。

■主人公 吉居 草太
非常に空気が読めるキャラで、女性キャラとの距離感が良い。また最近の主人公に多い鈍感なキャラではなく、きちんと相手の気持ちを察することのできる主人公でした。お母さんを大事にするって素晴らしいことです。

お母さんの立ち絵が無く、それほど出番も多くなかったのが残念。


■辻 志乃(3.5時間)
お姉さんぶって皆を振り回したり主導権を握ったりしようとするんですが、初Hしてからは逆に本来の受け手にまわり、これが非常に可愛らしかったです。
主人公に構ってもらいたがる彼女は共通の彼女とのギャップもあって破壊力がハンパなかった。

テーマは「恋愛と友情の両立」です。シナリオ自体それほど長くないので割りとあっさりな感じでした。


■芹摘 聖(2.5時間)
共通では一見お堅い印象を持つも根は純粋で流されやすい性格といえるのですが、恋人になった彼女は志乃とは違った意味で破壊力抜群でしたね。志乃が相手についていく受けタイプであるのに対し、聖は相手に尽くしまくるタイプでした。

テーマは「普通であることと特別であること」な感じでした。あらゆることに自分が普通であることを卑下していた彼女が主人公の「特別」となり、それを通じて普通のことでも特別となりうるみたいなことを考える、まぁ普通と特別の境界なんてあいまいなものだったということ・・・なのかなぁ。正直そこまでのテーマ性は感じられませんでしたが。

エンドはなんかさらっと終わりました。正直聖の可愛さが堪能できたので終わりなんてあまり気にしてはいなかったんですが、でも聖の兄を含めた家庭環境とか、あそこまで自身が普通であることを卑下していることからもっと話を膨らませることは可能だったようにも思います。まぁたぶんその話をやると非常に話が重くなるので無くてよかったとも思えますが。


■織奈 のばら(2時間)
現実主義の貧乏少女(ネタではなく本気で)。唯一主人公と対等な関係を築いており、付き合ってからも与え、与えられのような感じなので一番恋愛をしているなぁと感じました。付き合うとデレデレになるんだけれども、それでも自分という確固とした個をもっている彼女は非常に好ましかったです。

邪魔者を蹴り飛ばすほうだったお仲間も、妬いたら途端に邪魔者に!

という言葉を最も体現しているルートであり、「恋愛によって変わる関係、変わらない関係」がテーマでもあったかと思います。まぁ最後らへんまでお邪魔(というか付き合っている二人が好きなんだけど、素直に祝福することができない態度)を続けるわけですが、最後はやっぱり皆仲良くハッピーエンドでした。

ベッドで横になっているCGが割りと好きだったり。

あと妹、弟の出番増やして欲しかったかなぁと。

■槇之園 出穂(非攻略対象)
作中では事あるごとに「いやな女」と言われている彼女ですが、プレイしている側からすればからかうけれども時にアドバイスをくれるおねーさんで、魅力的なキャラであったと思います。

彼女はかなり謎なキャラでした。というのも、のばらルート終了後に彼女の独白があるのですが、彼女はその中で


みんながうらやましい。

その恋が初めて自分にはうらやましく思えた。

皆が、皆を好きで、そんな4人が自分は好きで

だからあの子たちみたいに自分もそうなろう

家に帰ろう、今ならきっと、ああいう風に笑える


のようなことを言っています。そしてそのまま仲良く4人で歩く皆から一人反対側へ歩いていく感じでタイトル画面に戻ります。かなり意味深でした。実のところ彼女のバックグラウンドは作中ではほとんど何も触れていないので推測しかできないんですけどね。家に帰ろう、今ならああいう風に笑える、ということから彼女が家庭では本当に笑うことのできない何らかの問題を抱えているのではと思いますが、それが原因で恋愛に対して冷めた価値観しか持てなくなっていた。だからこそ、恋愛なんて・・・という思いからキッキングホース・ラプソディなるものを立ち上げて、他人の恋愛を観察することで自分の冷めた価値観の肯定、またはそこに何かを見出したかったのではないかと思います。唯一、彼女の家が金持ちであることを示す描写が聖のルートにありましたが、まぁありがちな親同士の不仲でギスギスした笑みの無い家庭だったことから、結婚、そして其れに至る恋愛に対して否定的な考えをもってしまって、最後みんなを見てもう一度親と向き合ってみようと思えた。という感じを一人妄想してました。妄想ですので真実は欠片もありませんのでご注意を。

■結論
非常にキャラが魅力的でした。付き合ってからの彼女達は三者とも非常に可愛らしく、恋愛っていいなぁと素直に思える作品だったかと思います。また、最初にも述べましたが、主人公が空気の読めるキャラであるためか、女性キャラとの距離感が自然で心地良かったです。私的にはトップレベルの雰囲気でした。シナリオは若干短く、それほど重点が置かれていませんが、それでもキャラの魅力だけでやる価値はあるかと思います。