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Narcissusさんのリアル妹がいる大泉くんのばあいの長文感想

ユーザー
Narcissus
ゲーム
リアル妹がいる大泉くんのばあい
ブランド
ALcotハニカム
得点
90
参照数
311

一言コメント

軽さと重さのバランスが良いシナリオ。読み易いテキスト。ただし短め。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

以下は勝手な内容読解が延々続きます。




ヒロイン3人の個別シナリオは長さにばらつきがあったように思うが
それぞれには主題があり、異なる立ち位置から家族関係を描いている。

美紀の場合は、いずれ兄の傘の下から離れていく「普通」の兄妹関係を。
麻衣の場合は、恋愛的な愛を越えて双方向性を持つ家族の愛のあり方を。
栞の場合は、「愛し合う」兄妹を通して家族関係における血と時間の重みを。
ただし麻衣と栞のシナリオは相互補完的で、両者は重ねて読むことになる。

「時間」、つまり「記憶」の重みは麻衣の消滅によって印象付けられる。
記憶が消えて関係性が断たれてしまうもう一人の妹とは異なり、
積み重ねられた時間があるもう一人の妹とは遠く離れても繋がっている。

「家族」とは築けて来なかった関係性は、舞という奇跡の現れで
再構築(再構成)の可能性へと導かれる。
麻衣は決して目立たないが、むしろそれゆえに、たった一触れがあるだけで
人と人とのすれ違いは解決に向かえること示す役を担っている。
「麻衣が来て家の雰囲気が良くなった」
それが全ての鍵で、それだけで全てが解決されてゆく。

神がいて、奇跡も起きるのがこの世界。
舞が新しい家族に抱いた夢が叶うことで
麻衣という家族が加わることが奇跡なら
人と人とが家族であるのは奇跡ということだ。
それに気付いた彼女は元の家族の元へ帰って行く。
麻衣の1ヶ月は「当たり前」の大切さを自覚するための旅だった。


古賀が主人公たちに妹がいることを羨望していた様子は、そのまま、
家族を持つものに対して家族を持たないものが向ける目に置き換えられる。
決して妹だけを特別に羨むことはない。
家族を大切に、家族に感謝を。


ただ、自分の事を皆の記憶から消すという酷な処置を麻衣に望ませるのは
人間関係というものは時間をかけて共に築いていくものだという川原での
会話の趣旨からすると受け入れにくい。
この辺りは栞と麻衣のシナリオを分けて考えるべきかもしれない。


エピローグからタイトルへの流れは綺麗だった。
エンディングとオープニングが「繋がっている」というのは
この人たちの明るい未来を象徴しているようで良い。
同時に、愛し合う兄妹にはまだまだ波乱も待っているだろうけど。