広げた風呂敷をたたみきった良作。家族とは何か、永続性とは何か―
Exodusについて
前作は、歪んだ世界の中で樹が家族をどういうふうに観ていくか、というテーマだったのに対し、
今作は、なぜ世界が歪んでしまったのかに焦点が当てられている、言うなれば解答編のような
もので、空を掴むような不安定なものから地に足のついたものとなっている。基本的には琴子・
ギズモルートの続きのような状態から始まるのだが、途中で樹が違和感に気付き・・・という話。
音楽がいい。いつまでも聞いていたいような懐かしさがある。
同じ顔同じ声でも場面によって中身がコロコロ変わるので、それを演じきっている声優さんはい
い仕事をしてます。とくに電卓さん。
前作攻略は必須。というか最初からやり直した方がいいと思う。何気ない言動や設定が伏線とし
てかなり残されている。前作も今作もそれほど尺はないし、読みやすい文章であるものの、主人
公や視点、世界がコロコロ変わるので読みづらいかもしれない。最低3周は必要、だけどそれが
苦にならない。むしろ、終わった瞬間にまた初めからやり直したいと思わせるほど引き込まれた。
前作に引き続き量子論と分析哲学を基にして、東洋・西洋の倫理的価値観や民俗学・地質学など
も取り入れている。とくに十の災厄と過ぎ越しの儀式、出エジプトから約束の地に至るまでの解釈
のしかたが面白い。始原の杖!
大きなテーマは家族について。ギズモが言うチューリングの反応拡散方程式とは一体何を表すのか。
樹の家族に対する見方だけじゃなく、家族それぞれ(猫も含む)の思いが一つの家族を作っている
こと。家族は揺るがないということ。ところで、研究に没頭していく中で、娘は不治の病で死に、残さ
れた家族もグレたりひきこもりになったりしていく中で男は何を思ったのだろうか。電卓さん・・・
なぜ樹が観測者に選ばれたのか。
琴子の不治の病とは何か。
3本の鉄塔とシンクロトロン研究所のあった公園は何なのか。
そして、システムとは何なのか―
無印から改めて周回してみて、膨大な知識量と多くの伏線はもちろんのこと、緻密で矛盾のない設定に
は本当に驚かされた。後半の伏線が次々と回収されていく展開は圧巻だった。前作だけでは意味が分
からなかったが、前作と今作を合わせればほとんどが納得のいく形で説明されており、繰り返しやること
で新たな発見が出来るという恐ろしいゲームだ。そのために前作の尺をあえて短くしたのだろうか、とさえ
思ってしまう。前作で投げてしまった人も、ぜひExodusをやってほしい。
区切られた時間は常に人間を急き立ててくるが、本来の時間は永遠を意味する。猫撫ディストーションというループから抜け出すのに1年以上かかってしまったが、今でも最初にこのゲームをプレイしたときの衝撃は
色あせることはない。そしてまたこの心地よいループに戻りたくなる時が来るのかもしれない。