エロゲー=実用という図式を根本的に破壊するゲーム。
現実感だとか合理性というものはもとからある程度捨ててかかったほうがよい。
「雪の降る町」を舞台に起こった幸せな一つの”物語”だ。
その源は一人の少女の生命の力であった。
あるいは少女の見ている”夢”だとでも言った方が適当かもしれない。
気の利いた寓意・奥行きのある世界、そんなものはどこにも無い。
小さな人間ドラマですらない”物語”に意味や価値を求めるのは無粋というものだ。
「好きな相手の為に泣く」というのは古今変わらぬ恋愛の美学である。
それを大々的にアピールした大衆娯楽劇とでも考えておけばよかろう。
エロ描写の少なさも、いまどきの草食系男子なら割り切って満足できるに違いない。
名雪や栞が降りかかる現実から立ち直っていくシーンは本当に”奇跡的”だ。
多くの人はここで泣くのだろうか。
しかし彼女たちは自分で何かをしたわけでもない。
なのにああいう結果になることに私は素直にうなづけない。
終わりはご都合主義であってもよい。
だが、プロセスまでご都合主義なのはいかがなものか。
いいおとなが「みんなしあわせでよかったね」などと簡単には言えない。
しかしそう感じた瞬間、私はこの幸せな夢の世界の外に放り出されているのだろう。
難しいことを極力考えない。
それがこのゲームをたのしむコツだ。
会話が不自然だとか、アゴが不自然だとかそういうつっこみもしてはいけない。
とにかく素直に酔っておけばよい。
その限りにおいてはこれほど良くできた作品は滅多に無い。
音楽のチカラも相俟って、最後の瞬間には「アァ、よかったな」と思える一本だ。
(オススメ度…★★★★)