当初は殻や虚のように、CG書き直しとシステム面の修正くらいだと思っていたが実際はシナリオ、ボイス、CG、音楽、システム等多岐に渡る修正が入っており追加要素がかなり多い。特に、死ぬ道しか用意されていなかったヒロインの生存個別エンドの実装は18年前にユーザーが望んでいたものであり、それをこの業界衰退期に発売できたという奇跡。原作プレイ済みの身としてはこれだけで感無量。カルタグラ未プレイ勢にはいい布教になるし、プレイ済みの層に対しても満足のいく作品となっている珠玉の一品。
自分はPS2版しかプレイしていないが、そちらでは和菜・初音・七七を除いて個別エンドと呼べるようなものはなく、原作から追加されたエンドでは寧ろ死人が増える始末。
主人公がヘタレで推理面は七七任せ、戦闘面は冬史任せ、経済面は雨雀任せと全体的に味方頼みで本当に戦争を生き抜いた兵士なのかと言いたくなるスペックの低さ。殻ノ少女シリーズをプレイすると秋五のこのダメさ加減はむしろ愛嬌を感じるんだけどカルタグラ単体だと主人公としてはダメダメ。
しかし、本作においては凛・楼子・冬史に個別エンドを実装し、サクラメントでの和菜・由良のエンドも追加されている。
死ぬ運命しかなかったキャラを救出することで秋五にも見せ場が与えられ、ようやく主人公らしくなって来たと感じた。
シナリオ
基本的には原作と同じだが、PS2版の追加要素は一切反映されていない。
よって、初音死亡エンド、冬史死亡エンド、和菜死亡エンドなどのPS2版限定要素はなかったことにされている。
まあ正直これらは無くても支障がないので、別に気にならない。
しかし、これによって割を食ってしまったのが小雪と芹である。
原作だと千里教で売春強要された挙句由良に殺されてしまう二人だが、PS2では秋五が二人を救出するルートもある。ここが数少ない秋五の見せ場だったのだがこの場面もなかったことにされてしまっている。
なので本作においては終盤で目をくり抜かれた二人の死体を見るか、デブ爺に犯されてる二人を見た後に秋五が襲撃されてBADエンドになるかどちらかであり、二人の救済はなくなってしまった。
しかし、それ以外の加筆部分に関しては満足できるものとなっている。
凛・・・作中屈指の人気キャラだが原作では死亡確定。PS2版でも変更なし。和み匣では過去の回想が入るだけ、と悉く救われない。その挙句、本作では生きたまま目玉をくり抜かれるというとんでもなくグロいシーンを渾身のCG付きで見せられる。このCGが本当にエグくて目玉と繋がっている神経までCGに描写されているのは痛々しいことこの上なかった。イノグレはどこまで凛をいじめれば気が済むのだろうと思ったが、何とこの状態まで追い込まれながら凛は秋五に救出される。片目が空洞になっているCGもあってこれもまた痛ましいのだが、こんな状態でも地下室から生きたまま脱出するのだ。
隻眼で洋服の立ち絵が新規として追加されているが、和装以外の凛はかなり新鮮だった。
18年越しにようやく救いが与えられた瞬間である。
楼子・・・異国の血が入っているということで西洋的な美しさを持つ少女。幼いころに一度出会っている秋五と感動の再会を果たすものの、原作ではあっけなく殺された事実が語られるか、校門の柵に串刺しにされるかの二択でこちらも救いが無かった。
本作では、攫われそうになっている楼子を秋五が救出し、一端故郷の出雲に避難させて秋五と楼子が婚約だけしておいて、出雲で学業を修めたのちに数年後東京で二人が再開するという個別エンドが用意されている。
せっかく感動の再会を果たしたところ、即行で退場する彼女は見てて切ないものがあったので本当に救済されてよかった。
余談だが楼子の元の婚約者は天恵会の空木ということでシリーズの流れを意識した演出となっている。
また、パッケージ版の付属小説は秋五と楼子が出会うきっかけとなった出来事が収録されているので、由良を除けば様々な点で最も存在感が大幅に強化されたヒロインと言えるだろう。
冬史・・・原作では濡れ場のみで個別無し、PS2では個別エンドはあるがそれは由良に殺されるというものである。死なないし主に戦闘面で見せ場はかなり多いが、結局のところヒロインとしての扱いは凛や楼子と大差がなかった。
本作では、アトリエでの死闘で赤尾を撃破したのちに同棲状態となった二人が描かれている。
髪を切った冬史は天ノ少女でお馴染みであるが、それともまた雰囲気の違う立ち絵が用意されており新鮮でよかった。
情事の後のタバコを吸うCGが個人的にお気に入り。
相棒兼恋人という多くのファンが待ち望んだ光景が実現した瞬間である。
和菜・・・メインヒロインだから基本的には原作通りだが、サクラメントで和の妊娠~出産というルートが追加されている。
和は天ノ少女の付属小説で名前だけは判明しているが、ビジュアルまで公開されるのは今回が初であり、ファンとしては感無量。和菜に似た活発そうな少女であり、大方は想像通りだったが、やはり想像するのと実際に公式のビジュアルを見るのとでは全く違うものだ。
由良・・・今作のOPは由良をイメージして新装されたものであり、正史では和菜がメインヒロインだがカルタグラのメインヒロインはやはり由良だと思う。
そんな彼女はサクラメントの逃避行以外に二つのエンドが追加された。
海の影ではこれから生まれてくる自分の子供が秋五の愛を受けるであろうことに嫉妬し、身重のまま海に身投げするという由良の狂気の愛が炸裂する。非常に切ない展開だが由良という人物をこれ以上なく描き切った結末であった。
海の光では家族の愛をまともに受けてこなかった由良が意外にも我が子に愛情を注ぐことが出来て、ようやく人間らしさを得るという真の意味での救いを描いている。
サクラメントの逃避行エンドでは過去の罪に向き合うことよりも秋五の愛を受けることが大事という揺るぎない信念を持つ由良だが、海の光では自分の罪と向き合うために警察に自首し、刑期を終えて成長した娘と再会するというこれ以上ない大団円であり、18年を経てカルタグラという物語は真の完結を迎えたように思う。
エンディングで流れる娘の月子と由良のCGがこれまた美しくて最後まで魅入ってしまった。
CG
言うまでもないが、エロ、非エロ問わず美しすぎて惚れ惚れする出来である。
2023年現在、CGのレベルが高い作品は他にもあるものの、その多くはエロゲー業界であることを生かしたヒロインのエロさや可愛さを追求しているが、イノグレはこの流れから完全に逸脱し美術的な美しさを表現している点で同業他社とは異なっているように感じる。
今回は濡れ場をほぼカットした天ノ少女とは異なり、新規の濡れ場も追加するなど官能的な要素にもこだわりを見せているが、そのほとんどがエロさよりも綺麗さが前面に出ているものである。
楼子や由良の追加CGなどはその最たるものであり、情事の最中でも幻想的な美しさが描かれている。
数少ない例外として小雪と芹がデブ爺に犯されているシーンだけは抜きゲー的なエロシーンとなっているが、これを目当てでプレイする層が多いとは思えず、完全に作中の雰囲気から逸脱したものとなっているので違和感しかなかった。
既存のCGや立ち絵も手が加えられており、賛否両論だった天ノ少女とは一転した正当な進化を遂げたのではないだろうか。
システム
殻、虚、天、同様に次の選択肢まで飛ばす機能が追加されたが、フリック操作をしなければならない理由がよくわからなかった。誤作動を起こすからそこは殻シリーズと同じ仕様にしてほしかったがまあ無いよりは遥かにいい。
音楽
新OPの孤独の海は由良の心情を表現したものである。
歌詞、曲、映像全てにおいて文句なしに素晴らしい。
他にも恋獄のサクラメントバージョンなど良曲が多数。
気になった点
数は多くないが、本編の終盤に誤字が集中していたから若干気になった。
サクラメントでも設けると儲けるが混同している箇所が一つあり。
それとボイスの中で妄執を「もうしつ」って読んでるんだけど作品の根幹テーマであることを考えるとこの間違いは致命的に思える。殻の少女ではちゃんと「もうしゅう」って読んでたはずだから制作サイドが誤認識しているわけではないと思うんだけど。
まとめ
新規勢にもお勧めしたいが、プレイ済みの人にももう一度やってほしい良リメイク。
人探しの依頼で荒田大作の名前が出たり、新宿の知り合いの探偵(玲人)の話が出てきたり、天恵会と千里教の関係にも言及されたり、天ノ少女で大出世した八木沼はカルタグラの時点ではむかつくやつでしかないことを再認識出来たり、シリーズプレイ済みだと色々と面白い発見があるはずなので。
あとは欲を言えば過去の回想がもう少し欲しかった。
楼子は小説で補完できたから満足だけど、これと同様のものが由良、冬史、凛、初音にも欲しい。
和菜は・・・あの性格なのでチョロインでもしょうがない。
天ノ少女で完結してどうなることかと思っていたが、まだ制作の余力が残っているようでとりあえずは安心した。
殻の少女にもいつか救済は訪れるのだろうか・・・。