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Medotsuさんの桜花裁き 斬の長文感想

ユーザー
Medotsu
ゲーム
桜花裁き 斬
ブランド
dramatic create
得点
90
参照数
123

一言コメント

幅広い展開を見せるシナリオ、物語を盛り上げる多彩な登場人物、紙芝居ゲーで止まらない斬新なゲームシステム、本編では無駄な寄り道はせず物語に集中させてギャルゲー要素は後日談に放り込む構成の妙、独特の舞台設定とそれに合わせた珍しい縦書きフォント、墨絵のようなCGで表現するバトルシーン、など他のギャルゲーでは見られないような新鮮な要素が目白押しであり、非常に創意工夫が目立つ作品。様々な要素を放り込んでいるのでかなり荒削りなところもあるが、ギャルゲーで多数を占める恋愛アドベンチャーが食傷気味な人には是非ともやってほしいとオススメできる。知名度がそこそこで埋もれ気味なのが惜しい作品。こういう挑戦はどんどんやって欲しい。

長文感想

舞台設定
江戸時代中期がモチーフと思われる。
結核を労咳と言ったり、石油を草生水と言ったり、将軍が葵家、歴代最高将軍が功宗、と随所に江戸らしさが表れている。
この設定を反映しているのか、フォントが縦書きだったり、BGMも和を意識させる曲が多い。
まずこの時点で掴みとしてはバッチリだった。

シナリオ
お奉行様になった主人公が様々な事件を解決していきながら、最終的には歴史を変えるような騒動に立ち向かっていく話。序盤の方では推理物として楽しむことができ、終盤の方では陰謀に立ち向かう熱い展開が楽しめる。
個人的には単話の事件パートがもっとあると嬉しかったが、シナリオに関してはほぼ一本道という特性を生かし、簡潔に纏められていたと思う。
こういった本筋が一本道の作品では無理に分岐させて個別ルートを作るという傾向が強く、そういう作品は大抵がメインヒロインは素晴らしいがそれ以外がイマイチという状況を作り出す物だが、この作品はそういった無駄な分岐がほぼ無く、本編とヒロインのルートを明確に分けているところが結果的に成功していた。
このシナリオモデルは割と画期的だと思う。

キャラ(ヒロイン以外)
この作品、登場人物が非常に多い。
ヒロインを除いても20人は余裕で超えるし、そのほとんどが事件に関わってくるのできちんと見せ場も用意されている。
さらに、犯人以外は後で再登場する場合もあるので、物語との関わりがかなり深く脇役も重要な役割を担っている。近年のギャルゲーはサブどころかヒロインすら1人というパターンが多く、盛り上がりに欠ける傾向にあるのでこれだけの人数が登場すると言うだけでもかなり凄いと思う。

キャラ(ヒロイン)
メインヒロインの3人は本編ではギャルゲーのヒロインとして役割を果たすことはほぼ無いが、メインの登場人物として物語を盛り上げる。そして後日談では打って変わって甘々な展開。
サブの2人も攻略自体は可能。しかし、こちらはメインヒロインのような甘々な展開では無く、しっかりとしたシナリオ展開なので萌え要素はそんなにない。しかしながら、メインヒロインに劣るかというと全くそんなことは無く、むしろシリアス路線な分、シナリオのレベルとしてはメインヒロインを上回る出来である。

平賀 理夢・・・からくり好きで天真爛漫な主人公の幼馴染。いつでも明るく元気に主人公の補佐をし、時には諫める事もある良き相棒。良き幼馴染ヒロインがいる場合、他のヒロインを攻略するのが申し訳なく思う物だが、理夢もまさにそれに当てはまるくらい健気なヒロインだった。
個別ルートの小細工無しの好き好きアピールが可愛らしい。

遠山 桜・・・物語中盤までは、こいつ大丈夫か?ってレベルのポンコツ。怪しい奴がいる=取りあえず有罪にして後で問い詰めれば良い、という短絡な思考の持ち主でこんな奴が奉行なんて出来る訳がないだろうと思うくらいウザいキャラに仕立て上げられている。しかし、あるタイミングで改心しそれ以降は活躍するという分かりやすい成長系のキャラ。男口調だが可愛い物が好きというギャップ持ちでそこが萌えポイントか?
恋人と言うよりは相棒ポジションの方がどうもしっくり来る。

河合 小梅・・・小動物系の癒やしポジション。SDキャラ絵でわちゃわちゃしてる場面が非常に可愛らしく、性的な魅力よりというよりも愛でる系の可愛さに秀でる。ただ、本人の感情表現がストレートなので恋人としても見ていて微笑ましい。あまりにも純粋無垢すぎて、エロに秀でるキャラでは無いからコンシューマー版の今作の方が健全で良いと思う。

沖田 紫乃・・・大抵のことに無関心なキャラ。個別で萌え要素もあるが、それはほんのオマケに過ぎず、シナリオ重視のヒロイン。と言うか泣ける話だった。メインヒロイン達とは毛色が違うがこれはこれで有りだと思う。

山南 彩花・・・シリアス路線その2。沖田よりも更にシリアスで切ない話。イチャラブがメインヒロイン、それ以外がサブヒロイン、と言うくくりで分けるなら確かにサブヒロインなんだろうけど分量では全く負けてないから実質全員がメインヒロインとみても良いんじゃないだろうか。

ゲームシステム
今作で一番の売りとなるところ。
エロゲ版逆転裁判と言われている所以でもあり、確かに似ている部分もあるが、逆転裁判は現代日本の裁判所で主人公は弁護士、桜花裁きは中世日本のお白州で主人公は奉行(裁判官ポジション)という違いがあるので丸パクリだとは思わなかった。また、状況証拠だけで進行し、決め手に欠けるシーンが多いのだが、科学捜査が発達していない時代が舞台だから状況証拠で進行するのもやむを得ないと考えれば多少ごり押しな場面があっても問題ないのかなと個人的には思う。捜査パートは同業界だと「イノセントグレイ」の作品も導入しているが、裁判パートは同業界だとかなり珍しいので、このジャンルに挑戦したその意欲が素晴らしいと思う。
まあ、正直犯人は割と分かりやすいケースが多いが、一方で証拠や選択肢の提示が言い回しとして分かりにくい場面が多いので、犯人は分かるのに奉行パートを満点でクリアすることが難しいというジレンマに悩まされたが、そこも含めて最終的には面白かった。

ネガティブ要素
1.誤字がやや多い。例として、
勘が良い→感がいい
意外と以外の使い分けが出来ていない箇所がある。
また、脱字があったり文字の順番がひっくり返っているところがある。
2.終盤の捜査パートで、ある人物を呼んでくるからしばらくたったらまた来てくれ、と言われた直後に「話しかける」コマンドを選ぶと、ある人物と即会話が出来るというシステムのフラグ管理が抜けてる箇所がある。

PC、PSVITA、どっちをやるべき?

PC版は18禁なのでエロがあるが、これが生きるのは理夢、桜、山南くらいだろうか。
ロリコンなら小梅もいけるかもしれないが、そうじゃない限りあまりエロの対象にならないと思う。
沖田はシナリオ展開的にあまりエロが生きないかなと。
だから上記の3人のエロが見たいならPC版が良いかな。
ちなみに自分はPC版は未プレイ。

一方でVITAは旅一座の話が丸々新規の話として追加されている。
これが無いと陰謀の事件まであっという間なので、個人的にはエロに特別なこだわりが無いならVITA版をやった方が良いと思う。

総評
年々挑戦的な作品が減り、ロープラでヒロイン1人、或いは分割商法で分けて発売、という作品が増えていく中で緩やかな衰退を辿りつつある今の業界に必要なのはこういうチャレンジ精神では無いだろうか?と改めて感じさせてくれる作品。確かに荒削りな部分が多く、まだまだ改善の余地もあるものの、挑戦しないことには何も生み出すことはできない。この作品の原作が発売したのは2017年だが、制作元の「IRODORI」は2023年11月に新作を発売予定。事前情報では、登場人物は40人を超え、主人公格の人物が8人もいるという凡そ今の時代ではまず見られないような作品とのこと。
6年たっても挑戦を続けるブランドはこれからも応援したい。