このシステムを96年に完成させているのが凄い。物凄く面白い「ゲーム」。2000年以降は紙芝居と揶揄されるゲームが増えてきたがある意味PC-98時代が一番「ゲーム」をしていたかもしれない。それだけに異世界編の作り込みの甘さが残念だった。現世編と同じくらいのクオリティなら100点に近い点数を与えられたと思うのだが。
かなり面白いシステムを導入しているゲーム。
あらゆる地点に宝玉を置き、何度も繰り返すループものの先駆け。
今でこそループものは色々とあるけど自分でここまで考えて行動するゲームは中々ないと思う。
それ故、現在のユーザーは面倒くさいと思うかもしれない。
確かにかなり時間はかかったが、その攻略の過程も面白いと思えるほどだった。
攻略難易度が高いと言われているがやる気さえあれば自力攻略は十分可能。
自分は攻略サイトは一切見ずクリアした。
・ルートとは関係ない1つの箇所が埋まらない
・ハンディコンピューターのパズル
・時計に埋め込まれた宝玉の解除
この3つのみ途中でつまりかけたが、一番上は総当たり、ハンディコンピューターは図を書き出し、時計の謎はタイトル画面で解決した。久しぶりにゲーム性のあるゲームを自力攻略できたから達成感が凄かった。
また、ゲーム性だけでなくシナリオも良い。
ループ物で一番有名なギャルゲーは現在シュタインズゲートだろうが、あちらは理系的なアプローチが多く、一方でyu-noは歴史や哲学的な文系的なアプローチが多い点で差別化されてると思う。
シュタゲのアニメも面白かったが元々文系頭の自分はyu-noのシナリオにかなり引き込まれた。現世編の三角山は一体何なのか、タペストリーに書かれた絵は一体何を示しているのか、などとにかく先が気になって仕方ない。
ここまでシナリオに引き込まれる事は久しぶりだった。
そしていよいよデラ=グラントに飛ばされてここからが本番かなと思ったから現世編とのあまりの格差に拍子抜けしてしまった。
A.D.M.Sシステムはなくなり単なるコマンド選択式アドベンチャーに成り下がり、展開は超展開&急展開、現世編で感じた疑問もすっかりしないままエンディングに移行する。
一言で言えば微妙だったなと。一本道のエンドだけどマルチエンド採用でも良かったのではないだろうかと思うし、現世編であれだくの世界観構築しながら異世界編は駆け足すぎな気がする。
例えばだけど三角山の地下の部屋で槍に突き刺された骸骨がいて、ここで何があったんだ?という疑問がずっとあった。
けどそれに対しては特に何も説明がない。ガーゼルの塔の下にある地下室だからあの監獄が風化した姿なんだろうけどなぜあんな狭い部屋に骸骨が押し込められたんだろう。それらしい出来事が異世界編で起きればリンクされるんだけど特になかった。
こんな感じで細かい伏線が回収されないというか描写不足というか。
聞いたところによると異世界編は納期の関係上あまり時間が取れなかったとか。勿体ないなと思う。
制作者が存命していればシナリオに手を加えられたかもしれないが亡くなってしまっているため下手にシナリオをいじることは出来なかったのだろう。
キャラについて
たくや・・・ギャルゲーは顔も声もない主人公が良くいるが、それだとキャラとしてイメージしづらいので声有り、顔有りの主人公というだけで良かった。普段はおちゃらけているが大事な場面はしっかりと決める人物。物語開始時点で非童貞であり、18歳にして一児の父になるという早熟な主人公。
美月・・・たくやの初体験の相手。龍蔵寺との情事もあり、元カレもいるなど年相応に経験してる大人の女性。どのルートを通っても死ぬ運命にあるという悲劇を背負っている。個別ルートもなく、不遇な扱いだがシナリオにいなくてはならない存在。
絵里子・・・学園の教師だが実際は別次元の人間。亡き恋人を想い続ける。打倒龍蔵寺の現世でもデラ=グラントでも重要な人物。
神奈・・・現世編の人物だがデラ=グラントのアマンダの娘であり、若い外見ながらかなりの長寿。人に知られないように何度も転校を繰り返し売春をしながら生活する孤独の少女。個別ルートがあるのだが異世界でたくやはアマンダと関係を結んでおり、実はたくやの娘の可能性が高い。近親相姦枠その1。
澪・・・全体的に大人びたキャラが多い中、恋に恋する少女という学園物のスタンダードなヒロイン。声優が釘宮、外見も好み、たくやのことが好きだけど素直になれずツンツンしてる性格などどれを取っても個人的にストライクなキャラ。現世編NO.1ヒロイン。本筋じゃないからおまけ程度だけど個別ルートもあり、純粋な恋愛ものとしては一番ヒロインしてるキャラじゃないかなと思う。
亜由美・・・ジオテクの海岸プロジェクトの責任者という歴とした社会人で、主人公の義母でもあり人妻なのだが自分のことを名前で呼ぶ、声が幼いなど年齢より幼く見えるキャラ。個別ルートの髪下ろしたCGの方が普段の立ち絵よりも遥かに可愛い。現世では超念石の発掘にかかわり、デラ=グラントでは神帝をつとめるどちらの世界でも重要なキャラ。バッドエンドでは豊富に寝取られ、リスカして自殺するという非常に痛ましい展開。
香織・・・ルートによって役割が全く違う。時にはたくやを裏切り、時にはたくやを助ける。ホテルで寝るシーンの事後描写があるが父親の広大とも関係を持っており親子で比較されるという何とも言えない生々しさ。
アイリア・・デラ=グラントの始まり。アマンダの姉。彼女の手紙を発見しなければたくやの運命もまた違っただろう。
セーレス・・・デラ=グラントでたくやが嫁にする言葉が話せない少女。言葉が話せないからこそ一つ一つの仕草が可愛らしく、儚げな雰囲気も相まってかなりの癒しキャラ。それだけにあの最期は辛い・・・。幸せな期間があるからこそあの落差は堪える。デラ=グラント編が一本道であることの不満の大半はここに尽きる。ユーノ含めた3人家族が幸せになるルートが欲しかったなと思う。
絶命の間際に言葉を発したのは巫女の資格を消失したからということでいいのだろうか?
クンクン・・・このゲームにカニバリズム要素があると言われる所以。大切な友の最期の願いは自分の肉を食べてたくや達に生き残ってもらうことだった。このシーンは極限状態では選択肢など無いという現実の厳しさを痛感させられる。
アマンダ・・・神奈の母親。物語終盤で次元の狭間に吸い込まれ現世に転移する。デラ=グラントでたくやと関係を結ぶ。これが神奈の父=たくや説の根拠。
ユーノ・・・物語開始からまもなく現世編に突如現れ、たくやとキスを交わすがそれ以降しばらく出てこないという大器晩成のメインヒロイン。現世編ではその一瞬しかでないしデラ=グラントでも途中で拐われてしまう。その為メインヒロインでありながら出番が限られるという異色のヒロイン。yu-noは有名なゲームだったから名前は知ってたけどゲームの内容は全然知らないままプレイしたからデラ=グラントで娘として生まれてきたときに、お前実娘だったのかよ!と驚愕したキャラ。しかもデラ=グラント人の特性で肉体年齢はすぐにたくやに追い付くから娘でありながら1人の女性であり、終盤では何とそのまま関係を結んでしまう。神奈も近親相姦枠といったがあちらは娘「疑惑」という逃げ道がまだある。しかし、yu-noは紛れもなく実の娘だ。抜きゲー以外で父娘関係が描写されることは通常あまり無い。世間的に背徳が強すぎてあまり一般的に受け入れられないからだ。そう考えるとナチュナルに父娘関係がシナリオに組み込まれてるのは凄いと思う。まあこちらはコンシューマーだからかなりぼかされてるしまだいいけど。原作だとモロの描写あるだろうから人を選ぶ気がする。自分は属性持ちだから特に気にならなかったしむしろよかったけど。生まれてから一緒に生活する描写もあるから娘としてもヒロインとしても魅力的なキャラ。
龍蔵寺・・ラスボス。実は思念体。現世でもデラ=グラントでも立ちはだかる。なお、本物の龍蔵寺は既にこの思念体に殺されている。名言はされないが龍蔵寺宅の骸骨が殺された龍蔵寺の成れの果て。
龍蔵寺の母・・・息子の様子がおかしいことに気づくがそれゆえに殺される。首吊りCGはマジでびびる。
豊富・・・クズ。アニメではこいつに似たキャラがデラ=グラントで登場するがそっちはいいキャラだった。
結城・・・おやび~ん。こんな呼び方するやつ久々に見た。澪の家庭事情をばらしてしまうが、それも澪への好意の表れであり根はいいキャラ。基本浮いてるたくやの回りでは数少ない男友達のようなポジション。まあ正確には後輩だけど。
広大・・・亜由美がいながら恵子をおっかけて異世界に飛ぶのはどうなんだ?と突っ込まざるを得なかった。シュタゲのオカリンは孤独の観測者と言われてるがこちらはブリンダーの観測者と呼ぶべき存在か。もやは概念のような存在になっている。
恵子・・・たくやの母親。巫女の力を持つがその力と引き換えに視力を失う。たくやもデラ=グラント人の彼女の血を引いているが肉体の成長は現世人と一緒。ハーフだから?しかしyu-noはデラ=グラント人の特徴が強く出ているしアマンダの娘、神奈もそうだ。男と女では血の引きかたが異なるのだろうか?
北条・・・神奈と深いかかわりを持つ興信所の調査員。ゲーム序盤でたくやの家に無言電話をしたのはこいつらしい。
デブ・・・デラ=グラントの監獄でムチ打ちを行うデブ。なんとなく憎めないキャラ。
総評
今もなお色々と考察が行われるくらいシナリオに深みのある作品。自分も物語の全てを把握できたわけではなく細かい部分は考察サイトを見て考えさせられた部分もある。
また、これは元はエロゲーだが純愛ゲーのように申し訳ない程度にエロがあるわけではなく、抜きゲーのように実用目的でエロがあるわけでもない。シナリオの進行上必要な場面として描写されている。
故に昔セガサターンで移植したときも18禁であり、本来は全年齢対象で移植するのはかなりきつい作品だったはず。
しかし、直接的な描写はないにしても「そういう事実があった」ということを上手く表現している。色々とカットしつつも必要なところだけは残した。この点に置いてかなり頑張ったと思う。
例として・・美月との情事を澪に見られるシーン、亜由美が豊富にやられかけるorやられてしまうシーン、神奈の売春描写、洞窟での澪の処女喪失シーン、香織とのホテルでの情事、セーレスとの子作り、アマンダとの情事、ユーノとの情事。全てテキストやCGで読み取れる。一本間違えると発禁になってしまうような絶妙なバランス。これ、ニンテンドースイッチでも移植されたみたいだけど果たして大丈夫なんだろうか・・・
相当完成度が高い作品であり、それだけに異世界編の作り込みの甘さが本当に勿体ない。
だが後世に残る名作であるのは間違いない。
こんな凄い人が晩年はアーベルでひっそり逝ってしまったと考えると悲しい気もする。
剣乃氏のご冥福をお祈りしたい。