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Lumis.EterneさんのUnder The Moonの長文感想

ユーザー
Lumis.Eterne
ゲーム
Under The Moon
ブランド
シュガービーンズ
得点
70
参照数
1765

一言コメント

男のケツから、乙女ゲーのエロさについて考えてみた。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

実はこの作品の感想を書くのは、これが二度目です。
最初の感想では、私が初めて“乙女ゲー”というものをやった時の驚きと戸惑いを中心に書きました。
その私の驚きと戸惑いの原因は、主に私が“乙女ゲー”というものに対して抱いていたイメージと、この作品の
かなりハイレベルな“エロさ”とのギャップなのでしょう。
実は私は、このゲームをやってからずっと、このゲームの“エロさ”について考えていたのです。
そして、最近そのことを考える手がかりとなることを見つけたような気がしましたので、再びこの作品の感想を
書くことにしました。

まず、本題に入る前にこの作品について、おさらいしておきたいと思います。
最初に書いた通り、この作品はいわゆる“乙女ゲー”と言われるジャンルの作品です。
乙女ゲーというのは女性を対象とした作品で、多くの場合いわゆる“ギャルゲー”の男女を入れ替えたような構造を
持っています。
つまり、“ときめきメモリアル”という作品を例に挙げると、この“ときメモ”の主人公を女性に、古式ゆかり
などの女の子達を男性に入れ替えると、乙女ゲーが出来上がるというわけです。
つまり、乙女ゲーというのは基本的に女性主人公が男性キャラを攻略するゲーム、と考えればそれほど外れては
いないと思います。
この“Under the Moon”という作品は、こういう物語です。

 主人公は、魔界のプリンセスであるアーシェという女の子です。
 彼女は、本来なら次期魔王候補でありながら、ほとんど魔力を持たなかったために
 魔王候補からはずされていたのです。
 そんなある日、魔界でクーデターが起こり父親である魔王が倒されてしまいます。
 このままでは、彼女も捕まって殺されてしまうでしょう。
 そこで、彼女は使い魔の男の子と共に人間界に逃れます。そして、魔王になるにふさわしい
 強大な魔力を持った男性を探し始めるのです。
 彼女は、その男性に夫になってもらい、魔界の王の座を取り戻そうとがんばるのです。

要するに、魔界のお姫様が人間界でお婿さん探しをする話です。
多くの方は上のあらすじを読んで実に“乙女ゲーらしい”と感じるのではないでしょうか。私もはじめは、そう思いました。
それまで、18禁の乙女ゲーなどやったことのない私にとって、乙女ゲーのイメージといえば“アンジェリーク”などでしたから。
ですから、実際にこのゲームをやっている女性が“少女”であるかどうかは別としても、この作品の構図は実に
“少女の夢の具現化”であると感じたのです。
しかし結論として、私のそんな思い込みは見事に的外れであったことを思い知ることになりました。
この作品は、当初私が考えていたような作品では、まったくなかったのです。私は、非常に驚きました。
そして、乙女ゲーというものに対する認識を新たにすることになったのです。
私が驚いたのは、主に以下の二点です。

 ・どろどろの愛憎劇や、まったく救いのない鬱展開、多少グロテスクとも言える表現があること。

 ・男性である私の目から見ても、かなりエロイこと。

このうち、私はこの作品の“エロさ”について考えてみたいと思います。


この作品は、男である私の目から見てもかなりエロイです。
私は当初、この作品の製作者は多分に男性の目も意識していたのではないかと感じたほどです。
つまり、男のエロゲーマーにも買ってもらいたいと考えていたのではないかということです。しかし、これは必ずしも当たって
いないのかもしれません。それは、この作品が本来の顧客である女性ゲーマーにも、おおむね好意的に受け止められているからです。
つまり、この作品で描かれている“どろどろの愛憎劇”や“鬱展開”そして“ハイレベルなエロさ”は、女性ゲーマーにも
受け入れられるものであった、ということなのでしょう。
つまり、ぶっちゃけてしまえば、この作品がエロイのは

 制作者がエロくて、ユーザーもエロイから

ということなのです。実に当たり前のことですが、このことは大前提としておさえておく必要があると思います。


私は先日、“へんし~ん ~パンツになってクンクンぺろぺろ”という作品の感想の中で、主人公が“モノ”に変身することの
メリットとして

 男のきたねえケツを見なくてすむから

と書きました。
あえて“きたねえ”と書いたのは、なにもこのケツが“ぶつぶつしてる”とか“できものができている”という意味ではありません。
つまり、プレイヤーからすれば男のケツなぞ見たくないということです。つまり、できれば見たくないものの象徴として、
“きたねえ”と表現したわけです。ですから、これはなにも“ケツ”でなくてもいいのです。背中であっても、太ももであっても。
多くの純愛ゲームにおいて、プレイヤーは通常主人公に感情移入してヒロインを攻略します。つまり、”主人公=プレイヤー”
であるということです。であるならば

 主人公のケツ = プレイヤーのケツ

なのです。よほどのナルシストでもない限りは、自分のケツを見て喜ぶ人は少ないのではないでしょうか。
また、男のケツにはもうひとつ厄介な性質があります。それは

 男のケツによって、肝心の女の子の体が隠れてしまう

ということです。
製作者やプレイヤーにとってはこちらの方が、より深刻な問題なのではないでしょうか。
多くのプレイヤーは、女の子の胸やお尻やあそこが見たいのです。その肝心な部分が、男のケツによって隠れてしまうとしたら、
男のケツなど、まさに厄介者でしかありません。だからこそ、製作者はいろいろと工夫をするのです。

 ① 女の子の体ができるだけ隠れないような体位ばかりを描く。

 ② 通常では考えられないような、極めて不自然な体位を描く。

 ③ エロシーンをアニメーションにすることによって、動きの中で見せていく。

 ④ エロシーンを3Dにして、視点変更ができるようにすることによって見せる。

 ⑤ 男性の体を輪郭だけを残しあとは透明化(半透明化)することによって見せる。

 ⑥ 男性の体をまったく描かない。

それぞれが、一長一短でどれが最善かということは一概には言えないと思います。
ただし、①や②のような方法では体位が限られてしまい、いつも同じような構図になってしまうという、いわばマンネリ化を
招く恐れは多分にあると思います。また②の方法は、場合によってはエロさよりも奇妙さの方が目に付いてしまうかもしれません。
私個人は③や④の方法は比較的良い方法だと思いますが、この方法はすべてのメーカーができることではありませんし、
場合によっては必要とされるマシンスペックが上がってしまい、結果としてその作品に対するハードルをあげてしまうことにも
なるでしょう。
⑤については、人によって感じ方は様々でしょうが、私の目には奇妙さの方が強く感じられます。何か、透明人間としているような
感じ、とでも言いましょうか。
最後に⑥についてですが、たしかに男性の体をまったく描かないわけですから、当然女の子の体が隠れてしまうことは一切ありません。
これは、私には男女の性行為を見ているというよりも、むしろ“ヌードグラビア”を見ているような感覚に近くなってしまいます。
ですから、エロさという点では明らかにマイナスであると感じるのです。

このように、純愛系のエロゲーにおいてはまず第一に女の子の裸を見せることが最優先なので、男のケツの扱いについては
いろいろと工夫する余地があります。つまり、最悪まったく描かないという選択肢もありうるということです。

一方、この“Under the Moon”という作品は乙女ゲーです。当然、プレイヤーの大多数は女性でしょう。
であるならば、プレイヤーの関心は主人公のアーシェよりも、むしろ攻略対象の男性キャラクターにこそあるのではないかと
思うのです。ちょうど、多くの男性プレイヤーが“To Heart 2”というゲームにおいて、主人公よりもはるかに多くの関心を
“このみ”や“タマねえ”や“愛佳”に向けるように。

つまり、この“Under the Moon”という作品をはじめとする乙女ゲーにおいては、そもそも“男のケツを描かない”という
選択肢はありえないのです。なぜなら、プレイヤーの多くは極端な話“男のケツ”を見たくてこのゲームをやっているのですから。
もちろん、これは多分に比ゆ的な表現です。
そして、そういう観点からこのゲームのエロCGを眺めた場合、男性向けのエロゲーとは明らかな違いがあると思います。
それは、エロゲーにおいては多くの場合、女の子の姿が画面の中心にすえられ、男性の姿というのはたとえ描かれていても、
女の子の邪魔にならないように画面の隅に追いやられています。
それに対して、この作品では画面の中心にあるのは男性の姿で、しかも必ずといっていいほど全体像が描かれています。
その結果、エロシーンの構図は少し引いた視点、つまり男性キャラと女性主人公の両方が画面に収まるように描かれています。
この作品のエロシーンにおいては、性行為の全体像を描こうとしているということです。
これは、エロゲーがどちらかというと女の子のパーツ、胸やお尻やあそこに視線を集中させていくような構図をとることが
多いのとは対照的です。

実は、このような構図を多用する原画家さんがエロゲー界にもいます。私が好きな原画家さんの一人であるinoさんです。
inoさんは、ディテールを中心にすえた構図と男女両方の全体が収まる構図の両方を実にうまく使い分けています。
しかも、あまり不自然な体位を描くこともありません。
このように、プレイヤーが見たいものを十分に見せながら、男女の行為の全体像もきちんと描いています。
つまり、エロさを損なうことなくプレイヤーのニーズを満たしているということです。私は、このようなところにinoさん
という原画家さんの画力の高さを感じるのです。


この作品の主人公である“アーシェ”という女の子は、当然このゲームの主なプレイヤーである女性ゲーマー達が
感情移入すべきキャラとして設定されています。そのため、その顔のつくりは目が大きく描かれ、まるで少女マンガの登場人物
のようでもあります。この、“若干大きすぎる目”に違和感を感じる男性もいるかもしれませんが、そこさえ目をつぶれば
このアーシェという主人公は、男である私の目から見ても十分にかわいらしい女の子であるといえると思います。
これは、何を意味するかというと、女性が感情移入できる好ましい女性像と、男性から見てかわいいと思える女性像は
完全に一致しているとは言えないまでも、かなり重なっているのではないかということです。

一方で、この作品における攻略対象の男性キャラには、私は感情移入できませんでした。それは、数が多いということも
理由のひとつだと思いますが、最大の原因はこれらの男性キャラが、女性にとって理想化された男性像だということにあると
考えます。つまり、あまりにもかっこよすぎて逆に共感しずらいということです。
では、私はいったいどういう視点でこのゲームをプレイしていたかというと、多分主人公のアーシェという女の子の保護者、
もっと言うとアーシェの父親のような目線でプレイしていたと思います。
この作品は、基本的にアーシェの一人称によって語られています。このような作品で、アーシェ自身に感情移入しないとすれば
あとは架空の人物、アーシェの父親などに自分を託するのが一番しっくりくると感じたのでしょう。
さらに、このアーシェという女の子が世間知らずの箱入り娘で、しかも年齢よりもかなり幼く見えるということも
重要です。つまり男から見て、かなり保護欲をかきたてられる女の子だということです。
そして、ここで先ほどの“男のケツ”の話が重要になってくるのです。

純愛系のエロゲーにおいて、多くの場合“男のケツ”は邪魔者だという話は先ほど書きました。
しかし、純愛以外のゲームにおいては必ずしも男のケツは邪魔者とは限らないでしょう。特に、陵辱ゲーや寝取られゲーにおいては
男のケツは時として重要な役割を果たします。話をわかりやすくするために、ここでは寝取られゲーに絞って考えてみましょう。

寝取られゲーでいう男のケツとは、自分の彼女や妻を寝取る憎むべき男のケツです。決して、プレイヤーが感情移入すべき主人公の
ケツではありません。つまり、寝取られゲーの寝取られシーンにおいては、男のケツが描かれることによって、プレイヤーは
否応なく、“自分の恋人や妻を寝取る男”の存在を意識せざるを得なくなるのです。
つまり、男のケツが描かれることによって

 自分は今、このケツに愛する恋人(妻)を寝取られているんだ

という、“寝取られ感”が増大するということです。“こんなケツに寝取られるなんて!”
これは、当然その場面のエロさを増大させることにもつながるでしょう。
重要なのは、この点なのです。
先ほど私は、“Under the Moon”という作品を、アーシェという主人公の父親のような視点でプレイしたと書きました。
であれば、この作品における“男のケツ”は、“かわいい愛娘を寝取る憎むべき男のケツ”なのです。

 こんなケツに、かわいい愛娘がヤられるなんて!

ということです。
つまり、この作品は男性がプレイした場合は“潜在的な寝取られゲー”なのではないかということです。
しかも先ほど書いた、この作品のエロシーンにおける“男女の行為の全体像を描く構図”も、否応なく“寝取られ感”を
増大させているのです。
であるならば、この作品が男性から見てかなりエロいのは当然だと思うのです。男性プレイヤーは、延々とかわいいわが子が
どこの馬の骨とも知れん男に散々ヤられるところを見せ付けられるわけですから。

この作品の主人公であるアーシェという女の子は、幼い顔つきには不釣合いなほど大きな胸をしています。
また、この作品におけるエロCGもかなりハイレベルです。
エロシーンにおけるテキストも、かなりエロイです。
しかしそれよりも、男性がやった場合のこの作品のエロさの本質は、やはりこの作品が持つ

 潜在的な寝取られ

にあるのではないかと思うのです。


私は、この作品をかなり楽しめました。
皆さんも、普通のエロゲーに飽きたら気分転換にやってみてはいかがです?
そのときは、ぜひアーシェの父親気分で。