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LinさんのRewriteの長文感想

ユーザー
Lin
ゲーム
Rewrite
ブランド
Key
得点
95
参照数
1036

一言コメント

刺激的で新しく面白い作品でした。複数ライターにした判断は全く評価しません。そのためつまらない部分は無視できる量ではなかったですが、それでも買って損は無い作品だと思います。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

物語は、引き篭もりの子(人類)と親(地球)がテーマですよね。
財産を食い潰すか寿命で死ぬか、親がもう駄目だと思って子を殺すか。
死に方はともかく、引き篭もっているかぎりはいずれ死んで終わる悲しい結末。
もっと大きな選択をしなくちゃいけない。
母なる星と命運を共にして死ぬか、星を継ぐものとして宇宙に飛び出し、発展するか。
お前ら自宅警備はいいから外に出ろと。
私の命が尽き、死んで冷たい石の塊になるのは必然。
一緒に死ぬなんて親不孝もいいとこです。ファック!
私を大切に思うならすぐ巣立って行きなさい!そして生きなさい!

(「星を継ぐもの」というSFがありますが、Rewriteのテーマが気に入った方にはお勧めです)

刺激的で新しく、またスケールが大きく展開も速くプレイヤーを飽きさせず、伏線も放置せずきっちり回収して、
テーマもぶれずにうまくまとめられている非常にレベルが高い作品だと思います。
(音楽や雰囲気を含めた完成度ではAIRがまだ完璧だと思っています)
音楽は、タイトル画面関連の曲と1stOP関連の曲が卓越しています。
他はあまり印象に残るメロディーはありませんでした。
絵は、この人の原画は発売前はとても不安なのにやってみると安定している不思議。

複数ライターについては、
ロミオ氏が小鳥・朱音√・Moon・Terra担当。都乃河氏が静流とちはや、竜騎士氏がルチア√担当らしいです。
ロミオ氏と竜騎士氏はいつもどおりでしたが、都乃河氏の2つの√はそれぞれ違う雰囲気で書かれているように見え、面白いと思いました。
静流√はKEY的?あるいはロミオ氏的で、ちはや√は竜騎士氏的。
いちばん人に合わせようとしているのは都乃河氏のように見えました。
ロミオ氏は一人でシナリオ担当したほうがもっと良い作品になるだろうし、
竜騎士氏は良い作品になろうがなるまいが一人でやってた方が良いだろうし、
都乃河氏はまだ一人で書いて売れるような実力は無いように思いました。

ちはやとルチア√は未読スキップするレベル(そして未読スキップしても何も支障が無いレベル)
ちはやの方は個別入ったあたりから会話がちぐはぐで気持ち悪かったり
敵側の行動やセリフが夕方の子供向けアニメみたいに馬鹿丸出しだったりで、全然楽しくありませんでした。
都乃河氏のことはよく知りませんが、今の実力で厨二戦闘は書かない方が良いです。

ルチアの方は竜騎士氏お得意のホラー路線の途中まで、ごくごく最初だけ良かったのですが、後全部ぶちこわし。
一軒一軒ガラス壊して回るとかそういうのはいらないの。
ミステリーは破綻しているし、悩みも恋愛も幼稚だし、悪役はしょぼいし、戦闘は糞つまらない。
文章も、経験や勉強の足りない子供が背伸びして書いたようなものです。
ひぐらしは楽しい作品でしたが、その後仕事しすぎなのか勉強不足なのか停滞しており、粗製乱造が過ぎるように思います。
空想したり比喩や小手先の表現を変えるだけで目新しさも分かりやすさも出せますが、
ロミオ氏の「神樹の館」とか虚淵氏の「鬼哭街」のようなものは決して作れません。
竜騎士氏は少しペースを落としてだいぶ勉強した方が納得のいく作品ができると思います。

上の両√ともに、厨二戦闘あんなに書くならきのことか虚淵超えるくらい書いて欲しいし、
書けなくてあんな中途半端なものになるならまったく価値の無い文章の水増しでしかありません。
1番を超えていこうとしない、メタ的な停滞を見せられた気分です。
単なるチャンバラでも漫画やアニメなら「神作画!」と賞賛されもするでしょうが、文章で同じやり方は通用しません。
表現される戦闘は、概念を武器にした「会話」でなくてはなりません。
法廷ものや推理小説のクライマックスがそうであるように、そうした会話は知性によって成立するものです。
工夫もセンスも無い会話は、やはり盛り上がらないしつまらないのです。

静流√は好きなタイプのヒロインではないし、シナリオも普通すぎてどうということもないですが、
瑚太郎が小鳥に「静流とつきあう」と告げるシーンだけはとても良かったと思います。

小鳥・朱音√は声優さんにもキャラ属性的にも恵まれてずるいと思います。
小鳥は癒し系悪女的な優しい声がとても合っていて、化物語とかまどマギの声とはまた別で面白かったです。
そして泣きや叫びシーンがめちゃくちゃ上手い。
朱音の照れ隠しも良かったです。

Moonが最高でした。
篝(月)との息の長い対話と触れ合い、高次概念の探索、シムアース。
「ゴキブリ、いらないですよね」は名言。
背景も場所も変わらないのに、素晴らしい、こんなに面白い。
最後の戦闘シーンはどうでもよかったです。
生命の設計図に「いつかまた君に逢いたい」という言葉を織り込んだのは、それが愛の概念だから?
孤独と希望を同時に与える言葉。
地球外に灯火を置くこと。星の海の向こうに目印。地球上にあるいのちがすべてではない、という認識。

Terraは俺たちで生き残ろうぜ、という伏線回収√です。
江坂さんの短い演説では、ガーディアンの精神が語られました。
環境破壊をする人類を悪と見做しながら、それでも生きるために反抗する。善の理念では成しえぬことを成す、と。
ガーディアンは人類を愛し、生きることに執着し、結果的に地球を敵とみなした者たちでした。

終盤の井子さんの子供殺しの話は暗示的です。
「一生変わらないなら、死ぬことは救済かもしれない」、と。鍵が起こす人類の滅びも、救済と呼ばれるものでした。
彼らは生きる気力を失い、人より自然を愛し、地球に運命を委ねることを唯一の希望とし、結果的に人類の敵になった者たちでした。

しかし、反抗か従属か、態度に違いはあって敵対はしていても、同じく根底ではこう考えていたと思います。
「人類は自然を食いつぶすだけの貪欲で汚いゴミ虫であり、地球上で際限なく増殖する癌細胞だ」と。
人類も自分たちのあり方も否定し、卑屈に縮こまって、生きることを後ろめたく感じていました。
親の心子知らず、です。
当然、母である地球はそんな子を見て喜びはしません。
命を弄び、地球を枯死させても、停滞を悪とし、前進を善とせよ。私は人類を肯定する。胸を張って前へ進め。
母に嫌われてると思ってたら全力で応援されていた。
そういうことだと思います。

良い記憶の意味が分かって、過酷な淘汰が始まって、それでEDのcanoe。
あの歌、特にあの歌詞は泣ける。
その歌を聴けばその作品を思い出す、みたいな幸せな関係。素晴らしいテーマとの一体感。
麻枝氏の書く物語は個人的に当たり外れがあるけど、歌詞や曲はかなり好みです。
読後感も良く、久々に堪能しました。


最後に、超人、魔物使い、リライター、って何だろう?と考えてみました。
基本的にすべて自分のアウロラ(=自分の命)を使うことが出来る能力を持っているところが特徴。
命を削り、命を燃やすってことですね。
その能力は先天的な才能と、後天的な知識および技術に由来するものです。
超人と魔物使いはそれなりに多く、リライターは爆レア。

「超人」とは一種の天才。アウロラ(自分の命=寿命)を自身の肉体を介して行使するエキスパート。
自分を変える意志を能力に。でも(基本的に)何か一つに特化している不器用な人。

「魔物使い」とはアウロラを使用する能力者にして技術者。アウロラを物質に行使して変貌させ、使役する。
世界を変える願望を能力に。ドルイドもこれ。この技を物質と生命の曖昧な境界に使っちゃうやばい人も時々いる。

「リライター」とはアウロラ使いのスペシャリスト。人類の突然変異種にしてニュータイプ。一段階上。上位互換。
”地球のアウロラ”ともつながり、履歴を参照し、DNAを書き換え、過去に存在した全ての生命の到達点を模倣し再現できるもの。
アウロラスペシャリストにとっては物(例えば血とか)も自分自身も区別なく同じように操作できる。器用な人。

「魔物化リライター」とは、超凄い便利な道具。アウロラを現象へと、最も効率よくかつ自在に変換できる反応器。ドラえもん。

ガンダム断片的にしか知らないけど、ニュータイプ同士は分かり合えるとかそういう名台詞があったような。
同類の主人公と咲夜が何かにつけ繋がっていたのはそのためか!?


あといろいろと過去のKEY作品へのオマージュみたいなのがありました。
KEYのファンタジー世界をオカルトで解釈しようとしたのだと思います。
超人、魔物使い、リライター、アウロラという要素。

あの人はどう見ても魔物使い、に見えてリライターかもしれない。
あの後どうなったのか?いつか生命力を使い果たし、樹になって、その後誰かに魔物として召喚されたりしたのでしょうか?
こちら側でなくて、あちら側に近い存在。星の神霊。アウロラに繋がる鍵。大地と人、母と子をつなぐもの。
てか、あの作品で例のメッセージまで読んだ人には分かると思いますけど、まんまですね。

自動的に結ばれる契約と、契約を介してなされる記憶や生命力の授受。
街を魔物として構築する、とか。

人間でないリライターがいた、かもしれない、とか。