ここ数年では一番良かったかな
本作をちゃんと理解できてる自信はないですが、最初から最後まで終始楽しくプレイすることができました。こんなに熱中してプレイさせられた作品はほんと久しぶりで、プレイ後も丸1日ずっと余韻に浸ってしまうような、そんなすばらしい作品だったと思います。
序盤のテキストがどうのって感想が多いようですが、体験版で既読の部分もスキップせずにもう一度読んでしまうくらい私には面白く感じました。
個人的に残念だった点をあげるとすれば
・藍の個別√の尺があまりにも短かったこと
・選択肢の使い方をもうちょっとどうにかできなかったのか
ってことくらい。
選択肢に関して、とくに一番最初の稟・ 真琴の2つにルートが固定されている時の選択肢の使い方に違和感を覚えたものの、これはV・VIと最後までやって納得。
I~VIまで章番号ふられてますが、これらは時系列的につながっているものではないですよね。IVは草薙草薙健一郎に関する前日譚だし、Vは本来IIIに当たる部分。しかもそれは、IIまでで誰の個別エンドにもいかなかったルート、つまり普通の作品だったらバッドエンドとかいわゆる雅史エンド(本作キャラでいえば圭エンド)とかになるであろうところの先を描いた部分なんですよね。
そんなバッドエンドであるVをあえて最後に持ってこさせるために、本編(?)では誰ともフラグを立てない選択をしたときに稟ルートに入るようになっているのだなーと。
(とはいえ、この作りで稟ルート最初が推奨っていうのは問題がある気がしますし、V・VIとせずに本編での選択の結果こう進ませるようにした方が更に良かったのではないかという気もします。)
そして、稟ルートの最後で思わせぶりに書かれていた、後に読むことができるであろうトゥルーエンド的なものは、そういう経緯でしか辿りつけず、こんな結末になってしまうものなんだなーと考えてまうと、複雑な気分になりました。
VIはそんなVから続く話ではありますが、作品全体の前日譚であるIVの対として描かれているからもわかる通り、決してバッドエンドではないわけです。むしろ、IVの後に起こった本編I~IIIのような未来がこのVIの後には待ち受けているのではないか。そんな期待を抱かずにはいられない、たいへん後読感の良いエンディングだったと思います。
雫ルートで稟が直哉のことを「櫻の芸術家」と称した理由が述べられてるところがあり、そこで直哉の才能には桜のようにどんどん散っていくよう儚さがあると言っています。確かに、本編ではそうした様が描かれています。しかし、咲かないはずの桜を咲かせた千年桜の伝承が象徴し、また本編で幾度か出てくる「今年の桜は~」という場面が暗示しているように、桜は時期を経れば再びまた咲くものでもあるのですよね。この「櫻の芸術家」という言葉にそういう意味も含まれていると考えれば、この作品はたしかにこういう形で終わるしかないのかな、と。
ずっと待ち焦がれていたようなファンではないというのもありますが、発表当初の予定で発売されていたらこの作品の良さをちゃんと味わえていなかったように思うので、個人的にはこのタイミングでこの作品と出会えて良かったです。