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KetTさんのソーサレス*アライヴ! ~the World's End Fallen Star~の長文感想

ユーザー
KetT
ゲーム
ソーサレス*アライヴ! ~the World's End Fallen Star~
ブランド
Fluorite
得点
71
参照数
313

一言コメント

こちらが見たいものというより、ライターが書きたいものを書いたという作品。部分部分で見ればよく出来ているが、一本通した上で振り返ると粗が見えてくる。『こういう展開を書いてユーザーにこう思わせたい』という感情の導線も気遣いが足りず、意欲作としては評価できるが良作と呼ぶには届かなかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Fluoriteさんのソーサレス*アライヴ。本ブランドは初プレイ・・・というよりブランド処女作なのでしょうか?メーカー事情は詳しくないのでよくわかりませんがともあれ初プレイとなりました。
まぁーよく練られた作品で、箇所箇所を切り取って見ていけば様々な表情を見せてくれるゲーム。ライターのやりたいことをやり切った作品といった感じでとりあえずその意欲は褒めるべき点と言っていいでしょう。
ですがそれゆえの粗さは目立つ。
多すぎるので細かい指摘は下記の項目別に記載しますが、一番気になったのはユーザー目線の大目標がコロコロと変わる点。事前情報から様変わりするゲーム内容に「果たしてゲームの売り方はこれでいいのか?」という疑問すら浮かぶ。
主人公にあまりいい感情も抱けず、ゲーム全体の構図がわかる終盤において「なんでこうなってしまったんだろう」という主人公の慟哭と図らずも心情がシンクロしてしまったのはなんとも皮肉に思えてしまった。
2018年キャラや学院長・美由紀とのエロなし(ユーミはユーミです)ハーレムなしという大多数が抱いた?であろう期待に応えることもなく、また必要以上の悪印象の植え付けなどユーザー心理の導線も首を傾げる箇所があり、残念ながらそれほど良い印象を残したゲームではなかった。


・ゲーム構成とソーサレス編について
本作ストーリーは、異世界転生した少年が元の世界に帰るためにスポーツチームを優勝に導く。。。かと思いきや、仲間が殺しあう政治的テロが起きるのをタイムリープして阻止する。。。のでもなく、マザーストーンの支配から人類を開放するお話。
訳がわかりませんね・・・一応根っこはマザーストーン一本で繋がっていることが最終盤にわかるものの、それまではユーザー目線から見えるゲームの大目標がコロコロ変わるので着地点がどこなのか迷子になる。
公式サイトや販売サイトでの文言やあらすじを見ても明らかに魔法を使ったスポーツモノとしか捉えられず、途中からキャラが殺しあったり実は人類は捕食されていたんだー!みたいな展開の広げ方は果たしてどうなのかというところ。
2018年キャラはゲーム開始後にいきなり退場となるので、ほかの異世界モノよろしく帰還が目的なのかと思えば実は地続きの現代でしたというひっくり返し方は「実はもうみんな死んでます会えませんし可能性はありません」と宣言されたようなもので、驚きより不満の方が正直強かった。
異世界だからと飲み込んできた無理矢理な設定(食文化など)も結局そこでぶり返すことになってしまい、それも作品の質を落とすことに一役買ってしまう結果に。

アライヴ編については次項に纏めるということで、まずはソーサレス編。
昨今見飽きた異世界モノの設定をなぞりつついろいろな伏線をちりばめながらも、レイヴに懸ける少年少女の青春にスポットが当てられており概ね感触は良かったように思います。
お話のまとめ方も、元の時代に帰るより大切な人と一緒に居ることを選んだかと、それも一つの生き方だなとこの時点では決して悪くはない感想を抱く。
総じて当たり障りない出来で、特筆する部分もないものの期待したものはとりあえず出してくれたといった感じ。それゆえに結果的に壮大な夢オチになってしまったのは残念。
ゲームなんて本作に限らず個別ルートはほとんどIFだろう、と頭では納得しているものの認識の上では好きなキャラと添い遂げるのを正史としたいのがユーザー心理であって、ゲーム内で『どんな未来もその後例外なく悲劇に見舞われます、その上それらは全て可能性の夢でした』を明言されるのはなんとも釈然としない後味の悪さが残った。
もちろんソーサレス編あってこそのアライヴ編な訳ですが、そのあたりは次項で。


・アライヴ編とストーリー総括について
正直不満が強かったこのアライヴ編。こんなひどいハーレムルート見たことない。。。というより実際はハーレムルートではないのでしょうね、終わり方を見る限り。じゃあハーレムルートなんて言うなよ!って話で。
ソーサレス編で頑なに拒否したハーレム展開。なんでコイツこんな恵まれた環境なのにそんなにハーレムを拒絶するんだろう?とも思っていたので、いよいよ本丸が来たか!と思ったのですが結局そんなこともなく・・・という消化不良。
嫌でもハーレムを進めざるを得ない土壌が整備されていたので、結構まともにハーレム路線で行くんだろうと期待してしまいました。ヒロインと心を通わすのを「攻略」とゲーム感覚で言っている事に嫌な予感がしていたら正に的中、という感じ。
てかそもそも無色の魔力なんて便利設定あるんだからみんなとエッチしてラスボスに立ち向かうんじゃないのかよ!と。ここで使うための設定なんじゃないの?そのためのハーレム展開なんじゃないのかよ!?と。。。ソーサレス編が振りになるんだろうと思っていたプレーヤーはきっと私だけではなかったことでしょう。

『心を通わす=ホウセキに触れる』となるのも疑問。
一応ソーサレス編でホウセキは使用者の心と密接に繋がっているという説明はあるものの、触ろうとすると変態!と言われるのは納得がいかない。そうまで言うならそのキャラの胸に触る、そのキャラとエッチすると心を通してホウセキとリンクする、とかじゃダメだったんでしょうか?ホウセキを触ろうとすると罵倒されるこの辺の感覚は最後までしっくりこなかった。
ソーサレス編から打って変わっていきなり殺し合いになるのも「?」が浮かぶ。なんでこんなことに。。。というのは正にこっちのセリフ。
学園編ではミアとユズリハが、落とし子編ではアキナ・アズーリア・リリ・ユーミが敵役として、、、だけならまだしも、凄い嫌な悪役として目の前に立ちはだかる。ソーサレス編でついさっき添い遂げた可愛いキャラたちのそんな顔を間髪入れず見たいですか?とライターに問いたい。
殺しあう運命にあるというだけならここまで悪印象にしなくてもいいでしょう。特にアキナがミアに「血のつながってない男にお兄ちゃんお兄ちゃんいうのは気持ち悪いと思ってたのよ!」みたいに吐き捨ててるのを見て正直うわぁ・・・と思ってしまった。
そのあとのユーミルート道中もそうですが、本作は必要以上にキャラに悪感情を持たせ過ぎていたような気がします。ライターとしてはここは徹底的にやりたかったということなんでしょうが、ユーザーはここに来るまで各キャラ純愛ルートを経てきているわけで、そこのユーザー心理には配慮があってほしかった。個人的にこの悪感情は終盤まで尾を引いたので、その後のキャラの印象まで少し変わってしまったのが残念。

グランドルートという締め方も冷静に考えるとこれベストエンドなのかな?、、、とも。
結局誰とも結ばれずに博物館館長となるコウキ。街中ですれ違う美由紀に似た子供。その横にはコウキではない誰か。
ああいう別れ方をしたので、てっきり今生又は来世のコウキと何かしら縁がある形で生まれ変わるのかと思ってましたし、そういう最後が見たかった。運命を解き放った・縁の連環から外れたということを表したかったのかもしれませんが、今後美由紀の魂に関わることなく余生を静かに過ごしていくコウキとコウキに関わることなく人生を生きていく美由紀の魂を思うと、さんざ足掻いて足掻いて足掻いて掴んだ結末の割にはなんとも侘しい幕切れだなと感じました。
ただ、VSユーミのラストバトルは特筆すべき良ポイント。
未来の記憶がみんなに流れ込んでくること自体には「?」が浮かぶものの、ユーザー目線からはまさしくソーサレス編での体験がここに繋がるので否が応でも気分が昂る。ミアが「バレルロール!」と叫んだ瞬間はちょっと泣きそうになった。。。
全編通してになりますが、レイヴやバトルに関する描写は十二分に満足のいく出来であったと思います。


・キャラについて
意外と主人公が好きになれなかった。
アホなミスを繰り返す割に変に察しが良かったり、人の気持ちにうじうじする割に自己犠牲に思い切りが良かったり。キモオタらしいと言えばそうなのかもしれませんが、そう言っておけば多少の粗は見過ごしてもらえると思っている製作者側の隙も感じる。
ロードに関しても終盤まで重要なことを黙っている徹底ぶりも気持ちが悪い。ミアと口論になる場面もミアの方に分があるとさえ思った。
あとコウキ自身に関しての設定もよくわからない。先の未来に生まれるはずの魂をロードの魔法で現代に引っ張ったことまでは理解できたけれど、その身体はどうした?と。学院長がこの時代に親はいないと言う分や美由紀がコウキの身体を作ってあげると言う分に身体は魔法で作り上げているものなのだろうけど、そうなるともう神の領域で魔法って万能過ぎない?っていう。
魂という設定そのものもそうなのですが、無理の出そうなところは都合よく『魔法』で片付けている強引さは少し目につきました。もちろんそういうものと言われれば納得するしかないのですけれど。

ヒロインで好きだったのはミアとユズリハ。と学院長・・・。(後述)
なのですが、ここもストーリーに組み込まれた悪印象が足を引っ張る。この二人が好きと言ってもテロ編の学園側で見せた二人の悪役ぶりがチラつき好感が削がれる。繰り返しになりますがここまで悪役に仕立て上げる必要あったのだろうかと思います。
ユズリハは特に、アキナを殺してるし何ならコウキも殺される。心根の優しい子というのは伝わってますが、やはりストーリーの都合に多少印象が引っ張られてしまうのは残念に感じました。


・エロについて(+学院長について)
前述の通り2018年キャラにエロがなかったのはちょっと期待外れ。
キャラデザやネーミングからしてそちらのキャラが思わせぶりに関連しているのは誰にでもわかることなので、ソーサレス編終了後に回想がオープンして1枠まだエロがあるということに「もしかして」と希望を抱いてしまった。。。まぁこの辺はそもそもヒロインとして紹介されてはいないので筋違いと言われればそうかもしれません。あったらもっと良かったな、程度の話。
ですが、、、美由紀と学院長にエロがないのは納得いかない・・・。一応ストーリー的にはユーミ=美由紀な訳ですが、見てくれも声もユーミならそれはもうユーミです。≠美由紀ということで、あれを美由紀のエロと呼ぶのは苦しいでしょう。
学院長に至っては告白めいたお誘いまであるのに断る徹底っぷり。前世が篤志でも現世の学院長は魅力的な女性なのに・・・!キャラデザがものすごく好みだったので断るなら最初からそんなやり取り入れるなよ…とすら思った。もう本当に残念です。。。
というかそもそも学院長=篤志というのもどうなのかというところ。
女体化がまかり通るなら美由紀のラスボスという役目は篤志でも良かったのでは・・・?とまぁ言い出したらキリがないですが、つまるところ学院長にエロが欲しかった、そのためのハーレムルートだろうに!という不満に帰結するといった次第です。


ということで諸々私情入り混じるレビューとなりましたが・・・笑、結局のところこちらが見たいと期待したものよりライターが書きたい内容に終始した作品といった感想。
ソーサレス編・アライヴ編と切り離して考えれば中々良く出来ていてそれなりに評価できるのですが、トータル1本で見るとお話を掻き混ぜたりキャラクターに要らぬ印象を抱かせる展開を入れたりと手放しに褒めるのも難しい。
こういう、展開をガラッと変えてくる作品はたまにありますが、それらが評価されている要因は主目的がブレないところやプレーヤーの心理操作の巧みさによるところではないかと個人的には考えています。
本作を見るに、スポーツモノかと思ったら世界を救っていた。。。という脈絡の無さや、強烈な悪役として立ちはだかり殺しあうヒロイン達など、『こういう展開にするとユーザーはどう思うか』という心理導線の杜撰さが目に余る。
もちろんダメな作品ということではなく、一本の作品にこれだけの要素を盛り込み一応破綻なく納めている手腕は評価されるべきであると私も思います。プレイしていて楽しいと感じる場面は一つや二つではなかった。
それ故に、世に良作・名作として名を残している作品との差異が際立ったというところでしょうか。意欲作としては評価できるけど・・・と感想タイトルで書いた真意はここにあります。
残念ながら絶賛するには至りませんでしたが、こういった意欲的な作品にまた出会えたらいいなと、そんな後味は残してくれた作品でした。