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KetTさんのまおてんの長文感想

ユーザー
KetT
ゲーム
まおてん
ブランド
CandySoft(きゃんでぃそふと)
得点
83
参照数
440

一言コメント

読みやすくテンポよく進む割に練られていて、良い意味で期待を裏切られた感じ。ただ細かい不満も多々あって・・・というのは詳細で。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

キャンディソフトさんのまおてんです。同ブランド作品はつよきすに引き続いて2作目のプレイとなりました。
良く出来ていたと思います。
テキスト感も軽くおバカなノリも随所に見られながらシリアスな展開も差し込んでいき、伏線・回収といった仕掛けも多々ありいろんな満足度に満ちている。まさにおもちゃ箱のような感じ。
反面、ライターの力不足と思えるようなミス(?)や物足りない部分がいくつか目についてしまったのでそこはわかりやすくマイナス評価。
ですが差し引いたとしても、十分にプラス評価のやって良かったと思えた作品でした。



・ストーリーについて
いやー、組み立てが上手いですね。
設定段階でいくつもの伏線が張ってあり、各ルートで明らかになる真実が変わってきたり終盤にかけてお話の見え方捉え方そのものが変わってくるのはすごいと思った。
作品自体、各ルートの3本+αくらいのボリュームかなと思ってたのでガッツリもう1本+αあったのは嬉しい誤算。しかもそこに向けて各ルートの要素がリンクしていく感覚はここ最近味わったことがないものだった。
そんなゲームだなんて思ってなかったよ・・・。
ギャグ要素もさすがといったところでしょうか。
しっかり笑わせてくれるし、なんならつよきすの設定まで持ち出すしでやりたい放題・・・だけれども投げっぱなしになっていないのはあくまで『まおてん』のキャラや世界に落とし込めているからでしょうか。
この辺のさじ加減と処理は非常に上手かったと思います。ギャグやパロディの部分で見ていて不快になる要素もありませんでしたし。
アフターストーリーは憎い演出ですね。そもそもあることも期待していなかったので、サブキャラとのお話を描いてくれたのはすごくありがたかったし、なにより本筋のその後という展開の仕方は良くやってくれたなと。
こういう見せ方はエロゲ全体を見回しても珍しい気がします。そこでネタバラシとなる要素もありますし、こういうおまけをつけてくれたことには素直に嘆息した。
個別のお話で良かったのはユリ姉ルートでしょうか。
やっぱり歳取ると親子の話に弱くなりますね・・・いろいろと考えさせられる描写があり結構胸に来た。
九条さんもね、一番救われているルートなんじゃないですかね?ラムが絡むグランドルートよりもユリ姉ルートの方が印象が良かったように思います。

とにもかくにも褒める内容が多いのですが、明らかなマイナス面があることも確か。

 まず全体として進行に変わり映えがない。
本作は特定の期間をそれぞれのヒロインで過ごすお話となるので道中似たような展開で推移していく。
前述のとおりルートによって明らかになる設定が変わってくるという仕掛けがあるので目新しさの工夫はされているのですが、毎度訪れるミルキーウェイダストの日は「はいはいああこれね」と思ってしまったし、蓮太郎をはじめとするキャラの設定をなぞる会話なども無駄に繰り返されている部分は多かったように思う。
 二つ目にカリンちゃんルート。
一番満足度が低かったルート。というのも全体的に中途半端で、委員長と敵対するのかと思ったらそうでもなく。。。というそれまでのユリ姉vsカリンちゃんを見てきているユーザーみんながおそらく期待したであろう展開を悪い意味で裏切ってくる。
いやそこで委員長を良い子ちゃんにしてどうするの・・・という今まで随所で見せていた黒い委員長は何だったかという設定のちゃぶ台をひっくり返してくる点はどうあっても擁護出来ないししようもない。
 三つ目はストーリー全体に言えることでしょうか、ライターのケアレスミスのようなものだと思うのですが、同じ説明が続けてされる箇所や展開の前後で言ってることが違う箇所がいくつか。
ライター寝ぼけながら書いたのか?と思えるほど「それ直前に言ったよな・・・」とバックログを見返し「確かに書いてあるわ・・・」となる箇所がある。
それだけなら単純にチェック漏れかなと思えるものの、ひどい箇所になるとその前に既に出てきてた単語や展開をキャラクターが忘れていて、初めて聞いたようなリアクションを取る。
話の整合性を欠く箇所が少なくない数見られ、どうしたらこんなことになるんだ?と首を傾げながら読み進める部分がいくつもあったのは非常に残念だった。

よく言われるハーレムルートに関してですが、これはあっても良かったのではないかと。魔王、なんて設定が出てくる作品ですからね、そのあたりの強引さがあっても作品に無理はなかったのではないかと思います。
最初サブのアフターがそれで、結局みんなと関係持っちゃってエッチしてないユリ姉がひとりぶちギレてオチつけるのかと思ってたんですがそんなことはなかった。笑

細かく挙げれば不満はちょいちょい・・・なので、もう一歩詰めが踏み込めていたら。。。というのが率直なところですね。
総合的には面白くて人に勧められる出来と言えるのは間違いないのですが、もう少しこうだったら・・・という不足があるのも間違いない、、、というのが本作に対するお話面での素直な評価。まぁ良く出来ているからこそとも言えるのですが。


・キャラについて
みんなかわいい(こなみ感)。
私的にヒットしたのは委員長。最初は全くノーマークだったんですけども、なんかあの声とあのしゃべり方とあのデザイン見てたらなんかムクムクと・・・。
前述のとおりこの娘にまつわるマイナス面もあったのですが、それはあくまで作品として。キャラクターとしてはとても満足でした。
他特筆すべきはヒル姉でしょうか。実はCVの桜川さんは個人的にあまり得意な声優さんではなかったのですが、もう耳馴染みのいいこといいこと。
素晴らしい演技力で、本当によくぞこのキャスティングをしてくれたなと。カタコト演技ここまで上手い人ちょっと知らない。。。
ヒロイン勢に関しては読み進めれば進める程「っぱヒロインは梨多よ!」となるのですが、ちょっと強引で不快に思わせられる部分があったのは残念なポイント。
蓮太郎曰く『梨多は一線は弁えている』そうですが、あまりに無謀であったり周りや状況を考えず自分勝手に事を進める描写が目立ち「本当に弁えているのか?」と思わされる部分がいくつか。お話の核を突いているにせよここは悲しいかなヒロインとしての魅力を削いでいた。
あと、プレイし終わった今でも疑問に思う箇所が。
ラム転生の時系列と命脈双一紋の設定の部分。蓮太郎といつ魔紋を結んだのかはやっぱりよくわからなかったし、蓮太郎が死ぬとラムはどうなるのかも謎のまま。
後者に関しては本人たちも未知という説明がクリア後に入るものの、じゃあ本編でクジョーがカルラを救うために蓮太郎を殺すつもりで撃ったのは何故?と疑問が残る。
そのあたりの事情をクジョーがどのように知り得て理解していたのかやその後のカルラの受け答えもそうですが、キャラクター間で把握している設定・常識・認識がプレイしているこちら側には伝わっていないので、少しモヤモヤしたものを感じた。
キャラは皆設定から粒立っていてよかったのですが、そのキャラクターの知識や思考の描写は全体としていくらか不足していたように思います。



ということで、概ねは満足点です。挙げた不満に手が入っていたら90点も狙えたかもしれない、、、と言ったら言い過ぎ?とにもかくにもそのくらい楽しくプレイ出来た作品でした。
またこんな感じの作品を出してくれたらなと思うのですが、どうなんでしょう?冒頭のとおりキャンディソフトさんのゲームはこれが2本目ですのでそのあたりはよくわかりませんが、またこんなテイストの作品が発売されたら手を出してみたいと思います。
確か去年末のセールで買ったんだっけかな・・・?なんだかんだクリアまで半年くらいかかっちゃいましたが、もっとやっていたいくらい幸せな半年間となりました。