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KetTさんの善悪の長文感想

ユーザー
KetT
ゲーム
善悪
ブランド
Waffle
得点
72
参照数
333

一言コメント

正しく名作になり損ねた作品。ストーリー本筋における状況・心情描写やヘイト管理は良く出来ているので、これならちゃんと『一つの事件』というリアリティを意識して描き切った方が良かった。抜きゲ特有の「しつこいくらい射精しないと客は納得しない」という行き過ぎたサービス感やゲーム自体のスタンスの置き方にも難があり、ポテンシャルは十分あっただけに勿体ない評価に落ち着いてしまったゲーム。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

Waffleさんのパッケゲーは初プレイとなります。ブラゲの方では少しさわったことのあるタイトルもあるんですけども。本作は「善悪」。
タイトルからして人間の深いところを抉ってくるような匂いがしますが、もしユーザーに何らかの問いかけをしたかったのだとしたらイマイチ、というところでしょうか。
それでもストーリー本筋においては状況・心情ともにしっかりと描写されているので、復讐モノとしてはまずまずの及第点ラインは越えてきていると見ていいと思います。
私的にはリアリティを持ってもう少し作り込めていれば化けたかなと感じたので、正しくなり損ねた作品というのが率直な感想。
あと、意外とエロが使えなかったのが残念・・・。


・ストーリーについて
大切な家族を死に追いやった相手に復讐する兄貴のお話。いわゆる復讐モノで、昨今ニュースを騒がせている『私刑』にも通ずるテーマです。
エロ要素で本作に興味を持ったので、いざプレイしてみて本筋の心情描写がしっかりしていたのは予想外の良点でした。
それ故に構図が本当に惜しい。
これだけちゃんと描くなら劇場観劇型か没入体感型かどっちかに完全に振るべきだったと思います。本作はそこが中途半端。
前者だとするなら雑な推理パートはいらないし、後者なら導入の描写をもっと丁寧に描くべきだった。個人的には前者として、プレーヤーの存在を完璧に削ぎ落し『篠木雅哉の起こした事件』として一連の出来事をリアルに描き切って欲しかった。もしそうだったなら名作と呼べたかもしれない。
と言いながらも不満点はそこだけではないので、あくまで土台はそれだけの可能性を秘めていたのに、というお話。詳しくは次項で。


・なり損ねた部分について
作品素体が思うより遥かに良かったので、こうだったらもう一つ二つ上のグレードだったなという不満点を列挙してみます。
まず上記の通り、観劇型か没入型かどちらかに極振りすべきだったこと。UI含め一見ホラーゲームのような演出も相まって、臨場感づくりは丁寧。
森を歩くシーン→廃屋外観→監禁部屋に続く扉を開ける主人公…と、ゲーム本編に入る前の雰囲気作りも◎。その点も主人公雅哉の事件をそのまま追ったゲームにした方が良かったと思う理由の一つです。

尋問/拷問については、悪い意味で抜きゲを意識しすぎたなという印象。
端的に言えば射精し過ぎ。この辺は現実的な回数に抑えて欲しかった。一人3発×4人分を毎日、ひどいときは更に+3回くらい出してて、「いやありえないでしょ…w」とゲームから集中が逸れてしまった。
挿入も早すぎた気がします。牧子以外は処女設定ということで、破瓜や中出しはかなりのショック行為になるはず。いきなり破っていったのは勿体ない。もっと焦らして。
拷問中のギャラリーの語彙が少なすぎるのも×。同じ内容がしつこいくらい繰り返されるのでゲームの意図とは別の意味でうんざりする。

CGについては、集中線などをこだわり演出にするくらいなら、拷問段階が進むにつれ彼女たちをボロボロにしていった方がよほどこだわり表現だったのではないでしょうか。
ひどい拷問を受けたのに次のシーンではツヤッツヤなのは、抜き要素に配慮したにしても違和感があり悲壮感がまるでない。ON/OFFでツヤッツヤ⇔ボロボロ切り替えられたら良かった。ついでに言うなら立ち絵にも変化が欲しかった。
と、書き出したらそこそこな量になりましたが。。。このあたりが丁寧なら個人的にもっと評価は高かった、というあくまで私見(重要)です。
ともあれ、表現は丁寧でポテンシャルそのものは間違いなく感じさせてくれたタイトルでした。


・キャラまわりついて
亜美がお気に入り。別に好感度上がる要素無いんですけどね(笑)、なんとなく見た目が好きというか。初心でイキった子ってそれだけでえっちです(偏見)。
ストーリーを通しては最後まで全員に断罪されるべきクズ要素を残したのは◎。こういった意図のある拷問において、される側が可哀想になってしまっては本末転倒なのでここに手抜かりがなかったのは褒められるべき点でしょう。
声優については、皆さま非常に技量が高く、これだけでもこのゲームに価値があると言っても過言ではないと思います。
ただ、美穂役の声優のシリアス演技だけはちょっとお粗末。演技レベルそのものが低いというよりかは得意な役柄ではないということなのだと思います。
最終的にリーダー役の美穂へとヘイトが向くということもあり、すました演技でやり取りするところなど、明確に他3人より完成度が劣っていたのは結構な残念ポイントでした。
余談ではありますが、妹ちゃんのエロシーンがありそうでプレイ中ビクビクしました。無くて良かった。。。


・EDについて
終わり方には賛否あるようですが、個人的には極めて残酷な終わり方に映りました。
最後に社長が言うように、主人公雅哉は鬼じゃない。鬼じゃないんですよ、根っこから狂った嗜虐嗜好を持った狂人じゃないんです。それなのに鬼畜の所業を易々と行えてしまえた。
その理由は、美穂たちが大切な弟と妹を奪った犯人であると確信を持ててしまったから。いうなれば責任の矢印は全てあの4人に向かっていたからこそ奮い立ってしまった訳です。
しかし社長と面会した時点では4人への裁きは明確に『終わってしまっていた』。仇討ちを終えたとなれば今後責任の矢印は本当の意味で自分に向かっていくのでしょう。真面目な彼はきっと二人を守れなかった自分自身を攻め続けることになる。

尋問中彼は事あるごとに口にします。「罪は裁かれねばならない」と。これは雅哉本人も例外ではありません。
拷問中の「自分も無事で済むとは思っていない」という発言や、最後のモノローグ中の「裁きは終わった、自分以外は」という言葉からもわかる通り、彼は自分が成してしまった罪の重さをちゃんと認識しています。そして正当な『裁き』も望んでいる。
彼の言う彼の『裁き』が、服役することなのかそれとも4人の関係者からの報復なのかはわかりませんが、いずれにせよ無罪放免になるということは裁かれる機会を永遠に失うということ。
一般に罪は罰をもって区切りとなります。
今後決して清算されることの無い大きな罪の意識と家族を守れなかった後悔・責任に苛まれながら生きる目的の無い現実を一人歩かされるというのは、考えうる限りこのお話においては一番酷なエンディングなのではないかと私は思っています。
もしかしたらこのエンディングこそが、ライターが篠木雅哉に与えた『裁き』なのかもしれませんね。


ということで、もう少しリアリティを出して描き切っていたら良かったなという作品でした。『善悪』なんていう大仰な看板を掲げるなら特に、ですね。
本レビューを書くにあたり、少し自分の中にある善悪について考えてみました。
法律で裁けない罪は悪ではないのか、彼のしたことは善なのか、もし捕まらなかったら彼の行いは悪ではないのか、無罪放免は本当に罪ではないのか・・・。
考えても答えは出ませんね。だからこそ考え続けなければならないのだと思います。
今回、ちょうど私刑が世間で話題となったタイミングでこういったゲームがプレイ出来たことも個人的には収穫となりました。
善と悪って難しいな。。。なんてことを考えながら、本レビューはここまでに。